第17話 炸裂、獣人モード!

「吹っ飛びなさい!」


春香が強く地を蹴り、突きを繰り出す。

衝撃波を伴うほどの強烈な一撃だが、柿原は涼しい顔でそれをいなす。


「女の子に手をあげるのは好きじゃないんだけどなー」


にこにこしながらそんなことを言って、柿原は大きく跳躍し木の枝の上に飛び乗った。異能力者なのだろう。とんでもない身体能力だ。

しかし……

「異能力を使っている素振りはありません。油断しないように」

春香は柿原から目をそらさず、そう言った。


紗夜は頷くと、火の玉を作り出した。

「キラヌイ、私たちも行くよ」

(おっけー!)

紗夜は両手を前に出し、火の玉を次々に柿原に向けて放つ。


「狐火蓮華!」

「おー、派手だねー!」


柿原は楽しそうに火の玉を避け、地上に降り立つと紗夜に向かって走り出した。

「紗夜さん! そのまま牽制をお願い!」

春香はそう言うと、柿原を迎え撃つように走り出した。

そして、柿原に蹴りをつづけざまに放つ。柿原はそれを紙一重で躱すと、春香の腹部に拳を叩きこんだ。


「ぐっ……!」

「なんだ、どうやら話ほどの強さじゃないな」

「誰が……!」


笑う柿原の腕をそのまま掴む春香。

そして、上空に強く放り投げ、異能力を解放した。素早く自分も跳躍し、柿原を先回りする。そして、勢いよく踵落としを放つ。


「轟天崩撃!」

「うわあ!」

(ハルちゃんつよーい!)


見ていた紗夜が思わず叫び声をあげるほどの一撃だった。

し、死んだのでは?思わず柿原の方を心配する紗夜。

しかし……


「あっぶなーー。殺す気かよ」


砂煙の中から現れたのは平気な顔をした柿原の姿だった。

「そんな……」

思わず絶句する春香。柿原は素早く近づき、そんな春香の首を絞めあげた。

「今のは危なかった。やはり朝日家は要注意だな」

「や、やめて!」

(だめだよ紗夜!)


慌てて紗夜が制止に入るが、柿原にあっさり避けられ蹴り飛ばされてしまう。

「君はまだ敵にもならない。あとで回収してあげるから今はおとなしくしてな。大丈夫、君のことは殺しはしないからさ」

そう言って柿原は春香の首を強く絞め上げ始めた。

「ぐ……ああ……!」


「春香ちゃん!」

(ハルちゃん!)


無意識に柿原に向かって紗夜が手を伸ばす。すると、手から青白い炎の球がすさまじいスピードで柿原に向かって飛んだ。

「なんだ!?」

柿原は春香から手を離し、その火の玉を両手で受け止める。

「ぐ、あ……だぁ!」

今までとは明らかに違う反応を示しながら柿原は火の玉をはじき、紗夜の方を見る。

そこには、青白いオーラを纏う紗夜が鋭い目で柿原を睨んでいた。


『ハルちゃんから、離れろ!』


紗夜の口からはキラヌイと紗夜の声が同時に発せられていた。

「あれはいったい……」

春香は咳込みながら紗夜をいぶかしげに見た。以前見た和装の姿とも違う。

よく見ると紗夜の体を包むオーラが動物の体を模しているようにも見える。


『狐火蓮華! 』


再び連続で炎を飛ばす紗夜。しかし、先ほどまでとは威力もスピードも段違いだ。

「おいおい、まるでマシンガンだな!」

慌てて回避する柿原。しかし。

『遅いよ!』

目の前に紗夜が現れる。

この少女は蹴りを主体としているはず。とっさに足技への防御を試みる柿原。

その予想自体は正解だった。だが……


『狐火! シュート!』

「な……!」


青白い炎を纏った一撃。それは予想外の威力だった。

両手で受け止めたにも関わらず、大きく吹き飛ばされ、地面に数回バウンドして地面に転がった。


「ここまでとは……やはりその力……なんとしても手に入れなくては……!」


柿原はそう呟き、ふらつく体を気力で立ち上がらせる。

紗夜は警戒を解かず、柿原を睨む。


『まだやるつもり? 死んじゃっても知らないよ!』


しかし柿原は不敵に笑った。

「ふふ、君たち相手に奥の手を使うことになるとはね」

そういうと、手を広げ、声を張り上げた。


「みせてあげよう、僕の能力を!」

『っ! させない!』


慌てて阻止しようとする紗夜。だが、それは失敗に終わった。




「異能力・雷劫」




小さな、それでいて良く通る声とともに、雷が柿原のどてっぱらを貫いたのだ。

「が……あ……」

柿原は一撃で気を失い、その場に倒れる。

『い、今のは!』

紗夜が振り返るとそこには煙草をふかし手を振る雷月が立っていた。


「やぁ、遅くなって済まないな諸君。しかし、ははっ、こんな時間にお外に出ちゃダメだろー」


雷月は乾いた笑い声とともに煙を吐き出した。

「雷月先生……」

『先生!』

雷月は安心したような表情を浮かべる二人を見て、少しだけ口元を歪ませた。


「宵闇はどうやら一枚殻を破ったみたいで結構結構。しかしまさかこんなところにまで源流主義者が現れるとはな」

「先生……」


何かを尋ねようとする春香だったが、雷月はそれを手で制して続ける。


「お前たちはもう宿に帰れ。明後日には最終試験だ。疲れを残していると結果を出せんぞ。こいつはわたしが処理しておくからさ」


そう言うと雷月は柿原を肩に背負って神社の方へ歩いて行った。


「先生が対処してくれるならひとまず安心かしら。ねぇ? 紗夜さん。あら?」

「うぅーん……」


春香が紗夜を見ると、力を使い果たしてしまったのだろうか。紗夜はすやすやと眠ってしまっていた。


「……ふふ。帰りましょうか」


春香は微笑むと紗夜を背中におぶり、宿への道を歩き始めた。

紗夜さんはまた一つ強くなった。そろそろ私も、覚悟を決めませんとね。


そう心の中で呟いて。




***




「やれやれ、意外と重いな君は」


雷月は神社の封印の様子を確認してから、柿原を抱えて山を降りていた。


「……もういい。おろせ」

「おや? お目覚めかい? 手加減したつもりはなかったんだけどね」

「全く、本気で人の腹に雷槍をぶち込みやがって。殺す気かよ」


柿原はブツブツ言いながら雷月の肩から降りた。


「話が違うぞ。あの娘はまだ世渡りを使いこなせていない。そう言う話だったろ」

「ははっ! 成長したんだ、素晴らしいことだろ」

「ふん。まぁあの程度ならまだ僕らの敵にはなり得ない。どうでも良いさ」


柿原は少し不満そうにそう言って、ジャージの汚れを払った。

「じゃあ僕はもう行く。ボスに報告もしなきゃいけないしね」

「あぁ、じゃあな」


雷月は山の中に消えていく柿原を眺め、大きく伸びをした。

「こりゃあ忙しくなりそうだな」





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