特訓

 ルナとの旅を終えて数日が経った。

 俺は今までと同じように調竜師としての日々を過ごしているが、段々と形になっていく俺とルナの結婚式に関しては……何だろうか、ワクワクもするしドキドキもするしで忙しない。


「最近なんかソワソワしてないか?」

「……そう見えるか?」


 昼になりリトと飯を食っている時にそう指摘された。

 まあ俺としても一世一代のイベントになることは確実だし、何より結婚式なんてこれから先ルナ以外と挙げることは絶対にない……それはつまり、俺の人生において最初で最後の結婚式なわけだ。


「まあなんだ。近いうちに伝えることがあるから待っててくれ」

「何かあるのか……分かった」


 明らかに意味深な言い方になったけど変に隠すよりは良いだろう。

 それからリト以外の調竜師たちとも話をした後、俺はもしかしたら首を長くして待っているであろうルナの元に戻った。


“遅い……遅いぞゼノ!”

「悪い悪い」


 やっぱり待っていたようだ。

 昼食の為に少しの時間を離れただけなのに、彼女と新たな関係を構築してからは前にも増してルナの独占欲が強くなったように思える。

 早く傍に来いと尻尾をバンバンと地面に叩きつける彼女に苦笑し、駆け足で近づくとのその強靭な腕に抱きかかえられる。


“片時も離れたくない私の気持ちが分かるはずだろ……しかし、あまり我儘過ぎるのもどうかとは思っている。私みたいな女は嫌か?”

「嫌なもんか。よしよし、大好きだぞルナ」

“私も好きぃ♪♪”


 そしてまあ、ドラゴン体から発せられる声のギャップも更に強い。

 俺たちが居るのは相変わらずの神殿エリア、しかしながらやはり他のドラゴンたちもそうだが調竜師たちも絶対に近づくことはない。

 だからこそ、彼女とイチャイチャしていたところで特に何も言われるでもない。

 そして、最近ではとあることが新しい日課として増えた。


“今日も頑張ってみるか”

「もうなのか?」


 そう聞くと彼女は頷いた。

 一体何を頑張るのか、それは彼女が人となったことで察せられることだ。


「少しでも長く、人として居られるように頑張らないとね」


 そうなのだ。

 ルナの新しい日課とはこうして人の姿になり、出来るだけ人間体を持続できるようになりたいということだった。

 俺としては気にしなくても良いし、ドラゴンのルナのことも愛しているのは変わらないんでそう伝えたが、普通に人波の中を俺と歩きたいであったり、人であればどこにでも旅行なんかに行けるということで頑張ると彼女は宣言したのだ。


「何度も言うけど気にはしないけどな」

「そう言ってくれるのは嬉しいわ。でもね? あなたがドラゴンである私の愛を受け入れてくれた以上、私もそれに応えたいと思うのよ」


 そう言ってルナは俺に抱き着いた。

 魔法か何かを使ったのか、羽毛のような柔らかいクッションが置かれ、その上にルナに押し倒される形で寝転がる。


「まあ、基本的にこうして人間体であなたの傍に居るのは変わらないわね。まあ私たちはもう将来を誓い合った者同士、これ以外にすることがあるの?」

「……ないな」

「でしょ?」


 ということで、ルナの人間体の維持時間を延ばす特訓として、俺はこれから彼女と数時間に渡ってイチャイチャするという任務が幕を開けた。

 お互いの体に触れあいながら色んなことを話し、人と人が行う交流を彼女と行うのもやっぱり癒しの時間の一つだ。


「これなら王都の中を自由に歩けたりはしそうね」

「だな。それもそうだけど、ルナの背中に乗って飛ぶのも大丈夫そうか?」

「それも許可は取ったわ。いつでも外に出て良いそうよ」

「そうか。それは良かった」


 王都の周り限定ではあるが、彼女と自由に外に出ることは可能だ。

 ……っていうか、よくよく考えれば彼女は今までも黙って外に出ていたようなものだし、その部分は今までと特に何も変わらないな。


「けどなぁ……」

「どうしたの?」

「いやさ、ルナって美女じゃん?」

「……それで?」

「ドラゴンの時も……美ドラゴン? みたいな感じじゃん」

「何よその語呂……でもそれで?」

「そんなルナと出歩いているとやっぱりちょっかいは受けるわけだ」


 そう伝えるとルナはあ~っと頷いた。

 ルナと出歩くと多くの声をかけられることは証明されているし、だからといってそれを面倒だと思うわけではなく、進んでルナのことを守ろうという気持ちはある。

 けど中には過激な手を取る奴も居るかもしれない……そうなると不安なのだ相手のことが。


「大丈夫よ。もしもあなたに迷惑をかけるような連中が居たら消してあげる」

「そこなんだよなぁ」

「仕方ないでしょ? 人とドラゴンの感性は違う。私もある程度は許容できるけど、あまりにも目に余るようだったら遠慮なく消滅させるわ」


 ルナの感覚はやはりここから変わりそうにない。

 まあ俺個人としてもそこまで想われることは嬉しいことだが、やはり穏便に済むならそうしてほしいという気持ちもある。


「……ま、仕方ないか」

「でしょ?」


 それでもどうしてか、それも良いかと納得してしまう自分が居た。

 あの時、ルナの胸から……コホン、ルナの一部である体液が体の中に入り込んだあの時から自分の中で何かが変化している。

 それが影響しているのか、親しい人たちのことは大切に考えることが出来るけれどそれ以外の人たち……つまり、何か危害を加えてくる可能性が少しでもあるのなら、そいつらのことをどうでも良い存在だと脳が認識するかのようだ。


「ほらゼノ、難しいことを考えずにイチャイチャしましょ?」

「分かった」


 まあ、イチャイチャするか!

 それから俺はルナとずっと引っ付いて過ごし、その日もまた俺は彼女が帰ってほしくないと言ったので泊まることにした。

 結果、夜はとても凄かったとだけ言っておこう。

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