ギガンティックお嬢様 ~このままだと最終兵器に乗る悪役令嬢は、超絶カワイイ後輩系主人公の為に絶望ルートを回避し続けます~
第12話 高高度滞空戦術3Dプリンタープラットフォーム【濫觴(らんしょう)】①
第12話 高高度滞空戦術3Dプリンタープラットフォーム【濫觴(らんしょう)】①
【姐さん! 姐さんってば! スピード! スピード出し過ぎあああああああああ】
悲鳴に似たエラーメッセージが、メインモニターを埋め尽くした。
アリアは構わず操縦桿を倒して、可能な限りの速度を出していた。
【ば、バラバラになっちゃう! 空気抵抗って知ってます!? 知ってますよね! もうちょっとスピード落として!】
「もっとスピード出して!」
【無茶言わんといて下さい! 姐さんも粉々になりますよ!?】
「モニカが! モニカが死んじゃう!」
救難信号を上げること。
それはお嬢様にとって、かなりの危機的状態と言っていい。
ゲームでも確かに、こんな感じのイベントはあった。
だがそのほとんどで、救難信号をあげたキャラクターはやられてしまう。
特に大陸関係のミッションだと、【アトランティス】からやってくる無人兵器、特に特攻ドローンの攻撃が容赦ない。
僅かにでも隙を見せたならたちまち群がられて、爆風と熱風でGLはゴミくずのように吹っ飛ぶのだ。
血も涙もない、殺意だけで動く殺人機械たち。
それが、三大勢力をもってしても上陸に足踏みをさせる理由だった。
「サム! あとどのくらいですの!?」
『もうすぐだ。そのまま十二時方向へ』
段々と見えてきたその景色に、アリアがゾッとする。
最初はカモメか何か、海鳥かと思ったが違う。
煙を上げて燃え盛る艦隊のその上空を、ワラワラと飛び回るエイのような機械。
これが大陸からやってくる特攻ドローンたちである。
その母体のような巨大なオニイトマキエイ、俗に言うマンタのような無人兵器が、はるか上空にゆっくりと翼をはばたかせて旋回している。
口に見える射出口あるいは出撃カタパルトからは、ドンドンと子エイたちが吐き出されていた。
その下で、子エイたちの群れに追い回される貴婦人が二人。
モニカ機と、おそらくはアリシア機だ。
まだ他のお嬢様たちは到着していないらしい。
主人公らしいシチュエーションだ。
「モニカ!!」
『えっ!? アリアお姉さま!?』
『ひん! アリア様が来た!? た、助けて下さい!!』
驚く顔がモニターに表示される。モニカとアリシアだった。
モニカは一瞬うるっとしたが、すぐにお嬢様の顔になる。
『お姉さま! マグナムシャネルズの船団が壊滅状態です! 避難誘導したいんですが……』
「危ない!」
アリアがアクセルペダルが折れるレベルで踏む。
重力緩和があるとはいえ、一瞬眩暈がするようなGがかかる。
「だらっしゃあ!」
モニカの【カラドリウス】――初期機体からはみる影もない、もうほとんどアリアの機体と同じ構成――を通り越して、【ダイナミックエントリー】が銃を伸ばす。
彼女の機体の背に迫るのは、エイ型の特攻ドローン。
爆発される前に、トリガーをガチリと引く。
ショットランチャーのシェルが飛び出し、エイ型ドローンの口を突き抜けて、拡散。
バッとばら撒かれた榴弾が、殺到する他のエイ型ドローンの装甲にめり込み、爆発。
その爆発が、周囲の特攻ドローンは連鎖的に爆発。
群れの一部が壊滅したのを受けて、特攻ドローン達が一斉にアリア機を見た。
一斉にギュン、とこちらを見るのは恐ろしい光景だった。
思わず悲鳴を上げそうになったが、アリアは恐怖を誤魔化すようにして、後輩二人に檄を飛ばす。
「モニカ! アリシア! ぼうっとしてないで撃ちまくりなさい!」
『は、ハイ!』
『ひぃぃぃん!』
ダメ押しとばかりにアリアが銃撃。
背後に並んだモニカ機とアリシア機が夢中になって撃ちまくる。
殺到した特攻ドローン達がどんどんと撃ち落とされて、連鎖的に爆裂する。
三機固まって面攻撃をしたのが功を奏したようだ。
あれよあれよと、特攻ドローンの群は粉々になって海へ落ちていく。
まるでハチの群れに殺虫剤をかけたように、ボロボロと、しかし爆発を伴ってだ。
気がつけば全消し、とばかりに視界が晴れ渡った。
第一波は何とか倒せたらしい。
――っぶねー!
――ミサイル撃ち落とす、面効果重視の装備で良かった!
――ガトリング砲だったらギリ危なかったかも!
