第36話 戦力集め

 冒険者ギルドへと足を踏み入れる。

 中央にある任務の依頼書が貼られた巨大な掲示板に向かう。

 基本、低難易度の依頼書の中に時折高難度のものも混じる。

 俺の目は自然とある魔物の討伐依頼を探していた。


 ――エンシェントドラゴン。


 それは愛する娘たちの故郷を焼き払った元凶であり、俺がこれまでの冒険者人生で打ち倒せなかった唯一の魔物。


 ――やっぱり、依頼書は出てないみたいだな。目撃情報もない。


 当たり前と言えば当たり前だ。

 エンシェントドラゴンは災害指定のSランクの魔物。

 目撃情報があれば、自然と王都中に噂が広まるはずだ。

 俺の耳に入らないはずがない。

 それでも毎日のように冒険者ギルドに足を運んで確認してしまうのは、俺が異様な執念を燃やしているからに他ならない。

 奴は絶対に打ち倒さなければならない。

 第二第三の娘たちのような子を出さないためにも。


「あら。パパ。今日も顔を出しに来てたの? なに? もしかして、私の仕事ぶりが心配で様子を見に来たとか?」


 アンナが声を掛けてきた。


「アンナは立派に働いてる。心配なんてしてないさ」

「ふふ。冗談よ。ありがと。モニカちゃんに聞いたんだけど、パパ、毎日のように掲示板を眺めてるとか。お探しの任務でもあるの?」

「まあ。そんなところだ」

「私に言ってくれれば、依頼が来たら教えてあげられるけど」

「そうか? なら、お願いしようかな。エンシェントドラゴンの目撃情報があったら、俺に教えて欲しいんだ」

「ふーん。エンシェントドラゴン……」

「どうしたんだ?」

「ううん。偶然ってあるものだな、って思ったの。もしかすると、エンシェントドラゴンとすぐご対面できるかも」

「えっ!?」と俺は声を漏らした。

「実はドゥエゴ火山で巨大な魔物を見たっていう目撃情報があるの。それがエンシェントドラゴンかどうかは分からないけど……。確率は低くないと思う。火山に生息する巨大な魔物は数が限られてくるから。近いうちにその目撃情報の裏付けを取るために、調査団が派遣されることになってるわ」


 まさかこんなに早く手がかりを掴めるとは。

 偶然なのか、それとも必然なのか。

 もしかすると、互いに惹かれ合う運命なのかもしれない。


「ドゥエゴ火山だったな。すぐに向かうとしよう」

「パパ。ちょっと待った」


 アンナが俺を制止してきた。


「火山に向かうのなら、いくつか条件を出させて」

「条件?」

「一人じゃなく、パーティを組んでいくこと。それも冒険者としてのランクがBよりも上の人を二人以上。もし本当にエンシェントドラゴンがいたとすれば、さすがにパパ一人を送り出すわけにはいかないもの」

「Bランク以上か……。ただでさえ冒険者ギルドは人手不足なのに、報酬の出ない案件に協力してくれる人がいるかな」


 中々、難しそうな気がするが。


「それともう一つの条件は――私を同行させること」

「アンナを?」

「ええ。私もパパに付いていかせて貰うわ。――ああ、ギルドなら大丈夫。今なら休暇も取れる時期だから」

「どうしてだ? 危険が伴うんだぞ」

「だからこそよ。私もパパの力になりたいし。それに……」

「それに?」

「ううん。もう一つの理由はナイショ♪ ――とにかく、私を同行させてくれないと火山には行かせられない」

「そこまで言うのなら構わないが」


 俺は渋々、アンナの同行を認めることにした。

 もし本当にエンシェントドラゴンと対峙することになれば――同行しているアンナにも火の粉が降り注ぐかもしれない。

 そのことを理解した上で、アンナは行きたいと言った。

 彼女ももう立派な社会人だ。

 意志決定を阻む権限は父親の俺にだってないだろう。俺にできるのはただ、愛する娘を全力で守り抜くことくらいだ。


「決まりね。ありがと。パパ」


 アンナはウインクをしてきた。

 可愛らしい仕草だ。


「これでアンナを同行させるという条件は達成することが出来たが――問題はBランク以上の冒険者の頭数だな」

「何か宛てがあるの?」

「取りあえず、騎士団や魔法学園の者たちに声を掛けてみよう。もしかすると手を貸してくれるかもしれない」

 

 ☆


「そういうことなら、私が同行しますよ」


 騎士団の練兵場。

 俺が事情を話すと、エルザがそう申し出てくれた。


「いいのか? 報酬も出ないけど」

「父上と共に戦えるというのが、私にとって何よりの報酬です。それにアンナが同行するのなら私も同行しなければ」

「どうしてだ?」

「そ、それはその。泊まりの調査と聞いたので……アンナだけが父上と水入らずの時間を過ごすのはズルいなと……」


 エルザは両手の指をツンツンと合わせながら、小声で何かを呟いていた。蚊の鳴くような声量のせいで聞こえない。


「??」

「とにかく! 私も同行します!」


 エルザが俺に同行してくれることになった。Sランク冒険者で、剣聖と称されるエルザがいれば頼りになるだろう。

 

 ☆


「パパ! ボクちゃんも旅行に行く~♪」


 魔法学園。

 俺がメリルに声を掛けようと教室に入った途端、何も話していないにも拘わらず彼女はそう切り出してきた。


「メリル。どうして知ってるんだ?」

「ボクはずっとパパのことを見てるもん♪ エルザとアンナが行くのなら、当然、パパのことが大好きなボクも行く~。それに皆が行っちゃったら、ボク一人だけだと炊事も洗濯も出来ないから困っちゃうもん」

「凄く堂々と情けないことを言ってるが……。後、旅行じゃないからな。強い魔物がいるかどうか調査しに行くんだ」

「はーい♪」


 メリルは楽しそうに手を挙げていた。


 ……本当に分かってるのか? とにかく、賢者と称されるほどの魔法使いであるメリルが来てくれるのはありがたい。


 これでアンナの提示した条件はクリアした。

 Sランク冒険者であるエルザと、冒険者ではないもののAからSランク相当の実力者であるメリルがいれば問題ないだろう。

 結局、パーティの全員が家族になってしまったが。

 戦力自体は王都でも最強と言えるはずだ。このメンバーがいれば、どんな魔物が現れたとしても戦えるだろう。

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