僕だけが見えるDeathカウントでもう誰も死なせない

カズサノスケ

第1話

 数多の天才回復術師を輩出した一族、トラスティア公爵家。その第18代当主に待望の世継ぎが誕生した。だが、その待望はいずれ絶望へと変わる事にこの時は誰も気付いていなかった。



 ウェルティンと名付けられた公子はすくすくと育った。ある日、居並ぶ公爵家の縁戚の者達の前で板に付いて来たハイハイを披露して皆を多いに喜ばせた。


 その際、ウェルティン公子は急に右手を上へ掲げると縁戚の者の中から幾人かを指差しキャッキャッと笑っては愛くるしさを振りまいた。


 それから数時間が経った時、公子に指さされた者が帰り道に落馬して命を落とした。更に十数時間の後、差し掛かった山道で落石に遭って圧し潰された者もいた。やはり、それも公子に指さされた1人であった。


 当然ながらその死と公子の因果に気付いた者は誰もいなかった。



 それから数年が過ぎ、4歳になったウェルティン公子が数字というものを覚え始めた頃の事だった。


「9」


「12」


 公爵家の屋敷で開かれたパーティの席。公子は数字を口に出しながら招待客の幾人かを指さした。指された方はなぜ公子がその数字を言ったのか?どういう意味を持つのかつかみかねて首を傾げるばかりだった。


 その夜、遠方からの招待客は公爵の屋敷に泊まっていたのだが9時間後に急な病でこの世を去った。そして、自分の屋敷へ帰っていたものは12時間後に階段から滑り落ちて頭を打ち絶命した。


 この時もその因果に気付いた者は誰もいなかった。


 最初に何か妙だと感じ始めたのは世話係のメイドだった。時折、ウェルスティン公子は誰かを指さし数字を言う癖がある。そう言えば、指された人って死んでしまう様な?何となくそう感じ、次はちゃんと確かめてみようと公子の言動に注意を凝らす様になった。


 やはり死んだ……。でも、数字にはどんな意味が?次の機会はそれを探るつもりで見守った。そして、ついには公子が口にした数字と同じだけの時間が経った時、指さされた相手が死を迎えている事に気付いたのだった。


 使用人たちの間で、たちまちウェルティン公子は指差すだけで人を呪殺出来る死神の申し子との噂が広がり始めた。回復術師の名門、トラスティア公爵家。その19代当主継承権を持つ嫡子が死神の様な力を持って生まれてしまった?


 現当主である父親が最初にその様な噂を耳にした際はただの度の越えた悪い冗談だと思った。息子が使用人たちを少々困らせる様な行動を起こし、それへの不満が大きく膨らんでしまった程度に考えていた。しかし……。


 それは死産だった。寵姫が身籠った時、公爵は何とかして生まれて来る子に当主の継承権を移そうと考える様になっていた。ウェルティンの母親である正妻は王家に連なる為、それを翻すのはいささか体裁が悪い。それでも何とかうまい理由を考えて実行に移すつもりでいた。


 そして、その寵姫がいよいよ出産という時、産声は上がらなかったのだ。その前日、たまたま廊下で遭遇したウェルティン公子が寵姫を指さし「13」と口走っていたとの報告を侍従から聞かされたのはその後の事だった。


 ウェルティン公子、御年4歳にて廃嫡とあいなる。ウェルティンは公爵家の遠い親戚の者に預けられる事になった。公爵家の遠戚とは言えもはやただの平民と変わらない暮らしぶりの家、一族の中の偏屈者として追放された翁が1人で住む家だった。


 その者は一族の中で屈指の回復術師として力量を持ちながら、本家に対する度重なる不埒な言動が問題視されたそうだが……、それはまた別の話である。




 10年の時が過ぎ、14歳になったウェルティンは冒険者となっていた。



 今、僕は冒険者ギルドで声をかけられた2人組に連れられて山奥に入っている。彼らが受けたモンスター討伐クエストのお手伝いをする為だ。



「お、おい! ウェルティン君、状況見えてるか!? 俺に補助魔法をかけている暇があったらバルドーを回復してくれ!!」


 僕の隣で攻撃魔法の準備に入っている魔導師のベレットは顔を引きつらせて戦士を指さしながらそう叫んだ。でも、血だらけで魔物に対峙している彼より、後方にいて全くの無傷でいるあなたの方が遥かに危ない。


