荒廃と荒野って似てるけど全然違うよね

 えっちらおっちら道を歩いて行くと、舗装がどんどん綺麗になっていったよ。街に近づいている証拠だね。

 街と街の間には馬車鉄道は敷かれているんだけど、村までは敷かれてない。えっちらおっちら街を歩くしかないね。そもそもぽちが乗れないしね。


 道を通って、開けたその先にはー……。


「わーい、荒廃している街だぁばんざぁい」

「ぜんっぜんよくありませんご主人様」

「サキよ、さすがにそれはわかる。どうなってんのこれ?」

「作者に問い合わせた所、スタンピードに軍が堪えきれずモンスターが街になだれ込み……といった所のようです」


 ええー作者しっかりしておくれよー。


 真っ黒な血がそこら辺じゅうに溢れ、臓物が飛び散らかっている。

 子供の首だけが綺麗に残されて、木にくくられて綺麗に飾り付けをされている。木の下には暴行死であろう父親らしき姿が。

 ここは地獄だ。


「ここはもうだめだね。早く王都まで行こう」

「モンスターが今でも徘徊しています。わたくしたちは警戒して行動しなくては」

「しゃらくせぇ! 天使の力見せてやんよ! 天使暴虐モード!」


 シャルが空高く舞い上がる。モンスターはなぜか作者教の天使や崇拝者などの物体に集まって破壊する性質があるという。


 その天使が空中にいる。モンスターが群がってくる。

 もちろん空中にるため空を飛べるモンスターしか近づけない。

 モンスターは他人のモンスターを踏み台にして上へ上へと登っていく。

 空中にいるモンスターはシャルをついばみはじめたようだ、鮮血が飛ぶ。


「シャル!」

「――絶」


 その言葉と同時に、ある一定の範囲内における生物の口と後頭部から刃物が飛び出した。おそらく貫通して突き刺さっているだろう。


「貴様らには喋ることすら許さん。消え去れ――滅」


 その言葉と同時に刃物が頭頂部方向へと引き抜かれ、モンスターの命も抜き取られたのであった。


「シャル!?」

「大丈夫です。ただ、ここはモンスターの巣窟です。逃げましょう」

「わう……」

「ぽちを置いていくわけないでしょう! ぽちのリアカーを捨てて、馬車にぽちを乗せる! ぽちの咆哮が木魂する時が来たよ!」


 その場でえっちらおっちら作業を進める。リアカーには結構な食料が載っているが全て捨てることにした。ぽちと携帯用具を乗せるだけしか馬車には余裕がない。


「よし、大豆と小豆! 引っ張って!」

「ワン!」

「ギャオン!」


 大豆と小豆が引っ張る。しかし動かない。やはり重すぎる。


「サキは支援魔法をかけて! シャルは私と一緒に後ろから押すよ!」

「なんで私肉体労働しないといけないんですか!?」

「うっさいぞ天使さっさとやれ」

「ヒイ」


 私の眼力に負けたシャルが馬車を後ろから押す。私も全力で馬車を押す。

 馬車が少しずつ動き出す。回り始めれば大丈夫だ、車輪ってそんなもんだから。


「ガオーーーーン!!」


 ぽちもできる限りの声で咆哮をする。強敵は呼び込むが雑魚は逃げ出す、そんな感じの圧力だ。やっぱり元気がないな。難しいよね。


「左から多分オーガ! 初めて見るなー文献通りの格好だ」

「のんきで眺めている場合ですか! 私が出ます。天使撲殺モード」


 徒手空拳で二メートルは優雅に超えるオーガに突っ込んで一気に撲殺したシャルに恐怖を覚えながら、地獄の街から脱出する。


 脱出する途中で避難民がいる難民キャンプに遭遇したのでそこに寄ることにした。


「おお、その勲章はヒゲソリ騎兵隊の方ですか。災難に巻き込まれましたね」


 人民管理担当官の衛兵に声をかけられる。


「なかなか表現が難しいですが、酷い状態でしたね。いくらヒゲソリ騎兵隊でもあれを処理するのはかなり難しいです」

「ええ、あそこは大規模魔方陣を構築して戦略魔法によって焼き払うことが決定しました。もしかしたら何かお願いすることがあるかもしれない。戦闘部隊の高官に顔を通していただけると幸いです」

