第11話:王都1日目(3)

 「アンナ様、起きてください。アンナ様」


 「ん~~~・・・?」


 「おはようございます。アンナ様。主様がお呼びです。」


 ぐっすりと眠っていたらメイドさんに起こされた。そういえば錬金人形を組み立てている最中に眠くなって寝たんだった。私はベッドから起きて部屋からでようとする。


 「お待ちください、アンナ様。髪が乱れております。整えますのでその場でじっとしていてください。」


 部屋からでようとすると、メイドさんに引き留められて髪を整えられる。髪を梳かして、香油を軽く髪につけてもらった。何の香りかはわからないが、ほのかに甘い香りがする。


 「はい、これで完成です。服装はそのままで来て欲しいとのことですので、このまま案内しますね。」


 何も指定されなかったらドレスとか着せられたのだろうか。なんかそんな感じの言い方だったよね。せめて着るドレスくらいは選ばせて欲しいけど。まぁ、関係ないこと考えても意味ないか。


 魔法テントから出てテントをしまう。テントが瞬く間に小さな球になっていく様子をみたメイドさんが驚いていたけど気にしない。そのまま部屋を出て、後から慌ててメイドさんが出てきた。そのままメイドさんに案内され玄関に着くと師匠がいた。


 「おお、来たか。行くぞ。」


 「行くってどこにです?」


 「食事じゃな。王都に来たのは初めてじゃろ?案内ついでに上手いものでも喰わせてやろうと思ってな。」


 おお、それは嬉しい。つまりデートということですね。


 えっ?年齢老婆だろって?見た目がかわいければOKなんですよ。


 師匠と共に家を出て、師匠に案内されるまま王都の中を歩いていく。今いる場所は貴族街のようで、立派な邸宅が立ち並んでいる。といっても塀があるから全体が見えるわけではないけど、見える部分だけでも立派だというのがわかる。


 そのまま貴族街を抜け、高級そうな店が立ち並ぶ広い通りに出る。綺麗に整えられた石畳に、ところどころにある街灯。そして通りからは王城が見え、その真上に青い月が見える。電線とかはもちろんなく、建物も精々が三階建てなので、空が広く見える。とてもいい街並みだ。


「着いたぞ。今日はここで飯を食う。」


 師匠の後ろをついていきつつ、通りを眺めているうちにお店についたようだ。しかし一見するとただの壁にしか見えず、どこから入れば良いのかわからない。


 「ここはな、儂らのような特権階級にしか入れない場所なんじゃよ」


 師匠はそういって右手にはめている指輪を壁に翳す。すると壁の一部がドアになり、勝手に開いていく。指輪を翳したら扉が現れて勝手に開くとか、まさにファンタジーといった感じでロマンがある。通りに面した場所にあるので、隠し扉といえるかは微妙なところだが、これはこれでテンションが上がる。


 「おおー、凄い」


 「かっかっか、そうじゃろそうじゃろ。この仕組みも儂が造ったものじゃからな。かっかっか!」


 えっ、これを作った?魔導具的なやつってこと?魔力とか一切感じなかったんだけど。どうやって作ったんだろう?気になる。


 「ほれ、何ボケっとしてるんじゃ。入るぞ」


 「あっ、はい。」


 師匠に急かされてお店に入る。店の中に入るとドアが自動で閉まり、再びただの壁になった。出るときも指輪をかざす必要があるようだ。


 店内は全席個室となっているようで、客席が見えない。やや暗めの間接照明が高級感を演出し、壁に飾られている絵画もよくわからないけど、オシャレな感じがする。


 「いらっしゃいませウォート様。お待ちしておりました。お席にご案内いたします。」


 「うむ、頼む。」


 店に入って直ぐに店員さんがやってきて、席まで案内される。案内された席には、既に2人座っていて、師匠を見るとその二人が立ち上がって頭を下げた。見た感じ二人とも明らかに偉い人って恰好しているのに、師匠に対して頭下げるってことは、王家の次くらいに偉いって本当だったんだな。正直少し疑ってた。


 「そちらが例の?」


 「うむ、儂の弟子のアンナじゃ。アンナよ。手前の疲れた顔しているおっちゃんがザック、奥の生意気そうな顔しとる若造がハルトじゃ。」


 「ウォート様、少し説明が雑過ぎますよ。初めましてアンナ様、魔術師団 団長のザックと申します。以後お見知りお気を。」


 「あっ、はい。アンナです。どうも」


 確かに疲れた顔してるけど、普通にイケオジでビビる。というかそんな丁寧なあいさつされるとそれはそれで何かこう・・・困る。てか魔術師団の団長ってめっちゃ偉い人じゃん。まじか。


 「初めましてアンナ様。魔術協会の賢者・ハルトです。よろしくお願いします。」


 「あっ、アンナです。どうも。」


 続いて魔術協会の賢者という人からも挨拶をされる。こちらはこちらで、美青年といった感じ。賢者って絶対凄い人の称号だよね!?なんでこんな偉い人がいるの??


