最終話





 そして春休み明けの高校。今日から高校三年生として最後の一年を過ごしていく。今日は始業式で、既に新しい教室には見慣れた顔ぶれがちらほらと登校してきていた。


 かくいう俺も新しい席に座っていた。窓際の一番後ろというあまり目立たない席なので正直ありがたい。それにしても、だ。



(三葉のやつ、遅いな……)



 隣の机をチラリと眺めながら俺は三葉が登校するのを心待ちにしていた。黒板に張り出されていた新しい席に従ってこの場所にいるのだが、なんと隣には三葉の名前があった。これまで何度か席替えを行なったが、彼女と隣になるのは初めてなのでとっても嬉しい。


 因みにだがこの春休みの間、俺は三葉とは一度も顔を合わせていない。これまでの休みの時はちょくちょく彼女を遊びに誘って実際に遊んでいたのだが、今回に限っては連絡しても用事があると言われて断られたのだ。


 寂しさはあったものの、彼女としては休み明けに俺からの返事を聞かなければいけないのだ。当然心の準備もあるのだろうと無理矢理納得させて悶々とした日々を過ごした。


 故に、三葉と直接顔を合わせるのは約一ヶ月ぶり。楽しみでない筈がなかった。


 すると、がららっと教室の扉がスライドされた。



「—————————」



 そこにいたのは、見知らぬ美少女だった。腰にまで届くほどの艶やかな黒髪を靡かせ、ぱっちりとした二重のアーモンドアイが魅力的な輪郭がとても整った女の子。スタイルもとても良く、特に胸あたりなんてスイカのようにたわわに育っている。制服の上からでも分かるほどに巨乳で、まるで週刊漫画雑誌に出てくるような清楚系なモデルさんのようだった。


 今まで近くの人と会話をしていたクラスメイトもその話し声は鳴りを潜め、みんな視線を彼女に向けていた。



「…………?」



 でも、しかし、この違和感はなんだろうか。雰囲気とでもいうのだろうか、誰かに似ている。


 「え、誰?」「すっごい美人じゃん……!」「新入生かな?」と驚きに満ちた表情を浮かべるクラスメイト。しかし突如現れた美少女はそんな注目の視線をものともせずそのまま黒板の前まで歩き、新しい席順が記載された紙をじっと見つめる。


 そして振り返った彼女はそのまま歩き出そうとするも、クラスメイトの一人から声を掛けられる。彼は俺の机に落書きをした同級生のうちの一人だった。きっと相手が美少女だからお近づきになりたいと思ったのだろう、俺には一度も向けたことがないようなにこやかな笑みを浮かべていた。



「ねぇキミ、もしかして新入生かな? もしかして教室間違えてない? よければ俺が一年生の教室に案内し———」

「———いいえ、間違えてないわ。あとそのニヤニヤとした笑い方、気色悪いから話し掛けないでちょうだい」

「………………へ?」



 下心があったとはいえ、さらっと毒を吐かれた男子は呆然とした表情を浮かべる。路傍に落ちた小石の如き視線を彼に向けた美少女はそっと目を外すと、やがてそのまま歩き出した。


 教室にいる生徒全員が注目する中、そして彼女は俺の席の隣へと座った。思わず内心でぎょっとした表情を浮かべた俺。みんなの視線が集まる中声を出すのは嫌だったが、これから登校して来るであろう三葉を想って声を掛けた。



