第3話 「5人がどう思うかなんてお前には分からないだろ?」

「虹、昼飯行こうぜ」

「おう!」

午前中の授業が終わり、昼休みに入るや否や、橙弥が昼飯の誘いをしてくる。

俺もそれに応え、席を立って学食に向かう準備をする。俺たちは基本、昼飯は学食で済ませている。価格もそんなに高くないし、美味しいものもいっぱいあるのでお手頃である。

「んじゃ、行くか」

そういって食堂へ向かおうとしたところで、簡単に行けるはずがない。絶対あの5人のうちの誰かがやってくるはず。別にあの5人と一緒にいるのが嫌というわけではないのだが、ただでさえ周りからの視線が痛いのに、昼飯まで一緒となると陰で何を言われるかわからない。嫉妬の視線に慣れても、陰口に慣れるわけではないのだ。


「どうした、そんなにキョロキョロして?もしかしてあの5人が来るのを警戒してるのか?だったら安心しろ。おれが頼んでおいたから、あの5人が来ることはないと思うぞ」

「え、そうなのか?でも、頼んだだけじゃあいつらは『うん』とは言わないと思うが・・・」

俺も今まで、あの5人に幾度となく「距離をおいてくれ」と頼んだことがあるが、誰一人として「うん」とは言わなかった。だから、橙弥の言っていることが不思議でならない。

「あー、まぁそれはあれだ。ちょっとした交換条件ってやつだ。内容は秘密だけどな」

俺の問いに対し、橙弥は少し歯切れが悪い答え方をする。少し気になったが、橙弥本人が「内緒」と言っているし、聞いても教えてはくれないのだろう。

「まぁそういうわけだから『今日の』昼飯はあの5人が来ることはないと思うぞ」

『今日の』か・・・。橙弥がわざわざ強調してきたということはつまり、明日からは今日のようにはいかないということだろう。先が思いやられるな・・・。


「さてと、何を食おうかなー。悩ましいが・・・今日は天ぷらそばだな」

そういって、橙弥はあっという間に食べるものを決める。うちの学食は食券機で食べるものを決めた後、カウンターに券を持って行って注文するという流れだ。

「決めるの早いな。だったら俺は・・・かつ丼にしようかな。がっつり食べたいし」

俺も橙弥に合わせるようにかつ丼を注文する。

「席を探さないとな。できればテーブルが空いているといいんだけど・・・・あ、橙弥。あそこのテーブルが空いているぞ」

それぞれの料理を受け取った後、座れる席を探していると、ちょうどいいテーブル席を見つけたため、そこに座る。学食はかなり混んでいたけど、席が見つかってよかった。

「「いただきます」」

食前の挨拶を済ませた後、俺たちはそれぞれ天ぷらそばとかつ丼を食べ始める。・・・うん。うまいな。揚げたてのカツはサクサクしてるし、ご飯に合う。これならあっという間に食べ終わりそうだ。


しばらくはお互い無言で食べ進めていたが、そばを啜っていた橙弥が唐突に聞いてきた。

「なぁ、お前たち6人はいつからの付き合いなんだ?」

俺以外の5人はおそらく『5大美少女』のことだろう。それ以外に俺と橙弥の共通の知り合いなんていないし。

「幼稚園の時からだよ。家が近所で小さい時からずっと一緒だったよ。その付き合いは今も家族ぐるみで続いている」

「その時からあの5人は可愛かったのか?」

「あぁ、確かに。近所の人にはみんな『かわいい』って言われてたな。小さい時は俺にはよくわからなかったが、小学生くらいになってからアイツらがいわゆる『美少女』だっていうことに気が付いたな」

「ゴフッッッ!」

「ん?橙弥、なんか言ったか?」

「いや、俺はなにも・・・・。いや悪い。そばが詰まった」

「そうか」

突然変な声が聞こえてきたから橙弥が何か言ったような気がしたんだが、そばが詰まっただけのようだ。啜りながら話すからだろ・・・・俺も人のことは言えないが。

「それで虹。周りに美少女が5人もいたのにお前は恋心とかを抱かなかったのか?」

仕切り直しとばかりに橙弥が聞いてくる。

「あぁ。あんまりないかな。俺からしてみればあの5人はどれだけ美少女でもあくまで幼馴染だ。それに、おれがだれか一人に好意を持っていてもその相手だけじゃなくて、ほかの4人にも気を使わせてしまうだろ?」

「そうか?俺はそうはおもわないけどな」

「どうしてだ?」

俺の言葉を橙弥は否定する。

「確かに虹の言うことも一理あるだろう。だけどそんなのはお前個人の考えでしかないだろう?5人がどう思うかなんてお前にはわからないだろ?」

「確かにそうだけど・・・・」

橙弥の言っていることは至極まっとうだがやっぱり腑に落ちない。

「それでもやっぱりあの5人を恋愛対象としてみることはできないな。一緒に過ごした時間が長すぎるから、全員家族みたいなものなんだよな」

「そうか。それなら仕方ないな。まあでも、何かのきっかけで5人を恋愛対象としてみることができるようになるかもな」

「そうかもなー。まぁ、だとしてもそれが実ることはなさそうだが」

「それがそうでもないんだよなぁ。まぁ、おまえがそれに気づくのはもう少し先か・・・」

「何を言っているんだ?」

「いーや、何にも」

最後に橙弥が何か言っていたような気がするが、うまくはぐらかされてしまった。


(『まぁ、何かのきっかけで5人を恋愛対象としてみることができるようになるかもな』)

先ほど、橙弥が言っていた言葉にわずかな引っ掛かりを覚える。

(『できる』ってどういうことだ?俺が恋愛対象として『みてしまう』こととはまた違うのか?)

そんな僅かな引っ掛かりも、かつ丼を食べていたらすぐに忘れてしまった。









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「ゴフッッッ」の正体は皆さんだいたいお察しがつくのではないでしょうかw次回は、「ゴフッッッ」の正体を書きます。

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