 「師匠?」


 とりあえず何が何だかわからない私は師匠に助けを求める。私何も聞いてませんとの強い意思を込めて見つめる。


 「まぁ、色々あるんじゃ。飯にするぞ。お前らも座れ。」


 その色々を私は聞きたかったのだが、何も説明せずにそのまま席に座った。そして私たちが席に着いたタイミングで早速ご飯が出てきた。早くない?


 「ウォート様は会話よりもまずご飯という方ですからね。来たと同時に食事をとれるように注文してあるんですよ。」


 ふと、疑問に思ったことに対してザックさんが答えてくれた。この人めっちゃ察しがいいな。イケメンかよ。イケメンだったわ。


 運ばれてきたのはステーキとパン。フォークにナイフ付き。めっちゃ美味しそう。って師匠もう食べ始めてる!?挨拶とかないの!?


 「なんじゃ、お主らもはよ食べんか。冷めてまうぞ」


 「ウォート様はこういう方だったんですね。」


 「えぇ、まぁ、いつもこんな感じです。我々もいただきましょうか。」


 ザックさんとハルトさんがそんな感じの会話をして食事を始めた。食べていい感じみたいなので私も食事に手を付ける。


 フォークにナイフとか使うの久しぶりだ。久しぶりなわりにかなり上手く扱えてる気がする。頂きます!


 「ん~~~!!美味しい~~!!」


 口に入れた瞬間に油がスッと溶けていき、口の中に肉の旨味が広がっていく。しかも全然くどくない。いくらでも食べれそう。


 「かっかっか!そりゃそうじゃろう!ドラゴンステーキじゃからな!儂が取ってきたやつじゃ!かっかっか!」


 ドラゴンステーキ!ファンタジーにありがちなやつ!絶対いいやつじゃん!これ食べれただけで弟子になった価値があるといもの。ダンジョンの生肉地獄から抜けた先に食べた肉がこれとか本当に最高!!!


 

 「ん~~~!!美味しかったです!」


 「かっかっか!そうじゃろそうじゃろ!!」


 「とても良いお肉でした。ドラゴンステーキを食べたのは随分と久しぶりです。本当に美味しかったです。」


 「えぇ、まさかドラゴンステーキを食べれるとは。さすがウォート様といったところですね。」


 二人の反応を見るにやっぱりドラゴンステーキって相当なモノだったみたい。二人とも口に入れたん瞬間に一瞬動き止まっていたし。

 そういえばしれっとワインも出されてたけど、普通に飲めた。前世ってそんなお酒強くなかった気がするんだけど、やっぱ身体が丸っと変わったから体質も変わったのかな?とても美味しかった。


 「さて、では私からで構いませんか?」


 「えぇ、ハルト殿が先で構いませんよ。」


 「では、アンナ様。お願いがあります。


 「・・・・?」


  お願い???師匠ではなく私に?何だろう?


 「あなた様の持っている魔術書、その写しを取らせていただくことはできないでしょうか?もちろん報酬は用意いたします。」


 「師匠?」


 何故彼らがそれを知っているのかと師匠に問い詰める。別に知られてもいいんだけど、それが私のあずかり知らぬとこで話が通ってることが何か癪に障る。


 「うむ、こやつらこれでもかなりの地位にいるからの。お主とのつながりが出来ればよいと思って紹介したのじゃ。感謝するがよい。」


 紹介するならそれこそ“儂の弟子じゃ“くらいでよかったのでは?そこまで言う必用ある?もしかして自慢したかったとかそういう・・・?師匠ってそういうタイプ・・・かもしれない。ドラゴンステーキとか”儂が取ってきたんじゃぞ!“ってアピールしてた気もするし。

 