「あの、すみませんがそこ三葉の席なんですけど……?」

「……ふ、ふふっ。まだわからない? ?」

「…………は?」

「———おはよう、私が三葉よ?」

「はぁぁぁぁぁぁ!!??」



 なんと俺の隣に座ったこの美少女は三葉と名乗った。クラス中に驚きとざわめきが波のように広がったのはいうまでもない。






 そして無事始業式が終わった放課後、俺は三葉と一緒に図書室にいた。



「……で、改めて聞くがお前は本当に三葉なのか?」

「えぇ。正真正銘、これが本当の姿の私よ?」



 そう目の前でこちらを見つめる彼女の瞳には柔らかい光が宿っている。正直、未だに彼女が三葉だという事実が信じられなかった。


 だって容姿も胸の大きさも違うのだ。これならまだ三葉は実は双子で、風邪をひいた彼女の代わりに登校して来たと言われた方がまだ信憑性がある。どうやらこれまで胸にはサラシを巻いて過ごしていたらしい。



「大地くん。ね、私って嘘つきでしょ?」

「そ、そのことだったのかよ……。もしかして、俺に一目惚れだって言ったのも……?」

「ううん、それは本当。私たち、実は以前高校入学前に会ってるのよ?」

「はぁ?」



 話を聞くと、どうやら高校入学前に見学出来るオープンスクールで俺と一緒だったらしい。集団で移動中に後方にいたようなのだが、帰り際階段を降りている時に足を躓いて転びそうになってもうダメだと思ったところ俺に手を引かれて間一髪助かったのだそうだ。


 結局その後会えなかったのだが、その時に一目惚れしたのだとはにかみながら語ってくれた。確かに、当時は嫌がらせを受けていてあまり他人に関心を示すことなかったが、目の前で体勢を崩した少女をスルー出来る訳もなく咄嗟に手を伸ばして助けた記憶がある。


 オープンスクールが終わり次第そそくさと帰ってしまったが、三葉がその時の少女だったのか。



「でも、どうして今まであの目立たない姿だったんだ?」

「ほら、私って美少女でしょう?」

「自分で言うな」

「中学の時から周りの女子から羨望と嫉妬の視線を浴びていたから嫌がらせされたのよ。大地くんとほぼ同じ感じね。だから、私は高校では目立たないようにしてたの。貴方のことも、本当は遠くから眺めているだけで良かった」



 だから三葉は俺が陥っている状況を見捨てることが出来なかったのだろう。嫌がらせの辛さを知っているにもかかわらず、俺に話し掛けてくれた。そのリスクを省みずに、だ。



「そう、だったのか。でも、どうしてその姿を明かそうと思ったんだ?」

「簡単よ。貴方は私に本当のことを話してくれた。なら、私も本当の姿を見せなきゃフェアじゃないでしょう? そ、れ、に」

「?」



 蠱惑的な笑みを浮かべた彼女は机に身を乗り出すと、口元に手を添えて俺の耳に小声でそっと囁いた。



「———好きな人に告白の返事を貰うんだもの、一番綺麗な姿で聞きたいじゃない」

「っ……!」



 したたかだな、と思うと同時に三葉らしいと安堵する俺がいた。ふわりと良い香りが鼻口をくすぐるが、顔を離して体勢を戻した彼女はまるで俺の心を見透かしたように言葉を紡いだ。



「それでどう、かしら? 私、大地くんのことが好きなのだけれど。返事は考えてくれた?」

「……言っておくが」

「?」

「俺は春休み前から三葉のことが好きだったぞ」

「———っ。ふ、ふふふっ。まったく貴方ったら、本当に不器用ね?」



 これからよろしくね、と三葉はそう言って心の底から嬉しそうに微笑んだ。


 高校生活最後の一年間。春の季節が始まるとともに、俺と彼女のこれからは着実に色づき始めたのだった。


 ———これは、悪役にされたチャラ男がざまぁされたその後の話。実は美少女であることを隠していた地味女に救われた話だ。


 この後、ハーレム主人公が痛い目に遭ったことが判明したり、その幼馴染が俺に復縁しようと言い寄ってきたりするのだが、それはもう少し後の話だ。


















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久々のラブコメ短編いかがでしたでしょうか?

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主人公ヒロインを寝取ろうとしてざまぁされた悪役チャラ男、高校で地味女と仲良くなる。 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55

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