6.あくまで幼なじみ
「はわわぁ、なんかみっちーといるとほんっとに落ち着く……」
すがるように俺に抱きつきながら、胸板に顔をこすりつけてくる沙那。
そんな、『ご利益があるスポット』みたいな扱いされても!
……でも悪い気はしない。いや、なんか俺も落ちつくわ。
「……沙那の気が休まるなら俺は嬉しいけど」
「うん、め~~っちゃ安心」
なんだよこの甘えた声。お母さんに慰めてもらってる子どもみたいだ。
「やっぱり今日みたいな遊び方がしあわせだなぁ。私には合ってる」
「桐龍とはどんな遊びをしてたんだ?」
「んーと、ギラギラした遊びが多かったかなぁ? 夜の街ででぃなーしたり、人混みでダンスするお店とか……なんかそんなの」
「あんまり……向いてないな」
ザ・陽キャ。ティックトックの擬人化でっか? 沙那の趣味と真逆じゃん。
公園でゲームをするのが大好きなように、沙那は性格からおっとりしていて穏やか。桐龍は彼女の『好き』さえ知らず好き勝手連れ回してたのか。
「櫂斗くんと私、やっぱり合ってなかったんだろうね~」
「……うん、俺はそう思うぞ」
「私は櫂斗くんのために背伸びできなかったし、櫂斗くんはそんな私にムカついちゃった」
「相性が一番大事だもんな」
性根の悪さを度外視して桐龍を考えよう。
イケメン、スポーツ万能、頭がいい、有名大進学……。
うん、合わせ役満。子の13翻、32000点。合わせもいいけどやっぱり九蓮宝燈を出してみたい。でも死にたくないよぉ……。
まあこれだけハイスペックなら、他にいい女の子も見つかるだろう。それは沙那も同じく。
――沙那♡桐龍はたまたまベストカップルにはなれなかった。それだけ。
「相性なぁ……」
てか、沙那にとってぴったりの相手ってどんな人だ?
今は沙那のメンタルケアとして俺が付き添っているが、沙那には早く次の恋を探して欲しい。男友達は結局、しっかりした彼氏には勝てないから。一度彼氏の味を知ってしまったし、人恋しくもなるんじゃないだろうか。
「沙那はどういう人がタイプなんだ?」
「え、なんでそんなこと訊くのぉ?」
沙那が俺の体からぴょいっと離れ、目を丸くする。
「まさか私……ろっきゅお~ん! されてる?」
俺の表情を試しながら自分に矢印を向ける沙那。
へ、変な誤解をされそう……!
「違うよ。次に失敗しないために準備として考えを決めておくべきだってこと!」
「あぁ、なるほどねぇ~! 備えあればチョレイなしってやつかぁ~!」
「途中で卓球選手が点入れてたんだけど⁈」
出たぽわぽわおバカちゃん。異性への知識と難しい言葉が、色々抜けとるのです。
「タイプねぇ……私、どういう人が好きかなぁ……」
10秒ぐらいアゴに手を当てて考えたのち、沙那はビシッと人差し指を立てて……?
「うんっ。私、みっちーがどどどどタイプっ!」
……俺のほうを指したっ! え、今『ダダダダ天使』みたいに言ってなかった⁈ 言ってないなごめんっ!
「えぇと……」
そんなスッキリした笑顔で見られましても……。
タイプ? 俺が??? いきなり言われたら動揺するんだけど。
あー、なんかまた変な汗でてきた……。
「それこそ櫂斗くんみたいなみんなが憧れるようなキラキラした王子様……そういう人もステキだよ」
「そういうもんだよな」
「うんっ。女の子ってホント単純で、カッコイイ人に優しくされたら一瞬でメロメロになっちゃうの。でも、そういう人はやっぱり合ってないかなぁ」
ん? 待てよ。
この会話の流れってさぁ……?
