(仮)揺れる心 ざらつく心 息づく心

紫陽花の花びら

ざらつく心 今の俺

 五十になった。まさかこの年までひとりでいるとは思っていなかった。まあ今のご時世なら判らなくもないが、俺の時代は当たり前ように家庭を持ち、子供がひとりかふたりていて。これまた当たり前のように家のローンなんか背負い青息吐息で払っている。そんな姿を描く至って普通の男だった。

夢? 何かやりたいことでもあればそれに向かってダッシュでも、羽ばたいてでも何か掴もうとしたかもな。然し、生憎何にも無かったんだ。普通に普通に生きるのが一番なんだって……才能があるとかないとは一先ず置いといても突き動かされる何かがあれば、少しは目の前に広がる景色は違っただろう。だか今となっては五十路男のどうでも良い愚痴だ。

「恭介さん、お昼なに食べます?」

ぼっとしていた俺の肩を軽く叩く

のは年下の上司林田裕司。

「お疲れ様です。すんませんね。

ぼっとしていました」

「恭介さん、敬語とかやめてください。僕はリスペクトしているんですから」

「いやいや、リスペクトってねぇ大袈裟な事仰いますね。だいたい名前呼びって……佐々木2号でも良いのでお願いしますよ」

この職場には俺ともうひとり先輩の佐々木さんがいて、当然先に入社している佐々木さんは佐々木と呼ばれている。上司の林田さんは悩みに悩んだと言いながら、名前呼びを始めた。最初は首を傾げていた周りも、今は当然のようにそれに習っている。会社で名前呼びとはどうにもこうにもざわざわするのだが。仕方ない上司命令だからな。

「係長は?」

「僕は、春崎のラーメンと餃子」

「では! お供いたしましょう!」

「よしゃ! 恭介さんいざ参ろ~春崎退治に~」

何とも乗りやすい係長様だっ!

まあでも考えたら俺の息子でも可笑しくない年だもんな。まだまだ可愛いくて当然か。

 三度の転職でやっと腰を落ち着けそうな会社に出会えた。

まさか俺が転職……人生何が起きるか誰にも予測つきゃしない。





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