第17話:置いてかれたアンナ、帰ってきた第二王女

 「今日から本格的な戦闘訓練を行うわ。アンナにはこの子を倒してもらうから、頑張ってね。」


 いつも通り森に転移した後、師匠はそういった。この子といって師匠が指さしたのは人の形をした赤い炎。炎人でも表現すればいいだろうか。そんな感じのやつが、私に向かって突っ込んでくる。


 「ちょっ!?」


 一直線にやってきた炎人。しかし、昨日までの師匠の理不尽と比べると遥かに襲い。私はそれを難なくよけ、攻撃をしかける。


 「六色弾カラーバレット


 まずは属性相性を見極めるため、火弾、水弾、地弾、風弾、光弾、闇弾を連続して放っていく。ちなみに六色弾カラーバレットと一言で言っているが、実際は各属性の魔術を連続して放っているだけだ。いちいち火弾水弾・・・っていうの面倒だしね。


 炎人は私が放ったその弾丸を避けようともせずにこちらに突っ込んでくる。結果として全ての弾が当たるが、どれも効果なさそうだった。


 「じゃぁこっえ”っ”!?」


 先ほどと同じように、そのまま突っ込んでくるのかと思いきや、私が使った魔術をで放って来た。いままでは魔術が放たれる際、時空の歪みとでもいうべきラグがあった。しかし、いまこいつが放ったものにはそれがない。

 再び私の首が飛んだ。


 「はっ!?くっ!」


 「ほれほれ、頑張れ頑張れ。」


 何故弾丸なのに首が飛んだのか。ちょっとよくわからない。しかしそんなことは関係ないと、蘇生された直後にも関わらず炎人は襲ってくる。しかも私が放った魔術を使用して。


 「う”っ”!」


 それから蘇えるたびに殺される。来るとわかっているなら盾とか障壁使えばいいじゃんて思うじゃん?私もそう思って3回目以降はやってるんだけどね。どの属性のバリアを使ってもダメ。神盾イージスでもダメ。まるで何もなかったかのようにすり抜けてくる。それは炎人本体も一緒。もう意味がわからない。


「くsぐ”ぁ”っ”!」


 開始直後に転移しようとするがそれよりも早くこちらに攻撃されて死んだ。



「よしっ!い”っ”?」


 何回目かの挑戦で、魔力を体にまとうことで攻撃を防ぐことに成功。かと思ったが、まとっていた魔力すらも燃やされて死んだ。


 

 結局その日はただひたすらに蹂躙されるだけで終わった。それは翌日も翌々日もかわらない。けれど、日を追うごとに魔力のまといかたが上手くなっていき、徐々に生き残る時間が伸びてきた。そして



 「しゃおらぁ!!」


 第二段階の修行が始まって5日目、ようやく一撃を通すことに成功。やっとまともに攻撃が通った。武器?そんなのないから素手だよ素手。クソ熱い。


 「はははは”み”っ”」


 調子に乗って何度も殴ってたら首を飛ばされた。師匠って首飛ばすの好きだよね。


 

 「ふぅ・・・しゃぁぁあ!!!!!」


 その後も何度も戦いを挑んで第二段階の修行が始まって2週間。ようやく倒すことに成功した。魔術師なのに近接戦闘を覚えることになるとは。というか師匠厳しすぎる。一遍死んでくれないだろうか。


 「ふむ、1ヵ月でここまでやれるようになったか。3ヵ月はかかると思っておったが、思いの他戦闘センスもあったようじゃな。よう頑張った。」


 「師匠!!!一遍死ねやお”ら”ぁ”!」

 

 今までの理不尽をここで晴らすべく、無防備な師匠の首を撥ね飛ばす。


 「アッハッハ!!、前に言っただろう。儂は首を飛ばされた程度では死なぬと。」


 確かに師匠の首を撥ね飛ばした。けど次の瞬間、私の首が飛んでいた。こいつまじでおかしいだろ。首が飛んだら大人しく死んどけやくそったれ。




side.ウォート


 「さて、では帰るとしようか」


 こやつには書置きを残しておけばいいじゃろ。


 「アンナよ。二か月後に迎えにくるでな。それまで死ぬんでないぞ。何度も殺した儂がいうのも変な話じゃがな!って聞こえてないか。ハッハッハ!」


 地面に横たわるアンナには儂の使い魔である赤猫を付けて、儂は転移して家に帰る。あっ、もちろん蘇生はしてあるぞ。数分もすれば起きるじゃろ。


 「お帰りなさいませ。主様。アンナ様は一緒ではないのですか?」


 「うむ、ちょっと修行の仕上げのために魔境に置いてきた。まぁ、なんとかなるじゃろ。2ヵ月後に迎えにいくしの。」


 「なっ・・・!死んだらどうなさるおつもりですか?」


 「そん時はそん時じゃ。万一の時のために儂の赤猫も付けとる。心配するでない。儂の炎人を倒せるくらいには強くしたからな。儂の後継を務めてもらうには、あそこで生きれるくらいの物を持ってないと困るわ。ハッハッハ!」


