第8話 あの日の告白を経て(赤坂幸人視点)

 告白してしまった。


 広尾に『好き』だと、伝えてしまった。


 言っちゃたんだよなぁ、俺。


 その時の自分を思い出す度に、恥ずかしさがこみ上げてくる。


 時代錯誤な認識かもしれないが、告白というものはきっと、女性から行うことがほとんどなのだと思っていた。

 だからまさか、俺から誰かに告白するなんてことは、きっとないだろうと。


 だが、現実は違った。


 『私のこと……好きなの?』あんな表情で聞かれたら、答えずにはいられなかった。


 それだけ、彼女の向けた表情が可愛かったのだ。


 だから後悔はしていない。


 思い出す度に、どこかに穴があったら入りたくなるが、なかったことにはしたくない。


 この感情があったからこそ、きっと広尾との距離が縮まったと思うから。


 …………でもなぁ、返事はまだいらないと言ったけど、これでやっぱり俺とは無理とか言われたらどうしよう。

 そしたら、もう立ち直れない気がする。


 今も整理がつかず、様々な感情が渦巻き続ける。


 それに告白しておいて音沙汰なしでは、なんのために距離を縮めようとしたのか、その意味すらなくなってしまう。


 これからの問題は、広尾とどう会っていくか。


 一緒に『たけすぎ』のアニメグッズを買いに行こうと言った。


 だが、どうやって誘う?


 俺から連絡する?


 ……まぁ、実際それ以外の選択肢はないのだが。

 彼女からの連絡を待つのは、なんか違う気がするし。


 確かに前回は彼女から連絡が来た。

 でも、そもそもケースが違うし、あの告白の日の流れから考えたら、俺から誘う以外にない。

 

 学校では話せるわけがないから、必然的に俺からスマホで連絡するのが当然の流れ。


 学校女子に気軽に声をかけるようなメンタルは、現状持っていないだから。


 …………なのになぁ。


 未だに俺は、彼女に連絡出来ないでいた。

 どうして簡単なことのはずなのに、行動を起こせないのだろう。


 たかが、女の子一人を買い物に誘うだけなのに、ヘタレな俺はぐるぐるぐる考えてしまって、次へ進めない。


 時間が経てば経つほど、良くないというのに。 


 そしたらきっと、広尾は俺のことなど見向きもしなくなってしまう。


 あぁ……それはいやだな。


 てか、絶対に嫌だ!!!


 それだけは、嫌なのだ。

 彼女とここまで仲良くなれたのに、ふりだしに戻すなんて。


 そんな自問自答をくり返し、時間だけを今日も消費させていた。


   ―――――――――――――――


「幸人ちゃーん! 今週の木曜日はお暇ですか? ご注文はイタリアンですか? ちょっと世界救ってもらえますか?」


「……はい?」

 相変わらず何言ってんだろ、こいつは?


 部活終わりの午後。


 意気揚々とした表情で、隣でユニフォームから制服へと着替えていた謙吾が、愉快に話かけてくる。


 俺は言っていることの半分も理解できず、ただただ迷惑そうな顔を向ける。


「え、今週の金曜日はお暇ですか〜と思って」

 こちらの表情を見て、言い方を改める謙吾。


「そう言ってよ、分かりにくいから」

 謙吾と喋っていると、時々恥ずかしさを感じることがある。


 1年以上一緒にいて、このノリだけは今だに慣れにくい。

 まぁ別に嫌いとか、改善してほしいというわけでもないのだけれど。


「バイトはいれてないけど……なんで?」

「みんなでさぁ、司の働いているお店に遊びに行かない?」


「司のバイト先って、確かパスタとかピザのお店だよね?」

「そ! イタリアン。梓といろいろ話してたら、せっかくだから言ってみよう! っていう話になってさ、だから幸人ちゃんも一緒にいかない?」


 いつ間に汐留と、そんな話をしていたのか?


 彼女とそんな話を出来るまでの関係を築いていたとは、正直驚いた。


「予定はあいてるけど……あそこって、あんまり高校生だけで行くようなお店じゃないんでしょ? みんなで行ったら迷惑にならない? ……特に謙吾が騒がしくて」

 ファミレスではないお店なので、いろいろと心配になってしまう要素が多かった。


「えー大丈夫だって、別に騒ぐわけじゃないし。メンバーだって小十郎と梓、友梨ちゃんと広尾ちゃんだし。迷惑かけるようなメンバーじゃないじゃん?」


 ………広尾。


 彼女もくるのか。


「小十郎はなんだって?」


「まだ聞いてないけど……きっと大丈夫じゃん? あの子もあんま金曜日はバイト入れてないし」


 正直、断る理由はなかった。

 むしろ彼女の名前を聞いて、行きたいなという思いの方が強くなっていた。


「……分かった。いくよ」

「OK! じゃあ金曜日はよろしく。多分予算は2000円位はあった方がいいってさ」


 確かに良い値段だけど、確かに払えない額じゃない。

 だが、先日のテディーランドいい、今月は出費が多く、懐がだいぶ寒くなってきた気がする。


「悪い、待たせたか?」

 部長と話を終えた小十郎が戻ってくる。


「おっそいよぉ! 話が一回終わっちゃたじゃん。まぁいいや、小十郎はさぁ今週の金曜日はお暇ですか? ご注文にイタリアンはいかがですか?」


「別に空いてるが……なんだ、司の店に行くのか?」


 えー。 理解力、半端なくないですか。



 




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【更新未定】まだ、色のない僕らの高校生活~目黒音夜は目黒友梨の扱い方が分からない~ 紫蘇ゆう太 @blue7resort

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