第20話 席替え、どうしてこうなった?

「席替えするぞー」

「「「「うぉぉぉおおお!!!」」」」


 先生の一言により、教室中で歓声が沸き起こった。

 この学校では、憂鬱な定期テストが終わる度に席替えをする決まりになっている。

 心機一転。まさにこの言葉の通りで、席替えを行うことで新たな気持ちや態度で勉強に臨むことが目的であった。


「さっさとくじ引きするぞー。一年の頃となんら変わりないと思うが、この箱の中に入っている四十枚の紙にはそれぞれ1から40の数字が書いてある。その数字と黒板に書かれてある数字を見てその場所に移動しろよー」


 先生は席替えの説明を終えると、1から順番に黒板に番号を振った席をどんどん書き始めた。

 窓側の一番前が1で、後ろにいくと数字が一つ増えていく。一番後ろまでいくと右の列の一番前に戻り、窓側のように数字が振られていくという感じだ。


「頼むから後ろの方になってくれ……!」


 元々の席は苗字の五十音順なため、俺は必然的に一番前か前から二番目となっている。

 その上、一年生の頃は一年を通してあまり後ろの方の席になっていない。

 だから今回こそは後ろの方の席になって、授業中は勉強なんてせずにボーッとしていたい!


「じゃあ出席番号一番の飛鳥馬あすまからくじ引きにこい」

「あ、はい」


 先生に呼ばれ、俺は教卓へ向かう。

 その間なぜかすごく視線を感じたが、今は後ろの方の席を引くべく神頼みをしているためどうでもいい。

 一番後ろの席になる確率は低い。それでも俺は絶対に引き当ててみせる!


「これだ!」


 先生にくじが入っている箱を渡され、俺は底の方にある一枚を手に取った。

 間違いない。これは一番後ろの席だと、神様が教えてくれたから。

 自分の席に戻り、恐る恐る紙に書かれてある番号を確認すると大きく『7』と書かれてあった。


「7番ってことは……もしかして!?」


 急いで黒板を確認すると、俺の引いた7番は窓側の席の一番後ろにあった。


「ありがとう。神様……!」


 周りの席の人が一度も話したことがなく、自分と馬が合わない人でもいい。

 俺はもう、一番後ろの席になれただけ幸せだ。


 ……と、思ったんだが。


「まさかこんな席になるとはなー」

「私と明沙陽あさひは元々近かったけど、飛鳥馬くんも近くなれてよかったね」

「ほんとだな。京也きょうやとも席近くなれてよかったわー」


 俺の目の前には、見慣れた二人が座っている。

 いや、どうしてこうなった?


「なんだよ京也、まさか嬉しくないのか?」

「嬉しいけど……」

「だよな!」


 普通に考えて、相当確率が低いはずだ。

 まさか俺の前の席が実莉みのりで、その隣が明沙陽だなんて。


「はぁ……騒がしくなるな絶対」

「いいじゃん。つまらないよりかはマシだろ?」

「まあな」


 一旦明沙陽から視線を外し、目の前に座っている実莉に向ける。

 すると実莉もちょうどこちらを見ていたようで、目が合ってしまった。


「……なんだよ」

「ふふっ。別に?」


 何かを企んでいるのか、ニヤニヤしながらこちらを見つめてくる。

 実莉の後ろの席。

 もし逆のパターンで俺が実莉の前の席だったら、絶対休憩時だけでなく授業中もお構いなしにちょっかいを出してきただろう。

 それは前の席でも変わらないかもしれないが……。


「? お前ら、見ないうちに仲良くなったのか? 一年の頃はあまり仲良くなかったような気がしたけど」


 俺が実莉と見つめ合っていると、横にいる明沙陽からそんな言葉が飛んでくる。

 完全に忘れていた。俺と実莉が実は結構な頻度で放課後一緒にいることは、このクラスの人たちは誰も知らないということを。


「ま、まあな。お互い明沙陽と親しいし、友達の友達は友達的な感じだよ」

「なるほど」


 明沙陽がバカでよかったと、心の底から思った。

 明沙陽はそれ以上俺たちの関係について聞いてくることはなく、その後は三人で楽しく談笑をしたのだった。



 放課後になり、俺は部活に向かうべく下駄箱で靴を履き替えていた。


「飛鳥馬くん」


 すると実莉がひょこっと姿を見せ、俺の隣に並んで靴を履き替え始める。


「ん?」

「これから部活だよね?」

「そうだけど、まさかまた練習見学したいとか言わないよな?」

「今日はすぐ帰るよ。ただ部活があるなら競技場まで一緒に歩いて、休みなら一緒に帰ろうと思っただけ」

「……そうか」


 どうやら部活があろうがなかろうが、どっちみち俺は実莉に捕まる運命にあったらしい。

 話している間に靴を履き替えた俺たちは、慣れた足取りで競技場へ向かう。

 実莉とはもう何回も一緒に競技場へ行っているため、むしろ慣れない方がおかしいだろうが。


「でもよかったぁ……飛鳥馬くんと席が近くなれて」

「俺は毎日のように何かされそうで、不安でしかない」

「え、ひどーい。飛鳥馬くんに私何かしたっけー?」

「怖いくらいにな」

「全然記憶にないけどなー。あーあー、あの席の近くに明沙陽がいなければもっといいのになー」

「なんでだよ」

「だって明沙陽、最近やけにしつこいんだもん。久しぶりに二人で遊びに行ってからかな」

「へー、結局遊びに行ったんだな」

「一応幼馴染だからね。まあ、私からしたらもう幼馴染なんてどうでもいいけど」


 明沙陽、まじで可哀想なんだが?

 好きな人に、もうどうでもいいとか言われてるんだが?


「今は飛鳥馬くんを落とすことで必死だからね」


 親友の幼馴染兼好きな人に惚れられている。

 今まで俺に近づいてきた女子のほとんどは、最終的に明沙陽を好きになっていた。

 でも、今回は違う。


「めっちゃモテてるイケメン幼馴染がいるのに、なんで俺なんだかな」

「顔は関係ないよ。飛鳥馬くんが飛鳥馬くんだから好きなの」

「……本当に意味がわからん」


 そして競技場の手前に来たところで、実莉は突然立ち止まった。


「前にも言ったけど、覚悟しててね。席が近くなった分、後ろの席で前にいる私しか見れないくらいに夢中にさせてみせるから」

「……はいはい」

「じゃあ、部活頑張ってね。また明日」

「おう」


 隣に明沙陽がいることなんて関係ない。

 隣に明沙陽がいても、きっと実莉は今まで通り普通に接してくるだろう。

 俺は今後の対応をどうしようか考えながら、背を向けて帰る実莉の後ろ姿を見つめていたのだった。

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