 とはいえ、割とギリギリじゃとは思うがの。まあ、神造ダンジョンで20年も生き抜いてきたと言っておったしな。何とかなるじゃろ。魔境も儂が掃除したばかりじゃからな。そうそう強いものもおるまい。

 

 「さて、それでは儂は地下に籠る。何かあったら呼んでくれ。」


 「かしこまりました。」


 さ、今日からやっとあ奴がもって来た古式魔術の書を読める。楽しみじゃな。

 

 


side.ニーナ

 

 「あっ!サラさん!アンナ様はどうしたのですか?」


 アンナ様の修行が始まって一か月。意識を失って帰ってくるアンナ様を部屋まで運ぶのが私の役目だったのですが、今日はまだ戻ってきてない様子。どうしたのかと思いメイド長のサラさんに聞いてみます。


 「えぇ、彼女は修行ということで魔境に二か月ほどいるそうです。主様はしばらく地下室に籠るそうです。恐らく研究でしょうね。」


 「え”っ”!?あのっ、大丈夫なのですか?」


 魔境って魔境よね!?1級魔術師相当の実力がないと入ることすら許されないあの魔境のことよね!?


 「主様曰く、”儂の炎人を倒せる程度には強くしたから大丈夫じゃろ”とのことですが、私もその強さを把握してないので何とも言えないですね。我々は無事帰ってくることを祈るしかないでしょう。」


 それは確かにそうですわね。魔境がトンデモなくヤバイ所っていうのは有名ですけど、じゃぁ実際どれくらいと言われるとよくわかりませんし。

 しかしどんな修行をしたのでしょうか?毎日毎日気絶して帰ってくるので、相当厳しい修行を行っているのはわかりますが、実際どれほどなのでしょう?やっぱり死んでは蘇生を繰り返しているのでしょうか?さすがにそれはありえませんよね?


 「そういう訳ですので、今日はもう上がって大丈夫ですよ。」


 「わっ!わかりました!お先に失礼します!」


 使用人用の控室で私服に着替えてクリムゾン邸を出ます。折角の早上がりなので、久しぶりにパフェでも食べにいこうかしら?


 「あっ!ニーナ!今日はもう仕事終わったの?」


 「レイア様、お久しぶりです。」


 今日はどうしようかと考えながら、高級店が立ち並ぶ通りを歩いていると、レイア様に声をかけられました。


 「いやだわニーナ。私たち友達でしょう?もっと気軽に話してちょうだい?」


 「さっ、さすがに公爵家の方相手にそのようことはできません。」


 レイア様は先日特級魔術師となったクロウ・ミスガル様のお姉様です。いくら友人とはいえ、もし私が無礼なことを働けばクロウ様に殺されること間違いなしでしょう。ともすれば死ぬよりも痛い目を見るかもしれません。あの方のシスコンっぷりは有名ですから。


 「あらそう?じゃぁ、その辺のカフェに行きましょう。ご飯もまだなのよね?」


 「あっ、はい。そうです。」


 「じゃぁ、決まりね!さぁ、行くわよニーナ!」


 レイア様は私の手を取っていかにもお高そうなカフェに入っていきます。ってここ王家御用達のカフェでは!?王家の紋章が看板に刻まれてますし。


 「あっ・・・あの?レイア様、私ここにいてよいのでしょうか?」


 「大丈夫よニーナ。ここは貴族用のカフェだもの」


 「えっあのっ」


 レイア様はそういいながら、私の手を引っ張ってどんどん中へと進んでいきます。そして個室にたどり着くと、そこには服装からして高貴な方と思われる女性が座っていました。恐ろしく美しいお方なのですが、もしかして第二王女様とかいいませんよね?


