第10話 グッドバイ・ハロー・深夜捜査
コーヒーを飲んだ後は、無言の時間がしばらく続き『じゃあ……』と、お互いに部屋に戻った。
俺は布団の上にシュラフを引いて、汚い天井を見る。
今日の夕飯は、この村へ来る前に買ったコンビニ弁当だ。
明日からはカップ麺になるから、味わっておくか……。
海苔弁当。
色んな味が味わえるおかずたっぷりの海苔弁当が好きだ。
食べながら、俺は今夜から村を歩くか、どうか考える。
「ビールはどうせもう、ぬるいし……帰ってきてから飲んで寝るか~」
長距離運転の疲れもあるが、やはり今夜から散策したほうがいいよな。
奈津美には、電波が悪い田舎にいる事だけメールしておくか。
あいつは今日は飲み会で、明日はサークルの集まりだったっけ……。
死んでしまって離れたり、生きて一緒に好き合ってるのに夢のためって遠くに来たり……。
人生って不思議だ……。
なんだろう、この古い天井の人みたいなシミとか、何千回歩かれただろうブヨブヨの畳とか、押入れにあった『母ちゃんダイスキ!』の落書きとか見てたら色んな人生が俺の中を通り過ぎてくみたいで考えてしまう……。
ふと、ドアの開く音、閉まる音。
そして階段を降りる音。
「あ……」
さっきのあの男。
宿から出て行った。
また、煙草を吸ってる……。
俺は最後にとっておいた唐揚げを残したまま、弁当に蓋をして部屋を出た。
ここら辺じゃ、夜に行く店なんかない。
さっきの商店も五時で終わりだ。
あの男はどこへ行くんだろう?
そして、俺はどうしてあんな怪しい男が気になるんだ?
怪しいからか……?
心細い電灯が小さく光る。
全体で見たら、真っ暗な村。
一番栄えている、と言えるのはこの民宿太陽の前の通り。
その先にあの商店。
あ、自動販売機があったな。
自販機へ行くつもりか?
俺が後ろから歩いている事にすぐに気付いた男は、後ろを振り返った。
「なにか用か?」
また、煙草の香り。
そうだ、なんだか甘いような香りに感じる。
何かを誘う、甘い香り。
「い、いえ! こんな時間に、どこへ行くのかな~~って……あ〜あの俺、車ありますよ!?」
「車?」
「歩いて行くのも大変ですし、目的地があるなら送りましょうか!?」
自分で言ってて怪しすぎるな!
ただの宿屋の隣になった男からそんな事言われても、困るだろ!
「……いや、歩きたいんだ」
「そ、そうですよねーあはは」
「あの黒い車は君のか」
「は、はい! ウィンって名前なんですよ」
「なんだと!?」
「ふぉっ!?」
急に目を見開いて叫ばれたので、俺はびっくりして慌ててしまった。
「す、すまん……いや……なんだろう急に、こう込み上げるものが……」
「す、すみません」
なんだろう?
何か気に触る事言ったかな……。
「いや、車に名前とは珍しいな……と」
「あはー相棒みたいなもんで」
また男の人がザワ……とした気がする。
ちょっと怒りのオーラな気がしたけど……。
やっぱり関わらない方がいいか?
「それで、何故君も俺と一緒に歩いているんだ?」
「あの、俺も少し調べたい事があったんで……」
「……そうか」
じろっと見られたけど、何も言われない。
上から下まで真っ黒だから、闇に溶けてしまいそうだなーこの人。
特に何も言われずだったので、俺はそのまま、その人の後ろを歩く。
風にボロボロのトレンチコートがたなびいて、なんだか悪魔の翼のようだ。
こんなに怪しい人に、俺はどうして……何度も何度も考えてるのに、わからない。
もしかして、俺もこの香りに誘われている?
「うわぎゃああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
遠くから聞こえる悲鳴!
「な、なんだっ!?」
目の前の男が走り出し、俺も走り出す。
この先にあるのは商店だ!!
200メートルほど、暗い道を走ると商店が見えた。
「あっ」
商店のシャッターは閉められている。
いや、男の膝くらいは隙間が開いていた。
シャッターは下まで全部閉めると上げるが大変だから……普段から開けているのかな?
「ガラスの引き戸が割られている」
「あっ!」
シャッターの中にある店の引き戸が、確かに割られている。
「お婆さん! 大丈夫!? なんかあった!? 入るよ!」
俺は叫んだ。
男がシャッターを持ち上げて開けた瞬間に、俺は割れた引き戸を開けて商店の中に入った。
真っ暗で何も見えない……!
足元がガチャガチャとガラスの音がする。
ガチャ……。
俺以外の足音!?
「誰かいるのか!!」
「ひぃいいいい……!」
お婆さんの声だ!
俺は持っていた小型LEDライトで店内を照らす。
店の奥にある自宅部分に、お婆さんが倒れているのを見つけた!
「お婆さん! 大丈夫!?」
「ひぃいいい~襲われたぁ……殺されかけたぁ……カサカサに」
「えっ」
男が店の電気を点けてくれた。
その時、俺は確かにカサカサという音を聞いたのだ。
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