24.疑似×3
人混みから脱出した俺らは、校舎裏の誰もいない場所へ避難。
「も、もうここまで来たら人も多くないもんねっ! おてて離していいよね⁈」
「あ、あぁ。いいけど……」
やっぱり俺と手を繋ぐのがイヤだったんだ……。キライになったわけじゃないのならこの現象をどう説明するんだ? わからん。考察班はよ。でも沙那も自分でよくわかっていないらしいし。……あぁ、なんか不思議な感じ。
「あー、クレープさん美味しいな~! イチゴがあまずっぱくておいし~!」
いそいそと、どこか気まずそうに早口でクレープを頬張る沙那。
「そんなに急がなくてもクレープは逃げないぞ……」
「っ! なんかどきどきで焦っちゃってるのかなぁ……?」
「ドキドキする要素なんてないだろ。……ぱくっ。お、バナナのほうも美味い」
イチゴクレープとバナナクレープ、二種類を沙那と俺はそれぞれ購入した。せっかくだし違う味も食べてみたい。
「沙那。イチゴのほう一口もらってもいい? 俺のと交換しようぜ」
「ぎょっ……」
出た、さっきの手を繋ぐ前の反応だ。
「そ、それって食べかけのものを交換するってことだよねぇ……?」
「お互いにかじってるからそうなるよな」
「じゃ、じゃあさ! かっ、かかか! 間接ちゅーってことになるのでは……⁈」
ドギマギしながら、沙那がクレープを持った手を震わせる。
「な、なるけど……。そんな大げさに言うようなことか?」
あぁ、マジで沙那の考えがわかんない。俺は幼なじみどうし、今までみたく普通に仲良くしたいだけなのだが……。
「だから今の私はそうなっちゃうんだって……、これ以上変なドキドキさせないでよぅ……」
「させてる自覚もないんだけど……?」
「間接ちゅーってことは、2人の体のものがね……ナカで混ざり合っちゃうってことでしょ…………?」
「変な言い方しないで! 唾液は相手の体に入るけど⁈」
顔をでろんでろんにして赤くした沙那は、今までの記憶のどこを探しても見当たらない初めての顔をしていて。困惑と同時に、心臓の表面がサッとなぞられるような不思議な刺激があった。
「逆にみっちーは、私と2人っきりでこんなにひっついて、ドキドキしないの……?」
「しないよ、別に」
だって今までずっとそうだったもん。
「しな……いんだ」
「昔からずっと気兼ねない友達で、沙那がちょっと傷ついてるときはガンガン甘えたりしてきたじゃん。急にこんな風に距離感を感じるのはおかしいよ。なんかちょっと寂しいし」
「私の甘え期に、いっぱいひっついたりしたよね? デートの塗り替えだ、とか言ってイチャイチャもしたよね? そういうのを経て改めて私を見てどう? どきどきしない?」
「んー、そりゃ沙那は客観的に見てかわいいし、女の子としても魅力的だけどさ……」
俺は素直な気持ちを吐露した。
「やっぱり一番大事な友達、って気持ちが強いよ。言葉は違うかもなんだけど、男友達に近い感じかな」
すごく言い方が悪いのだが、たとえば沙那がマリ男カートの座席で膝の上に乗ってきたときにドキドキしたのは『可愛い女の子が、こんなに体を寄せている』という男性的本能に従ったものだった。沙那だから、ドキドキした。そういうわけではなかったと思う。
「…………なにそれ、なんか悔しいんだけど……」
「え、なんで?」
訊くと、沙那はぷんすか可愛らしく怒りながら自分の膝をパンパン叩く。
「だからわかんないのっ! でも、私がみっちー相手にドキドキしちゃってるんだから、みっちーも私にドキドキして欲しいのっ!!!」
「え、えぇ……」
お互いに一切緊張なんてしない関係だったのに、急にお互いに緊張しようぜってこと? 今までの距離感を完全に逆転させるようなことだ。
「なんかそんなの……ふこーへいだよ……」
「お、落ち着いてくれ沙那。なんか色々考えすぎなんじゃないか? 今まで通りの気楽な関係性を俺はずっと続けたいけど……」
「……もう気楽な関係なんかに、戻れる気がしないよ……」
沙那は覚悟を決めたように息を吐き、俺の背後にトテトテと回った。
「…………え」
そして、俺の首から手を回し――コアラのように抱きついてきた。
「は、はうっ……! はずかしっ……! なんで私、こんなお外でハグなんてしちゃってるんだろう……⁈」
「知らないよ俺が聞きたいっ!!!!」
照れるならしなきゃいいじゃん! さっきから言ってるけど、俺に緊張するんだろ⁈
「はじゅい、はじゅかしいよぉ…………っ。校舎の外から人に見られちゃいそうだし…………私、はれんちだっ! こんなこと絶対にしたくなかったのに!」
「だったらはやくやめたらいいじゃん!!!!」
そりゃ俺だって男だから、こんなことをされたらイヤでもドキドキする。相手に関わらずだ!
「……やめないよ。ぜーったいやめない」
「なんで⁈」
「…………みっちーが、私にどきどきしてくれるまでやめないもん」
ぎゅうっと体を抱く力がいっそう強くなる。もう離さない、そんな気持ちの強さまで伝わってくる! 沙那のブレザーの袖から、優しい柔軟剤の香りがただよってきて脳天がダイレクトパンチされたような衝撃!
「あぁ、もうわかんなくなってきた……」
俺の頭の中がぐじゃぐじゃに混ぜられ、どんどんパニックになる。
ただひたすらに伝わってきたのは、沙那の俺に対しての『好き』の形が変わったということ。
キライになんかなるわけない。だけど緊張してグイグイと距離を詰められなくなった。俺にも自分と同じようにドキドキして欲しい……。
これって、異性としての『好き』に近くないですか?
いやいやいやいやいや。沙那が今さら俺にそんな気持ちを持つかよ。
これはきっと――一時の気の迷い。
俺は自分の脳みそをどうにか納得させようと頑張った。
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