「その点みっちーは地味だし、別に顔もフツーだし、勉強も特別できないし、帰宅部だし、ヒョロガリだし、パッとしないじゃん~?」
だよなっ⁈ やっぱり俺はこきおろすよな⁈
俺はキラキラした王子様じゃないもん! 王子の城で『ここは○○の城だ』とか永遠に言わされる兵士Aぐらいだもんなっ⁈
「でも、やっぱりみっちーがタイプだなぁ~!」
「これアメとムチの配分合ってる?」
砂糖1粒とグリンガムのムチぐらい差があったと思うんですが。
まぁ沙那も俺相手だから冗談で言ってるだけなんだけどさ。
「そんなにこき下ろして、俺のどこがタイプなんだよ?」
あ、聞いちゃった。こんな恥ずかしい質問自分でするものじゃない。
「んーと……」
俺のエゴエゴ質問を受けた沙那は少しうなって、自信満々にこう答える。
「やっぱり一緒にいて安心する……落ち着くところが1番!」
「あー嬉しいわありがと」
よっし! 俺が思われたいこと、ちゃんと沙那に伝わってた!
内心はかなりガッツポーズしているが、悟られないように軽く流すフリ。
「私、ホントはみっちーと結婚したいもんっ!」
「ごへっ⁈⁈」
【悲報】俺のクール演技、一瞬で終了のお知らせ。
人間、『五平餅』って発音するとき以外に口から『ごへっ⁈⁈』が出たらもう終わりっす。
け、けけけ……結婚……?
幼なじみの女の子が『将来○○くんと結婚しゅりゅ~♡』なんて言うのはたまに見るが、それは幼女限定の話。
俺らもう高校1年ぞ? その……多少なりともリアリティがあって生々しく聴こえるんですが……?
「だって絶対みっちーっていいパパになるじゃん~。家計が優しくなりそう」
「かっ、家計が優しくなるのは業務スーパーの値引きシール貼られまくり激安食材だろ⁈ 変だなぁ~⁈」
「……変なのはみっちーじゃなぁい?」
「ひっ……」
ダメだ、沙那のおバカを軽いじりしてもビクともしない!
また俺が押されてる!
「あれあれ~まさか想像してる~? 私がお嫁さんになったとこぉ~!」
「なわけ! 沙那の日本語が変すぎてビビってんだよ!」
沙那は左手の薬指――結婚指輪をつける指をまじまじと見つめる。
「私らさぁ、昔から仲よかったのにこういう話してこなかったじゃん?」
「そうだよ、幼なじみのこの手の話はちっちゃい頃にやっとくべきことで……!」
唇をとんがらせながら空を見上げる沙那。
そして、囁くような息だけの声で小さく――。
「この年でそう思うってことは、きっとホンキなんだろうね?」
「ぐっ……!」
俺の脳みそを、沙那の甘い言葉が埋め尽くす。どっぱどっぱピンク色の汁が噴き出してくる。
ズルい、ズルいよ……。今の沙那と結婚したくない男なんてこの世にいるのかよ……!
「まぁないかぁ~、いまさらっ!」
ちくしょ、俺の動揺も知らないで!
「結婚の前にまずカレカノにならないとだもんねぇ~。ないない~!」
「そ、そうだよ……」
「はぁ~あ、じゃあ他に優しくてイイ人見つけなきゃだなぁ。そんな人っているのかなぁ~」
「このぐらいの男ならどこにでもいると思うよ」
「あー、ちょっとネガティブだぁ~!」
うりうり、と俺の頬をいたずらっぽくいじくり回してくる沙那。
……桐龍よりは俺のほうが合ってるってだけで、俺の上位互換みたいなヤツは世の中にごまんといる。
次の恋で沙那が幸せになってくれたらいい。
市川道貴は、羽井田沙那を応援しています!
地方の中小企業の低予算CMばりに頼りないガッツポーズを心中でしながら、俺はそう誓った。まずお前も頑張れ。
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