3章 髪飾りの君と僕

1 ハンカチとクッキー

 蝶の事件から二週間がたった学校は一時に比べると平穏そのもので、ただただ日常が流れていった。

 全ての授業が終わり、クラスメイト達が帰ろうと身支度している。

 小奈津はコートを着て帰ろうとする冬木の席まで近づき、青と黒のチェック柄のハンカチを差し出した。


「ずっと借りていてごめんなさい!」


 それは妖魚の出来事の時に冬木が小奈津に貸してくれたハンカチだ。何度も返そうとしたが、なかなかタイミングが合わずに返しそびれていた。

 冬木はコートのボタンをとめていた手を止めてハンカチを受け取る。


「ありがとう」

「あと、これ……」


 小奈津は赤いリボンがかかった箱を渡す。


「ハンカチのお礼……」


 冬木はきょとんとした表情で箱を受け取った。


「開けていい?」


 冬木の言葉に小奈津は頷く。中身は小奈津が昨日焼いた手作りクッキーだ。

 箱にぎっちり詰められたクッキーに冬木は何度も瞬きをした。

 両者の間に沈黙が流れる。

 

(何か話さなくちゃ……)


 口を開いた途端、冬木がクッキーの一枚を齧る。


「!」

「うん、おいしい」


 冬木はそのままクッキーを食べ終える。あまりのことに小奈津の思考が停止した。


「ありがとう。大事に食べるね」

「え、あ、うん……」


 手作りだから早めに食べてね、と小奈津は付け加える。

 用事が終わった小奈津は冬木に背を向けて一歩踏み出した。


「あのさ」

「?」


 小奈津は首だけで振り返る。


「明日の放課後、空いてる?」

「空いてるけど……なんで?」

「話したいことがあるんだ。放課後、体育館倉庫の裏に来てくれる?」


 その言葉に、小奈津は全力で頷いた。

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