 「あの、レイア様。この方は一体・・・?」


 「この方はシルビア第二王女様ですわ。あなたも知っていますでしょう?」


 えぇぇぇぇ!!!本当に王女様!?私ここにいていいのですか!?あぁ、どなたか助けてください。アンナ様の綺麗なお体を見て癒されたいですわ。


 「クリムゾンの所で使用人をやっているブラウン子爵家の次女、ニーナだったわね?初めまして。シルビアよ。気軽にシルビアちゃんと呼んでくれるかしら?」


 「あ”っ”、えっと、ニーナ・ブラウンと申します。初めましてシルビア様。どうも私は間違えたようですので、これにでぇ!?」


 恐らく私の勘違いだと思い、その場を去ろうとしたところ、レイア様に首根っこを掴まれました。


 「あらあら、間違えてませんわよ?私が連れてきたんですもの。シルビアちゃん、ニーナも一緒でいいですわよね?」


 私の勘違いではなかったようです。ところでレイア様。なぜ王女様をちゃん呼びできるのでしょうか。私は恐ろしくてできません。


 「えぇ、もちろん。ここでは様は入らないから、遠慮なくシルビアちゃんと呼んでくれるかしら?」


 「し・・・承知しました。シルビアs・・ちゃん。」


 「ほらほら、もっと気軽でいいわよ。」


 「わかりました!シルビアs・・・ちゃん。よろしく・・です。」

 

 「よろしくねニーナ。さ、ご飯にしましょう。」


 そして私たちは夕食を頂きました。とてもいい物だとは思うのですが、緊張して味がわかりません。私は何故ここにいるのでしょうか?


 「そういえば最近クリムゾンが弟子を取ったという話を聞きましたわ。何でもクロウ君とも魔術戦をしたとか!」


 「えぇ、1ヵ月ほど前に弟子を連れて帰ってきたと聞いてますわ。シルビアちゃんはこの間学園から帰ってきたばかりだものね。」


 「そうなのよ!クロウ君が特級魔術師になったことを祝うパーティでクリムゾンの弟子と魔術戦を行ったそうじゃない!それがあるって知ってたら私ももっと早く帰ったのに!私も見たかったわ。どんな感じだったの?」


 なんと、そうだったのですね。パーティに出席したことは知っていましたが、そんなことがあったのですね。私も見たかったです。


 「そうですわね。アンナさん。あぁ、ウォートさんの弟子の名前です。その方は戦闘慣れしてないように見えましたわ。ですが、彼女の使った古式魔術はどれも完成度の高い魔術でしたわ。炎槍の雨を降らせたり、嵐を発生させたり、転移を使用したりと、かなりの物でした。終始、弟の黒雲には対応できていませんでしたが、それでも弟に一撃を入れていたので、戦闘慣れすれば最低でも1級魔術師並みの戦力になるでしょうね。」


 「まぁ!あのクロウ君に一撃入れるなんて中々やりますわね。しかし古式魔術の使い手なんて現代にいるのですね!ニーナはアンナさんのこと知ってますでしょう?どういう方なのかしら?」


 「えっ!あっ、はい。そうですね。とてもお優しい方ですよ。使用人の私たちにも丁寧に接してくれますし。ただ、少し常識がないですね。」


 「あらそうなの?常識がないってどういう感じなのかしら?」

 

 「アンナs・・さんはたくさんの魔法具を持っているのですが、それを隠そうとかそういうことをしないんですよ。私服すら魔法具ですよ?それ以外にもアイテムボックスとか魔法テントとか貴重なモノも持ってますし。古式魔術の書をもって来たのも彼女ですし。」


 「まぁ!そうなのですね。クリムゾンの弟子でなかったら王家で接収も出来たのですけど、手を出せないのが残念ですわ。」


 ひぇっ!!こんなかわいい見た目をしてても王女様は王女様でした。接収ってつまり殺してでも奪い取るってことですよね!?怖いです!!


 「ウォートさんが彼女を弟子を取ったのはそういう理由だと思いますよ。」


 「あら、別に奪い取るとは言ってないじゃない。もしかしたらするかもしれないじゃない?そしたら遺品として回収できたのにってただそれだけですわよ?」


 ひぇぇぇぇ・・・。なんて恐ろしいことを考えてるんですか。アンナ様、ごめんなさい。私発言を間違えてしまいました。これだから貴族社会は苦手なんですよ。早く帰りたいですぅ・・・。


 「さぁ、もっとアンナという女性のことを聞かせてくれるかしら?」


 アンナ様、申し訳ありません。私は自分の命のために貴方を売ります!許してください!

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