 「はぁ、えっとその報酬って何ですか?」


 「前金として協会が保有している最上級の魔術媒体を一つに一億ゴル。そして本の内容次第では魔術書庫アーカイブへのCクラス参照権を与えます。」


 凄いことはわかるのだが、果たしてそれが本の価値に在っているのかわからないので師匠に目を向けると何も言わずに頷いたので、これくらいで丁度いいらしい。


 「えっと、ちなみに魔術媒体ってどういうのですか?私使ったことないのでよくわからなくて。あと魔術書庫への参照権ってどういうことですか?」


 「お主が使っておる古式魔術は魔力で文字を書くものじゃろう。アレの文字を媒体にあらかじめ書いておいて、魔力を流すだけで発動するようにしたのが魔術媒体。最上級というのは、理論上はどんな魔術でも発動できる媒体ということじゃ。魔術書庫っていうのは世界のあらゆる魔術が眠っとる場所のことじゃ。Cランクなら、禁術とか相伝魔術以外のほぼ全ての魔術を参照できる権利じゃな。」


 結局師匠が説明するんかい!なら、さっき頷いたのは何だったんだ。別に私の意図を組んだわけでもないの?


 「ウォート様の仰る通りです。いかがでしょうか?」


 「あっ、はい。問題ないですよ。いつ写します?」


 「では明日の午後にお伺いしてもよろしいですか?」

 

 「えぇ、大丈夫です・・・よね?」


 明日以降の予定を知らないので、一応師匠に確認。頷いたので問題ない・・・はず。ちゃんと聞いてるよね?


 「大丈夫みたいです。」


 「ありがとうございます!!では明日、前金と共にお尋ねしますので、よろしくお願いしますね。」


 「あ、はい。よろしくお願いします」


 とりあえずここにハルトさんがいた理由はわかった。本目当てだったんだね。ってことは・・・


 「さて、次は私ですね。といっても私の用件もハルト殿と同じで、魔術書を写させてもらいたいということ。報酬は・・・そうですね。前金として銀竜の卵、ほんの内容次第では国の宝物庫にある物から好きなのを2つでどうでしょう?」


 だよね。多分そうなんだろうなと思ってた。


 「ザックよ・・・。正気か?竜の怒りを買いたいのか?」


 ハルトさんの時は何もいわなかった師匠が口をだした。何か相当なモノらしい。私としては国の宝物庫にあるものをザックさんが報酬として挙げたのに驚いたんだけど。師団長ってそこまでの権限があるの?それとも事前に許可を取ってたとかかな?


 「銀竜の卵といってもダンジョンの魔物からドロップした物ですよ。ドロップしたのは記録によると100年以上前のようなので、ウォート様も知らなかったのでしょう。当然、あの手この手で卵を孵化させようとしてきたようですが、誰もが失敗したようです。かといって割ろうとすると不思議な力で弾かれるし、売ろうとしても価値が高すぎて誰も買えないんですよね。それでどうにもできないまま時が過ぎて、今となっては貴重なオブジェのような扱いになってますね。」


 「ほう、そんなのがあったのか。知らんかったわ。物品管理とか興味なかったからのぉ。」


 「まぁ、そうでしょうね。そんな気がしましたよ。それでアンナ様。どうでしょうか?」


 「えっと、はい、いいと思います。」


 もしそれが魔物の卵なら魔力を流していけばそのうち孵化できるだろうし、無理でも竜の卵というだけでロマンがある。


 「ありがとうございます。では、私も明日の午後でよいでしょうか?ハルト殿と一緒に用件を済ませたほうが楽かと思うのですが」


 「そうですね。それで大丈夫ですよ。」


 「わかりました。では明日の午後、前金を持って伺いますね。よろしくお願いします。」


 「あっ、はい。よろしくお願いします。」


 そんな感じでハルトさんとザックさんとの交渉が終わった。何かよくわからないけど、色々といいものを手に入れることができたっぽい?


 「さて、話も終わったし帰るかの。」


 「そうですね。ではまた明日。」


 「えぇ、また明日。」


 そして私たちは店から出て解散。各々の家へと帰っていった。



 家に帰ってそのまま部屋で寝ようとしたらメイドさんに叩き起こされて服を脱がされ、全身くまなく体を洗われ、そしてかわいい寝巻を着せられた。有無を言わさぬ圧が凄かった。心なしか胸とか太ももとかやたらと丁寧に洗っていた気がするのは気のせいだと思いたい。


 とりあえず、疲れてたところで襲われて更に疲れたので、今日はさっさと寝る。おやすみなさい。


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