第5話 「俺が献立を作るのが下手なわけではない」

「終わった~。今日も疲れた~」

1日の最後を締めくくるSHRが終わったとたんに、橙弥があくびを交えた大きな伸びをしながら、そんなことを言っている。

「まだ月曜日だぞ?そんな調子で大丈夫か?」

「悲しいこと言うなよ。1日ずつ解放された喜びを感じていないと、俺はやっていけねぇんだよ」

その体質もどうかと思うが、俺も似たようなものなので人にあまり強く言うことはできない。俺も1日ずつ嫉妬の視線から解放された喜びをかみしめないと生きていけないからだ。

「まぁ、お互い頑張ろうぜ。それじゃ、俺は帰るわ。5大美少女様が、さっきからもの言いたげな目でこっちを見ているからな」

そう言い残して、橙弥は足早に教室から出ていく。残された俺は、さっと後ろを振り返る。振り返った先には、さっき橙弥が言っていたように、5大美少女もとい、幼馴染の5人が立っていた。

「虹ちゃん、一緒に帰りましょうか」

みんなの言葉を代弁するように、翠が言う。

「一応聞くけど、一緒に帰らないっていう選択肢は・・・・・」

「「「「「ない」」」」」

・・・・デスヨネ。

無残にも俺の提案は、満場一致で否決されました。これからまた、地獄を味わうことになりそうです。胃が痛くなりそうなので家に帰りたいです・・・・・。これから帰るんですけど。


6人で教室を出た瞬間から周りの視線が痛い。主に、男子からは嫉妬と羨望の2種類の視線(圧倒的に嫉妬の視線が多い)。女子からは好奇の視線を送られている。昇降口を出てからもそれは変わらず、むしろ視線が増えている。

「なぁ、あれって5大美少女だよな?」

「あぁ、間違いない。けど、一緒にいる男は誰だ?」

「さぁ・・・?」

(もういいよ、それは!朝も聞いたよ!デジャヴだよ!)

と、心の中でツッコみつつ、足を進めていく。学校から離れれば、視線も多少は減るはずだ。


「コウ、今日の夕ご飯はどーするの?今日も作るんでしょ?」

帰り道、学校から少し離れた大通りまで来たあたりで、白亜がそんな風に聞いてくる。

「そうだなー。みんなは希望はあるか?」

「回鍋肉」と朱莉。

「肉じゃが」と蒼。

「カレー」と紫夕。

「カルボナーラ」と翠。

「なんでもいい」と白亜。

「お前ら、もう少し協調性を持ってくれ・・・・」と呆れる俺。

今日の晩御飯をめぐって言い争いが起こることは火をみるより明らかだった。


白亜の口ぶりからもわかる通り、俺の家の晩ご飯は俺が自分で作っている。理由は単純。この時間帯は家に俺しかいないからだ。

俺は小学生の頃に交通事故で父親を亡くしている。それ以来母親は、毎日仕事と、家事を一人でこなしてきた。家事に関しては、幼馴染5人の親が代わりにやってくれることもしばしばあったが、1人で俺を養う以上、どうしても働かなくちゃいけない。そんな風に頑張っている母親を見過ごせるほど、俺は淡白な人間ではない。中学校に進学すると同時に、俺は『母親を楽にさせてあげたい』という一心で、5人の母親に教えてもらいながら、料理の勉強を始めた。最初は、失敗ばかりだったが、だんだんとうまくいきはじめ、最近では、1人で自炊をするし、ほとんどの料理をレシピを見ずに出来るようにまでなった。そして、幼馴染の5人は、俺の料理を手伝ってくれるほか、『1人で食事をするのは寂しいから』という理由で一緒に晩ご飯を食べてくれる。彼女たちの親もそれを承認しており、娘たちを快く送り出している。普通、年頃の娘を男子高校生の家に送るのもどうかと思うのだが、複数人だし安心しているのかもしれない。


俺がそんな風に考えている傍らでは、今も白亜以外の5人による言い争いは続いている。

「話し合っても決まらないなら、俺が勝手に決めてもいいか?」

このままだと埒があかないので、俺は妥協案を提案をしてみる。それを聞いた彼女たちは渋々ながらも「わかった」と了承してくれたので、今夜の晩ご飯は俺のセレクトに決定した。


