第14話 グッドバイ・ハロー・不思議な居心地


 結局コーヒーを飲んで、コッペパンを食べて俺は寝た。

 こんな心細い寂れた山奥。

 悪魔の気配もする村。

 謎の怪しい男が傍にいる状況で夜まで寝てしまった。


 ぐっすり……すやすやと……。


「わー!?」

 

 一人用テントで寝て、ふと目が覚めたら真っ暗で俺は一瞬寝ぼけてパニクってしまったよ。

 叫んだ口を自分の手で覆った。

 百鬼夜行の後に、病院で襲われてから熟睡なんてできずに今まで過ごしてきた。


 教授やジョン神父と結界の研究もしているけど、あまりに聖なる力が強いと今度は俺の闇堕ちしている部分が痛みだす。

 この結界は……なんだろう……いい塩梅だ。

 叫んだ恥ずかしさをどう誤魔化そうかと、俺はテントのチャックを開けた。

 

「大丈夫か」


「は……はい」


 寒い空気が一気に身体を冷やす。

 男は、自分のランタンを足元に置いていて淡い光が辺りを照らしていた。


 いつものように煙草を吸っている、これは避ける香りだ……。

 

「灯りなんか点けて大丈夫ですか?」


「あぁ……もう今日は此処には誰も来ない。獣害での注意喚起が出たからな」


「え……どうして、そんな事わかるんですか?」


 此処はもう電波も通じない場所だ。

 俺が寝ている間に、村まで戻ったのか?


 するとキュキュ……と俺達の頭上で鳴き声がする。

 コウモリ……昨日もいたな。


「俺の使い魔だ」


「つっ……つっ使い魔!?」


 ちょっとそれは、俺も……いや教授達に聞いた限りでは現代に生きる普通の人間には、まずできない術……。

 だって教授が熱心に研究しているのが『使い魔』だからな。

 それでも一度も実現できてないんだ。

 

「あぁ」


「あぁって……あの、俺と警官との話も聞いてました?」


「……あぁ」


「あぁって……」


 はは、本当にさっきからあり得ねー! って事ばっかりで自分があり得ない存在とか忘れかけてくるよ!

 それから俺はテントを畳み支度をする。

 車の周りの結界だけはそのままにしてもらう事になった。

 月がどんどん登っていく、と思ったら秋の冷たい風に混じってやけに生ぬるくて臭い風が吹いた。

 

「じゃあ! 行きますか!」


「そうだな」

 

 俺達は、どうして悪魔退治に来たのか? なんて深い話もこれからの作戦なんて話もしなかった。

 お互いに悪魔に対してできる事とかサポートの話なんかもしなかった。

 まぁ当然ながら自分の身は自分で守れよ、なわけなんだけど……ずっと一人で闘ってきたから俺は一人じゃない。それだけでちょっと嬉しかったんだ。


 男が煙草に火を点ける。


 これは……寄せ付ける匂い。

 ざわざわと俺の闇堕ちした部分が反応している。


 林の葉が風に吹かれて一斉に鳴いたように聞こえる。

 あの時聞いたカサカサ……カサカサ……と同じように思えて、少しゾクリとした。


 今日の夜は暗雲もなく、綺麗な月夜だった。

 林のなかのボロボロの道路を転ばないように歩いて行く。

 そこを抜けると、俺達を出迎えてくれたのは廃墟の校舎だ。


 林の中の廃墟の上に光る満月が、今日はやけに不気味に光る。

 当然に、子供の笑い声などはなく俺達の鼻に届いたのは血の臭いだった。


 


 


 

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