「戦略魔法ですか……全て消えますね」


 戦略魔法は複数人の魔法使いが心を揃えて一つの魔力を作り、それを練り上げて放つ魔法のことで、戦略級の破壊力がある。壁とか防御魔法とか全部吹き飛ばす。ただ、土地は死ぬ。魔素が消え去る。だから普通の戦争なら使わない、と文献で読んだ。

 それくらいのことをしないとあの地獄の街は駄目なのか。

 そこまで凄惨なスタンピードだったのか……。


 ヒゲソリ騎兵隊が難民キャンプにお世話になるわけにはいかないので、戦闘部隊の高官に顔を出し、現在騎兵になれないということを話す。


「それでも戦略魔法を放つ時は側にいてくれると助かるのだが」

「わかりました。ヒゲソリ騎兵隊としての職務を果たします」


「いいんですかご主人様。ここで時間取られている場合じゃないですよ」

「ヒゲソリ騎兵隊としての立場があるからねえ。しょうがないねえ」


 手持ちの食料がないので隣の都市までサキに行ってもらい購入してもらった。避難民向けの食料には手をつけられんよなぁ。

 大豆と小豆にも、ナデナデ出来るくらいにはなったのでサキ一人で馬車を引くことが出来た。わん!!、って言われると気絶するが。


 帰りには馬車いっぱいの食料を積んで帰ってきたので避難民に振る舞ったよ。なんて出来るメイドなんだろう。さすが魔族。ちなみに魔界にもスタンピードはあるんだって。どこも大変だねえ。


 時間は過ぎて戦略魔法を放つ日が来た。

 魔方陣を放つ草原に国家の正規軍が登場し、規律よく並んだその姿からは今までにない威圧感を感じる。やっぱ正規軍は凄いな、存在するだけで威圧感だもんな。


 魔方陣は正六角形の形をしており、その頂点に魔法使いが立って魔力を練り上げるようだ。

 正規軍はそれを囲むように方陣を組み、モンスターが一匹も通らない、そんな体制を作る。

 私は魔力を好んでよってくるモンスターを処理する遊撃部隊といった所で、馬も貸し出されている。まあ、借りた馬じゃ話にならないけど……移動する分には早い。


 ちょっと高度すぎてよくわからない儀式のような光景を目にした後、魔力の存在を確かに感じる。その魔方陣の中心に。ゆっくりと大きくなっていくのがわかる。

「これから六時間で作り上げる。絶対に魔方陣を壊されるなよ!!」


 総司令官の檄が飛ぶ!


 最初は少なかったモンスターも、時間が経過して魔力が大きくなっていくと共に数が増えていく。

 私は最前線で敵を叩き続ける。まだ正規軍は動かない。動かせさせない。


 三時間経過したころには正規軍も加わってモンスター大討伐とかしていた。

 とにかく目に見える所にモンスターがいる。棒で殴ればモンスターに当たる。棒を高速に振り回し風神を呼び起こすサイクロンテンペストなど大技を放っていく。範囲で攻撃しないと処理が間に合わない。


 そして六時間。


 戦略魔法の魔方陣から光が天空に登る。登っていく。そして――


 落ちてきた光は質量が凄い炎の塊となって街の方向へと流れていった。なんども、なんども。


 着弾した炎は、街から遠いこちらの方まで熱を感じるほどの威力で、隕石が落ちてきたような感じだった。何度も大きな地震が起きた。


「これが、戦略魔法『ファイヤ・ストライク』――」


 魔法が消えたことによって散り散りになって逃げていくモンスターを追討しながら、その凄さにただただ呆然とするばかりだった。


 異世界ってはんぱねーっすわ。

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