「「「「「「ただいまー」」」」」」

6人でそう言いながら、俺の家へ入っていく。彼女たちも何回もこの家に来ているので、我が物顔で堂々と入っていく。

「虹くん、結局何を作るの?」

朱莉が聞いてくる。朱莉たちの言い争いを鎮めた後は、スーパーに行って、食材を買ってきたのだが、彼女たちにはまだ何を作るのかを教えていない。だから、俺が何を作ろうとしているのかが気になるのだろう。

「まだ内緒だよ」

微笑みながらそう言えば、朱莉は文句を言うのではなく、「はぅぅ・・・。」と言いながら顔を隠して、目線をそらしてしまった。なにか変なことを言ったかな?

「虹くんの笑顔・・・・しゅき・・・かっこいい・・・」

なにやらぶつぶつ言っているが、声が小さすぎて聞き取れない。


「ハイハイ。お喋りはそのくらいにして、さっさと作るわよ」

逸れていた意識を料理に戻すように、紫夕が言う。

「そうだな。早めに作らないと日が暮れてしまうし。パパっと作ってしまおう」

紫夕の言葉に答えて俺も料理の準備を始める。

「紫夕さん、朱莉さんと虹くんが仲良くしているのに嫉妬したんですか?」

「は、はぁ?!べ、別にそんなんじゃないし!」

翠と紫夕が何か言い合っていたが、料理の準備に集中していた俺の耳に入ることはなかった。


「おまたせ。できたよ」

そう言いながら、俺は食卓に料理を並べていく。

「え?これって・・・・・」

白亜が困ったような声を出しているが仕方ないことだろう。

「さすがにこれは合わなくない・・・・・?」

蒼がこんなふうに言うのもおかしいことではない。むしろ当たり前だ。

俺が並べている料理は、ハンバーグ、きんぴらごぼう、ワンタンスープと和・洋・中の料理がごちゃ混ぜになっているのだから。ただ、これに関してはちゃんとした理由がある。俺が献立を作るのが下手なわけではない。

「だって、みんな食べたいものが和・洋・中でバラバラだっただろ?だからできるだけみんなの希望に添えようと思って。どれか1つのジャンルで絞ったらまた口喧嘩するだろ?ならもう全部作っちゃえ!って思ったから。迷惑だったかな?」

「「「全然!!」

「よかった」

俺の言葉に和・洋・中で喧嘩していた朱莉と蒼と紫夕は嬉しそうな笑みを浮かべる。白亜は、最初からなんでもいいって言っていたし、特に反応はない。あとは翠なんだけど・・・・

「虹ちゃん。私のリクエストのイタリアンはないのかな?」

全く笑ってない目と冷たい声音で翠は聞いてくる。普通ならビビりまくるところだが、翠がこんなふうになることは予想できたことだし、対策も打ってある。

「安心して、翠。ちゃんとイタリアンのデザートを用意してるから」

「さすが虹ちゃんね。大好きだよ」

俺の言葉に、翠はさっきまでの態度が嘘のようなとびっきりの笑顔を浮かべながらそう言ってくる。機嫌が直ったようで安心したけど、チョロすぎて心配になる。

「「「「ありがとう!虹(くん)(ちゃん)!」」」」

すっかり上機嫌になった4人はとびきりの笑顔で俺に言ってくる。

「どういたしまして。さ、冷めないうちに食べちゃおう。時間が遅くなるし」

俺もその4人に返事をしつつ、食べるように促す。そして、俺はすぐには食べださずに、さっきから黙ったままの白亜に近寄りそっと耳打ちをする。

「ちゃんと白亜の好きなお菓子も用意してあるからさ。あまりいじけないでよ?」

「え・・・?いつの間に・・・」

俺の言葉に白亜は困惑していたが、ここで全部を話すのはつまらない。だから、さっき朱莉に言ったように「内緒だよ」というと、白亜は顔を赤らめ小さく「うん・・・////」と頷いていた。その結果もあってか、夕食を食べている5人の顔には全員笑みが浮かんでいた。









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これからも皆さんのご期待に応えられるように頑張っていきたいと思います。応援よろしくお願いします!


ちなみに5大美少女の食の好みは

朱莉……中華

蒼………和食

紫夕……洋食

翠………イタリアン

白亜……特になし

という感じです。見事なまでにバラバラですねw

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