第8話 慈愛の天使ルミエール

 パイオンの町に帰ってきたレティーアたち。町に入る前、すぐにおかしなことに気がついた。


「あれ? 空が……」

「ホントだ。薄く光ってる?」


 冒険者ギルドがある辺りの空が、薄い金色の光を発している。周りは青いのに、そこだけ金という不思議な光景だ。

 四人で空を眺めていると、馴染みの門兵のお兄さんが声をかけてきた。


「嬢ちゃん、早くギルドに行きな」

「え、どうして?」

「お客さんだ。レティーアちゃんに用があるんだとさ」

「私に……? 誰……?」


 アキトたちが顔を見合わせる。もしかすると、レティーアのことを知っている人かもしれない。失われた記憶を取り戻す手がかりになるかもしれなかった。

 お兄さんと別れ、ギルドへと急ぐ。ギルドに近づくにつれ、町の人々が集まっていた。

 ギルドがある二番通りにさしかかると、いよいよ教会の神官たちが人々を抑えているものだから、何が起きているのか分からなくなる。

 神官たちの間から一人の老人が出てきた。パイオンの町の教会の司祭だ。


「司祭さん。何事ですか?」

「レティーアさんにお客さんですわい。いやはや、お目にかかれるとは光栄ですな」


 疑問に思いながらも、レティーアたちがギルドへと歩いていく。

 ギルド前で、一人の女性が立って誰かを待っていた。恐らく、この人がレティーアを訪ねてきた人なのだろう。尤も、予想を軽く越えてくる来訪者ではあったが。

 背中にあるは三対六枚の純白の翼。頭上で光る金色の光輪。桃色の髪を美しく伸ばし、おっとりとした瞳の顔立ちは見る人に癒しを与えていた。白い羽衣のような衣服が完璧な肢体と巨乳を魅せている。

 神話に登場する天使。それが、こうしてパイオンの町のギルドに姿を現したのだ。

 天使は、レティーアの姿を見ると優しい微笑みを浮かべた。軽く飛び上がり、滑空してレティーアの前にスッと降りる。


「突然訪ねてごめんなさいねレティーアさん。それと、皆さん。私は大天使、慈愛の天使ルミエール。この世界の最高神、マーロ様の遣いとして参りました」


 透き通るような美しい声で、天使――ルミエールはそう言った。

 天使が相手ということで、レティーアたちに緊張が走る。アキトが、恐る恐る会話を試みた。


「えと、ルミエール様がどうしてここに?」

「レティーアさんと貴方がた三人にマーロ様からのお言葉を伝えるためですよ」

「わ、私!?」

「僕たちもですか?」

「ええ。『話したいことがある。近いうちにルクスヴァニラにあるクリスタル山に来てほしい』だ、そうですよ」


 ここ、ユーロン大陸の中央から少し北東方向に進んだ場所にある、ロミオス王国領の都市、神都ルクスヴァニラ。そのルクスヴァニラを麓に持つ、神々が棲むとされる山。それが、クリスタル山だ。

 この世界の活力の源である、ソウルクリスタルと呼ばれる特別な結晶でできたこの山は、神聖な場所として信仰の対象にもなっている。ユーロン全域からルクスヴァニラに足を運ぶ人がいるくらいだ。

 そんな神の山に来るようにとの最高神様からの呼び出し。アキトの脳裏に、森で見たガーゴイルの死体が浮かぶ。


「分かりました。明日にでも出発しようかと……いいかな?」

「私は構いませんわ」

「あたしもいいよ~」

「もちろん、付いていく」


 レティーアたち女子三人組の承諾は得た。明日から、ルクスヴァニラへの旅に出る。

 一連の流れを見ていたルミエールがにっこり微笑んだ。そのまま翼を広げ、空へ舞い上がる。


「では、お待ちしてますよ。またクリスタル山でお会いしましょう」

「はい」

「っと、そうでした。忘れるところでした」


 ルミエールがもう一度地上に降りてくる。指を鳴らすと、宙に魔法金属オリハルコン製の鎧が出現した。


「マーロ様からレティーアさんへの贈り物です。着心地など確認してほしいので、着替えてほしいのですけど……ギルド、使わせてもらっていいですか?」


 ルミエールがギルド内にいた受付のお姉さんに訊ねる。まさか話しかけられると思っていなかったお姉さんは、固い動きで許可を出した。

 ルミエールから鎧を受け取り、レティーアがギルド内に入っていく。しばらくして、戻ってきた彼女の姿を見てアキトが息を呑んだ。

 肩と胸部、腰を守る金属の鎧。神の加護がかけられ、人の技術では到底不可能な伸縮可能の籠手。へそ出しスタイルで可憐さを残しつつ、桃色のスカートが目を引く。もちろん、このスカートも神の加護がかけられており、雑魚の魔物の攻撃程度では破れることはない。

 美と武を体現する戦乙女。レティーアの姿はまさにそれだった。


「ど、どう……かな?」

「うん。すごく可愛いと思うよ」

「さすがはレティーアさん。よく似合ってますね」


 アキトとルミエールが褒める。二人の言葉を聞いたレティーアは、少し嬉しそうだ。

 用事を終えたルミエールが飛び去っていく。その後ろ姿を見送り、四人でギルドに入る。

 クエスト成功の報告とギガンテス討伐の報告。そして、見つけたガーゴイルについて報告したあと、明日に備えて早めに休むことにした。

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聖剣神話~一人の少女と絶望の神々~ 黒百合咲夜 @mk1016

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