使いやすい女

ぽちが怪我してから歩む速度はゆっくりに。

毎日数キロちょっとだけ進む感じ。一週間に五度は野営する。

ぜーんぜん進まないけどこれはこれで結構楽しいもんよ。王都に行けば新しい指が待ってるしね。魔導義肢だっけ。実物を見ないと判断できないけど、思いのほか魔導文明は進んでるんだな。


「ぽちが歩くの大変そうでつらい」

「わうわう」

「苦労かけてごめんて? そんな事ないよ、ぽちは大事な家族だもん」


二人の会話を不思議そうに見つめるサキ。


「ご主人様、いつの間に犬語覚えたのですか? 意思疎通は完璧ですね」

「え、覚えてないけど。ぽちに大豆や小豆はなんかわからない? サキこそぽちを目の前にしても気絶しないじゃん」

「それは、ぽち様の気迫が消えましたから……」


そう言うと、サキは目を伏せる。シャルも暗い顔だ。そうか、そういうことか。


「ま、王都でまた元気になるからね。そうだよね、ぽーち」

「わう」


親指と人差し指がないから踏ん張れないので変な歩き方になってるぽちと一緒に、のんびりと異世界を歩く。

いきなりぽちと出会ったし、すぐにヒゲソリ騎兵隊に入団したから、こうやってゆっくりと歩いたことが割となかった。新鮮だ。

バオバブの木みたいな風体だけど、本当に根っこが上にある植物が生えていたりするし――空気中の魔素を吸って生きているらしい。ポーションの素材になる。――二足歩行のオットセイが水辺をうろついていたりと異世界がちゃんと異世界しているではないか。早く移動しすぎて気がつかなかった。

こうやって異世界を堪能できるのもぽちのおかげである。ぽち大好きチュッチュ。


「あ、ご主人様、村が見えてきそうですね、道が舗装されてきました」

「お、今日は野営しなくて済むかな」


のんびり生活、悪くないです。



「くぅーん」

「ぽちだけのせいじゃいって。女三人めちゃデカい犬三匹の集団は怪しまれるよ」

「まぁ怪しまれますね。主殿の胸にはヒゲソリ騎兵隊の勲章がありますが、ミニスカ衣装についてますから本物かどうか分かりませんし。私たちの風貌はメイドに秘書ですからね。天使なら怪しまれなかったでしょうか?」

「天使だと新興宗教団体に見えるかもしれないな」

「アッハッハ、私作者教でも割と偉い天使なのに」


そう、めちゃくちゃ怪しまれて泊まれなかったのだ。村ならしょうがないね。誰でも泊めて良いクラスの規模ではないし。


しょうがないので村のちょっと外で野営を開始する。追い出されたとしても、近所で野営したってかまわんだろう? 人の近い所でするのが一番。何かあった時に援助し合える。


んで、食料がないので食料をもらうことにした。サキ神様による治療行為を施せばこんなもんイチコロよ。

村長の家に赴く。


「こんちゃーっす。私のメイドさんが治療魔法使えるんですけど、いかがすか? お安くしときますよ」

「いらん! あんなところで野営を始めおって。今すぐ出て行け!」

「あらそーですか。ところで外にいる牛が怪我をしてますが」

「奇術を使ったら村総出で殺してやるからな!」

「だそーです。治しに行きましょう、メイドさん」


気が小さくてあーだこーだ騒ぐネズミ族の村長をほおっておいて、牛の所にサキが向かう。


「ふんふん、やっぱり脇腹が折れてますよね。これじゃ死にはしないけど数ヶ月は労働出来ませんね。今も痛みで座ってますし」

「ぶっ殺す! みなどもあつまれえ!」


村長の怒鳴り声で村人の目がこちらに集中する。


「それでは……作者教の主よ、この子に奇跡をお与えください」


すこしごまかしながらサキが治療魔法を使う。めっちゃ魔族なんだけどねこの子。でもこの世界には作者教しかないので魔族も作者教なのかもしれない。

話がそれた。まあムニャムニャしながら牛に回復魔法をかけて骨折を治す。牛は「もー」と言って元気に立ち上がる。


「おい、本当に治ったぞ!」

「すげえ、ここ一ヶ月は動けなかったのに!」

「メイド様万歳! 作者教万歳!」


村人が逆に証言者となって治療行為を見届けてしまい、サキの所へ治療者が溢れんばかりに集まってくる。

サキは一人一人丁寧に治療をしていき、代わりに食料を得る。

これで信頼は得たし眠れる所も確保できると良いなー。


「無事に村長によって追い出されましたね、主様」

「頑固なじじいだなあ。ま、食料は大量にもらったからリアカーに詰んでおこう。当面は食料を探しにうろつかなくて済みそうだよ。ありがとうサキ」

「いえいえこれくらい当然です。ただ……」

「ただ?」

「おいしいおとこがちょっと、すうめい……」


サキに棒打ち一〇〇回をして煩悩を取り除いたあと後ご飯を作って就寝。

それでもサキはこっそりと村に行ったので、うん、まあ、しょうがないね。悪いことするわけじゃないし。


翌日、ぽちのリアカーと自分たちの馬車を連結させて引っ張る大豆と小豆にめいいっぱい食料を与えて出発。ぽちはもちろん、大豆と小豆も人間並みの雑食なので特に与えてはいけない食べ物は今のところ見つかっていない。地球だとネギとか駄目じゃなかったっけ?


村の近くには街がある。街さえ行けば近代的文明の恩恵にあやかれる。頑張るぞー!

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