第12話 グッドバイ・ハロー・追い出され同士


 理不尽な追い出され方をした俺。

 しかも三泊分の先払いの金も返してくれないの!?

 宿屋の入口で俺は抗議した。


「迷惑料だよ、そのくらい社会の常識だろう」

 

 心底嫌そうな顔の宿屋の店主。

 あんたに何か迷惑かけた!?

 人助けをしたのに、あんまりだっ!

 でも、ここでトラブル起こすわけにもいかない。

 

「……何故、俺まで?」


 俺の横には俺と同じように荷物をまとめ、小さめのボストンバッグを持った男が立っている。


「あんたも同じだ。夜中に出かけたのを俺は知ってる。ゴネるなら駐在に言うぞ!」


 言われた男は、そのまま無言で歩き始めた。

 あっ……まじか……!

 そのまま追いかけるか、と一瞬思ったけど店主は玄関に塩を撒き始める。


「わ! ちょっと俺の車に塩かけないでくださいよ!」


 俺の愛車ウィンにまで、塩をかけようとしてきたので、慌てて乗り込んで車を出した。

 そんで徐行しながら、あの男を追いかける。

 執着とか、そんなんじゃない。

 俺だって、どうして先に帰ったのか文句の一つでも言いたい! 言ってやる!


「……最寄りの駅まで送りましょうか」


 結局、車から声をかけるナンパ男みたいにして出てきた言葉はこれだった。

 男は意外にも素直に助手席に乗った。


「廃校舎までの道を進んでくれないか?」


「えっ……」


 確かに俺も、さっきの警官が言っていた廃校舎は気になっていた。

 でも……あの時いなかったのに……知っていたのか?


「場所を知らないか?」


「いや、知っています」


 知ってますよ……さっきまで調べてたんだから……。


「ふあ……」


 あぁ~日中は寝ようと思ってたから、あくびが止まらない。


「その廃校舎まで行く途中に、公園がある。そこで仮眠をとればいい」


「えっ」


「それから帰るといい。寝不足での運転は危険だ」


 わ、わかってますよ……。

 わかってるけど……。


「昨日の事件もあるから、そんなとこで寝てたら村人や警官に怪しいって捕まってしまいますよ」


 あれだけ犯人扱いされたし、注意喚起もされたのに……村の人や警官に見つかったら今度こそヤバいだろう。

 

「大丈夫だ」


「……本当に、ですか?」


「あぁ」


 なんでだろう。

 口数も少ないのに、こんな怪しい男の言うことを聞く俺。

 眠いからだ……思考がおぼつかないだけだ。

 眠れれば、いいや。


 廃校舎への道は林を抜けて行くのだという。

 全盛期は沢山の人がいて賑わい、後から作られた学校だからだそうだ。

 アスファルトはもう下から草木が伸びてボロボロ、至る所に穴が開いている。


 「うわー! 頼む! ウィン頑張れよっ!」


 車のウィンがあまりにガタゴト言うので俺が叫ぶと、また男はギロッと睨んでオーラを放つ。

 な、なんで!?

 

「あの……ウィンって何か思い入れのある名前とか……?」


 俺はハンドルを握りしめ、ウィンが走りやすい場所を必死に選びつつ男に聞いた。


「いや……」


 なんかウィンキサンダが因縁の仇、とかそういうんじゃないだろうな……。


「なんだろうな、わからない」


「そ、そうですか」

 

 本当にわからないような顔をする。

 紅色に色づき始めた林の中を走って少し、確かに公園があった。

 

 もう子供達がいなくなって、どれだけ経ったのか……。

 遊具はもう錆びて折れて朽ち果て、土で整地してただろうに草木がボウボウに生えて落ち葉も溜まって荒れ果てている。

 ただの空き地に見えるけど、昔はここに笑い声が響いてたんだろうな。


 この先に廃校舎があるようだけど、ここから先の道路は更にボロボロだ。

 車ではこれ以上は先には行けないな。

 荒れ果てたブランコの前にとりあえず車を停める。

 

 男は車から降りると、すぐに煙草を吸い始めた。

 ……今までと香りが違う。

 

 多分これは『』だ。


「テントを張るか……?」


「あ~……そ、そうですね」


 軽自動車のなか男二人で気遣いするよりは、一人用のテント張った方が夜まで寝られるよな。

 

「テントの場所はこの辺りか?」


 車の少し横、まだテントを張りやすい土が見えている地面。

 

「はい、そうですね」


「わかった」


 男は煙草を吸いながら、黒のトレンチコートのポケットから何か瓶のようなものを取り出した。

 粉が入っているのだろうか。

 それを俺のいる場所、車、テントを張る場所をぐるっと円で囲むように撒いていく。

 そして五芒星になるようになのか、これまた無造作にポケットから取り出した石を置く。


「これは……結界?」


 勉強の知識と、俺の中の闇堕ち聖女の血が感じる部分が混ざりあって俺は悟る。


「わかるのか」


「……まだ勉強中ですけど」


「これは悪魔と人避けの結界のようだ。今は人避け目的で張った。この結界を視界に入れれば人は無意識に恐怖のようなものを覚え避ける。道路にも同じ結界を一つ張っておけば廃校舎へ行こうとする人間も足止めできるだろう」


「……? 人に影響を及ぼすことのできる結界だなんて、相当の熟練技だと聞いています。あなたは一体……?」


 怪しすぎる風貌だけど、逆に旅する修行僧とか、立場を隠す偉い牧師様とかかもしれない。


「わからないんだ」


 男は本当にわからないような顔をした。

 


 

 

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