2 羽ばたく

 冬木と二人でケーキを食べに行く。それだけで小奈津は昇天しそうだった。

 うきうきした気持ちで靴を履いていると、何だか外が騒がしかった。


「どうしたんだろう?」


 小奈津と冬木は音がする方へ一緒に向かう。

 校舎をぐるりと回って向かったのは、裏門だった。

 裏門にはすでに教師や放課後学校に残っていた生徒が集まっており、救急車のサイレンがけたたましく鳴っていた。


「事故?」


 その時、ハーフアップで髪を留めていたバレッタが刺すような痛みを発する。


「痛い!」

「小奈津?」


 小奈津の声に冬木が心配そうに見てくる。

 小奈津がバレッタに手をやると、手にちくちくした痛みが伝わった。まるでバレッタが疼いているようだった。


「ちょっとごめん」


 小奈津は早々にその場から離れ、校舎を回って下駄箱まで戻る。


(? 何なの?)


 バレッタを外す。バレッタを外したと思った手には、ステッキが握られていた。

 

(まさか……)


 バレッタがステッキに変わったということは、妖魚の時と同じ、恋心が絡んだ不思議な出来事が起きているということだ。

 そしてステッキは眩い光を発した。

 あまりのまぶしさに小奈津は目を閉じる。

 そして次に目を開けたとき、下駄箱から廊下が虹色に染まっていた。

 小奈津は靴を履き替え、廊下を一歩踏み出す。

 まるで、虹色の架け橋だった。気づけば小奈津は導かれるように歩いていた。

 廊下は二階まで続いていた。そして、二階から廊下、一番奥の教室に伸びていた。

 一番奥の教室、1-1とかけられている教室に辿り着き、中をのぞく。


「!」

 

 教室を黒で縁取られた虹色の蝶が何羽も飛んでいる。その中で七人の女子生徒が倒れていた。

 小奈津は直感した。


(この蝶、何かある!)

  

 近づいてはいけない、と小奈津の勘が告げている。

 その時、教室を舞っていた蝶がパッと消える。そして、小奈津はふと、気配を感じて横を見た。

 廊下を、蝶をまとった青年が歩いている。蝶は教室で見た、黒で縁取られた虹色の蝶だった。

 近づいてくる青年に小奈津は息をのんだ。

 鴉の羽みたいな黒髪に透き通る白い肌、赤い唇は妖艶だ。異質だと思ったのは、彼が学校の制服ではなく、和服だったことだ。その和服も黒色を基調としているが、袖下がギザギザになっており、虹色のグラデーションになっていた。

 彼は腕を上げる。その指に蝶が止まる。


「何しているの?」

 

 小奈津が尋ねると、彼はその声に応えるように小奈津を見た。


「……見えるのか?」

「見えるも何も、そこにいるじゃない」


 彼は小奈津を上から下までなぞるように見ると、ステッキに視線が止まった。


「それか……」


 ステッキに釘付けになっている彼につられるように、小奈津もそれを見る。


「これ?」

「俺は普通の人間には見えない。だけど、君が持っているそれの魔力によって俺が見えるというわけだ」


 彼の指に止まっていた蝶がひらりと離れる。


「そういえば……彼女も同じことを言っていた」

「彼女?」

「俺は春火はるか


 彼――春火は続ける。


「……せっかくだから、少し昔の話をしようか」 


                 


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