【05:21】


 それが魔導師ベレットの頭の上に浮かんでいるデスカウント、僕だけに見える死を迎えるまでの時間。


 戦士バルドーの方はと言えば【10:56】。大木の姿を持つ魔物に激しく太い枝を何度も叩きつけられて大きなダメージを受けているのは確かだ。でも、生命の危機という事なら魔導師より猶予がある。


 魔導師ベレットの身に一体何が起きるかまではわからないが、このまま時が進めば死んでしまうのはわかる。その危機に対処してからでも戦士の援護は充分間に合うはず。


「お前! 気は確かなのか!? いい加減にしろ!!」


 鬼の様な形相で睨みつけて来る魔導師ベレットの言葉を無視して魔法のシールドをかけ続ける。



【03:41】



【01:34】



【カウント消滅】


 これで大丈夫、ちょっとギリギリにはなってしまったけど魔導師ベレットの死は防ぐ事が出来た。



 そして、本来であれば彼が死んでいたはずの時。


「げぇっ! なんだこりゃ!?」


 バリンッ!と魔法のシールドに何かが当たって割れた。その音が聞こえた後、一瞬だけ魔導師ベレットの身体が宙に浮く。彼の足下、地面の下に何かがいる。本来ならば地面を破って突き出て襲い掛かるはずだったかもしれないが、砕き切れない魔法のシールドに阻まれている様だ。


 それから何回かバリンッと響いて魔導師ベレットの身体がふわりと浮かされた後、足下の周りの地面ごと宙へ舞い上がり始める。彼の足場になっている土の塊を蛇の様にうねる長い何かが押し上げている。


 よく見るとそれは木の根。なるほど、相手は木の姿をした魔物だからこんな攻撃もあり得るか。土中を這わせて魔導師の所まで進ませ、真下から根の先端を突き刺して一気に仕留めるつもりだったみたいだ。


 それがデスカウントの発生した理由。でも、もう魔導師ベレットの方は心配ない!


【05:37】


 戦士バルドーのカウントを確認してからすぐに癒やしの魔法を唱える。さっきまで頭上から振り下ろされてくる太い枝を防ぐので精一杯という様子だったが、戦斧を強く握りしめると猛然と魔物に打ち付け始めた。防戦一方になった木の魔物はその場にくぎ付けだ。


【カウント消滅】


 戦士から死の危機が去った時、空中に持ち上げられていた魔導師ベレットが態勢を整えた様子が見える。彼が握る杖の先端の辺りでは熱せられた空気が揺らめき始めている。


 あれは火属性の魔法。そうか、魔導師ベレットが狙われた理由はそれにある。戦いの最中、牽制する様に使ったそれは木の魔物にしてみれば炎は大きな脅威と感じたはず。


 今、彼が放とうとしているものは牽制に使ったものとは遥かに大きさが違う。あの火力ならば恐らく一撃で魔物を焼き尽くすに違いない。



【01:00】


 杖の先端に火球が姿を現し始めた瞬間、魔物の頭上にカウントが現れた。




「これは君の取り分だ、受け取ってくれたまえ」


「3枚? 確か銀貨2枚の約束だったと思いますけど」


「助けられたお礼だ、少なくて悪いけどね。」


 魔導師ベレットから頂いた銀貨を腰の皮袋に放り込んだところで戦士バルドーが僕の顔をのぞき込んで来る。


「ウェルティン君、それにしてもあいつの攻撃を予測するなんていい勘をしているな!」


「木の姿をしていましたから、ああいう風に根を使う事もあるかな〜〜と」


 ウソをついてしまった。でも、他人の死までの時間が見える、そんな能力を持つのを他人に教えてはならないというのが僕を育ててくれたお爺様の遺言だった。


「俺達はちょうど腕のいい回復術師を探していたところだ。これからも一緒にどうかな?」


「えぇ〜〜と。僕は回復術師というわけじゃなんです、治癒系の魔法を少々使えるというだけで……」


 本当の事を言った。僕に見えている数字がデスカウントなのだとわかってから、それを最も有効に活かせる術を身に着けてみた。その中の1つにお爺様が得意にしていた治癒魔法がいくつかあるだけなのだ。


 彼らともう少し冒険を続けてもいいかな?実はそうも思っていたけど気が変わった。別れを告げて気が変わった理由に目を凝らす。


 あそこまで1時間ほどで辿り着けるかな?ちょっと深そうな森の茂み、その上にそれが浮かび上がっている。


【01:17:39】

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僕だけが見えるDeathカウントでもう誰も死なせない カズサノスケ @oniwaban

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