そうだ、と弾かれたように後ろを振り向くアリア。
そこにはアリア機そっくりなモニカ機【カラドリウス】と、キョロキョロと四方を見回すアリシア機【ジャンヌ・ダルク】がいた。
「二人共、損耗報告!」
『ひ、ひん! 特にありません!』
『――――――』
「モニカ!? 返事なさい!」
『素敵……』
「はい!?」
『あんな大群を一瞬で。流石、流石はお姉さま』
小型ウィンドウいっぱいに表示されたのは、モニカのうっとりとした表情。
頬に手を当てて、頬を赤らめている。
目も潤んで、何やらヤンデレの気配まで纏っているような。
いや、もっとやべーやつ。
キマったような。
いや、キメたような。
そんな表情になっている。
ちょっと行く末が不安ではあるのだが、無事。
それだけで十分。
アリアは思わず「あ“〜〜〜〜〜も“〜〜〜〜〜〜!」と大きくため息をついていた。
【警告:尚も敵機増加中】
弾かれるようにして、アリアもモニカもレーダーに示された方へ機体を向ける。
周囲のお嬢様たちも集結しはじめた。
『素晴らしい連携だアリア。ワザと自分を囮にして向かってくる方向を集中させるなんてね』
いやこればっかりはたまたまです、とは言えず。
ゲームだと僚機、つまりアリシア機を囮に引き撃ちしまくって何とかなった、とも言えない。
『第二波が来る前に状況を整理しよう。この海域は三大勢力が唯一争ってはいけないと決めている場所だ』
表向きは、というのをサムは後付けてした。
『本来無人機はここまで出てこない。あの巨大なエイと無数の子エイは、いつも大陸の空を旋回していたという報告がある』
「何故か今日になってこちらにやってきた?」
『ああ。船団は為す術も無く壊滅。各勢力の護衛のために
サムがその当時の映像を回してきた。
それは悲惨な光景だった。
特攻ドローンは夕暮れ時に止まり木を求めて集団で飛ぶムクドリが如く、次々と船団に襲いかかる。
護衛用の
やがて弾丸の切れ目に合わせて接近されて、爆発。
船は燃え上がり、何機もの
『現在アキバ・クーロン電脳商会の調査船団は半壊。マグナムシャネルズの調査船団については壊滅状態だ。奇跡的に波動砲教会の調査船団だけは軽微なダメージで済んでいる』
「避難民をそちらへ移すまで、この無人機たちとやり合うというわけですわね?」
『加えてあの巨大無人機の撃破だ。あれが世界に向けて飛んだら洒落にならない。危険極まりないが、やれるかい?』
「当然ですわ」
モニカを守る為なら当然受ける。
それは自分の生にも繋がるからだ。
彼女が死んだらおそらく、自分は全く知らないルートに突入する。
最悪、どこぞのゲームよろしく剪定されるべき世界と高次元なものに見放されて、終末世界の破滅がものすごい早く来るかもしれない。
この世界にそぐわない、オカルトな言い方かもしれない。
だが、アリアの中の人が転生した段階で、科学だの何だのという常識は崩れている。
何が起きてもおかしくない。
ならば知りうる限りのリスクを潰すしかないのだ。
今のところ、このミッションがとんでもなく早く展開されているという点を除けば、ゲームで経験したことのあるもの。
だから大丈夫。
ある程度知っているから、怖くない。
そう思いたい。
眼前に映る光景に、「やっぱ怖いかも」と思ってしまうけど。
エイ型の母体が、ゆっくりと旋回して、こちらを向いた。
まるでチキンレースを挑んでくるかのような立ち位置。
これからが本番である。
『アリア。あの巨大なマンタみたいなのは、ざっくり言えば超技術の自律式3Dプリンターらしい』
「3Dプリンター……」
『自身は攻撃能力も防御能力もない。本当に空飛ぶ3Dプリンターだ。ただものすごい速度で特攻ドローンを作る。攻撃力は航空空母並にあるぞ』
3Dプリンターと
だが、その技術はアリアの中の人の世界でも目覚ましい進化を遂げている。
特に建築や工業の世界には特に著しい技術革新を進めていた。
たとえば世界遺産サグラダ・ファミリア。
バチクソに入り組んで複雑怪奇な作りの教会。
着工から竣工までどんだけ時間がかかるんだと言われていたが、3Dプリンターの導入により工期が一五〇年短縮したと言われている。
超古代のぶっ飛んだ技術なら特攻ドローンを生み出すことができるのだろう。
この辺りの解説や、ミッション後にアンロックされる報告書という名の設定集に色々と書いてあった。
しかしアリアの中の人はそんな感じのフレバーテキストに然程興味もなく、
「なるほどわからん」
とすぐ閉じていた。
もう少し読み込んでおけばよかったと今更ながらに後悔している。
もちろんアリアの中の人も、ゲーム内でこいつと戦ったことはある。
ずいぶんとボコボコにされたが、最終的には鼻歌交じりで倒せるようになった。
ただ、こう、コクピットから見るとめっちゃデカくて怖い。
「三大勢力は最終攻撃目標を高高度滞空戦術3Dプリンタープラットフォーム【
「モニカ、気合を入れますわよ!」
『ハイ!』
「アリシア嬢は……怖ければ帰ってもよろしくてよ?」
『や、やります! や、やってやる! ですわ!』
モニカの側に並ぶ、シルバーの機体。
アリシアの【ジャンヌ・ダルク】だ。
全体的に甲冑を着たようなシルエット。
レーダー部は最小限に、装甲を厚くしている。
腕部も細身ながら頑強な印象を受け、その両手には対GL用のグレネードランチャーを装備している。
アリアのものよりも拡散率は少ないが、この雑魚が多い中でエアバースト式に切り替えられる榴弾は心強い。
僚機にピッタリな、中距離支援型機。
自機の武装次第ではストーリー最後まで運用可能。
それがアリシアの機体であった。
すぐにGLが集まってきた。
付近で仕事をしていたのか、ピカピカな機体もあれば僅かに損傷している機体もある。
その数、二〇機ほど。
一騎当千の彼女たちがそれだけ集まれば、大隊の火力に等しい。
これだけ戦力が集中すれば問題ない。
そう誰もが思っているかもしれない。
しかしアリアだけは知っている。
――ゲーム通りであるなら。
――このうち、半分も残らない。
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