第7話 お手洗い狂騒曲

※ 今回の話に含まれるネットゲーム用語が分からない人は以下の用語解説を参照してください。

https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16817330656898281438




「まだ食うのかよ?」


 腰に手を当ててイザネが呆れたように東風さんを見上げた。


「すいません。まだまだ足りないみたいなんです」


 東風さんは少し困った顔で、一時食事の手を止める。

 この世界での食事に大興奮し奇行に走った四人だったが、一言注意しただけで大人しくなってくれた。見た目に反し素直なのは本当に助かったのだけれど、東風さんの食欲だけはそれでもどうしようもなかった。


「しかたないですよ。身体の大きな人は、その分多くの栄養が必要ですから」


 ……と言いつつも、俺の視線は東風さんの出っ張ったお腹の方を向いてしまう。


(東風さんは太ってるし、胃もバカでかいんだろうなぁ……)


 俺は東風さんが喉に食べ物をつまらせないように、井戸水で満たしてきた水筒を隣に置いた。


(コップがあればそっちの方がいいのだけれど、ここにはないのだろうか?)


 俺はどこかにコップが置いてないかこの部屋を見回してみたが、部屋の左手にドアがある事以外は何も見つける事ができなかった。

 かわりに俺の目に入ってきたのは、なぜか下半身をモゾモゾしている段の姿であった。


(あれ? もしかして)


「段さん、我慢してないで用を足してきたらどうですか?」


「用を足す? 一体何の事だ?」


(いかん! 緊急事態だ!)


 人は物を食ったら必ず出すものだが、まともに食う経験のなかったこいつ等が出す経験だけをしている訳がない!


「ええっと、下半身に違和感があると思うんですが、とりあえず力を入れて耐えといてください」


 俺は段にそう言い含め対策を立てる時間を稼ごうとしたが、べべ王もなんだか落ち着かない様子を見せ始めている。


(……まずいな)


 俺は傍にいたイザネの肩を叩く。


「この建物にトイレはある?」


 これはダメ元(駄目で元々)の質問だったのだが……。


「トイレ? 確か床に穴が空いてる部屋の事だったっけ? あるにはあるけど、なんに使うんだあの部屋?」


(トイレがあるのかよ?!)


 俺の住んでいたゴータルートの街でも家にトイレがあるのは稀だ。それにも関わらず、なぜ排泄を必要としない筈の異世界にトイレが存在するのかは甚だ疑問には思う。しかし今はそれを考えている余裕はない。トイレがあるなら今は利用する他ないだろう。

 問題はこいつ等にどうやってトイレの使用方法を教えるかだ。まさか実演してみせる訳にもいかないし……いや、べべ王・大上=段・東風さんにはギリギリいけるかもしれないが、イザネ相手には……無理だ。無理無理無理っ! 絶対に嫌だっ!


 俺は急いで庭に出ると、ショートソードの鞘で”トイレで踏ん張る人”の図を地面に描いた。もともと絵心がある訳でもないし、慌てて描いたせいで随分と不格好な絵になってしまったが、丁寧に描きなおしている時間などない。


「みんな大至急集まって下さい! 今からトイレの使用方法を教えます! これはとても重要な事です! 急いでください!」


 3人に少し遅れて段が内股で走ってくるのを見て、俺は額から汗が流れ落ちる嫌な感覚を覚える。


(タイムリミットが迫っている……急がなければ!)


「みんなこの絵を見て下さい!」


 集合した四人の前で、俺は地面に書いた絵をさした。


「ギャハハハッ! カイル、それおまえが描いたのかよ?」


「それにしても下手な絵じゃのう。 ぷ~クックックックックッ」


※ 挿絵

https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16817330656898254385


 下半身が汚い意味で爆発寸前のハゲと、その一歩手前と目されるジジイが俺の絵を見た途端に笑い転げる。


「真面目に聞けテメー等ッ! お漏らししても知らんぞぉぉーーっ!!」


 俺はなぜか半泣きになって叫んでいた。



         *      *      *



 我々は今、縦列編隊にてクランSSSR拠点トイレ(個室)を目指し進行している。我ながら適切かつ無駄のない”トイレの正しい使用法”伝授の甲斐あって、タイムリミットまでまだ若干の余裕があるものと推測される。

 トイレの使用順は個々の緊急性を考慮し、大上=段・べべ王・東風・イザネの順とした。尚、トイレ使用者は皆これが初めての体験であるため、万が一の事故防止の観点から唯一のトイレ使用経験者である俺が個室前に待機し、状況に応じ適切なアドバイスを排便者に送る事とする。

 任務の成功を祈るっ!!



---------MISSION:1 大上=段 BEFOR---------


「うひょぉーーっ! 初めて裸になる事ができたぜ! ルルタニアではなぜか下着だけは絶対に脱ぐ事ができなかったのによーっ!」


「なんでトイレで全裸になってんだよ! 脱ぐのは下だけでいいんだよ! 下だけで!」


---------MISSION:1 大上=段 AFTER---------


「ウンコするってのも悪くないもんだな。なんだかスッキリしたぜ。」


「汚い手で俺を触ろうとするんじゃねーよ! 早く手を洗ってこい!」


---------MISSION:2 べべ王 BEFORE---------


「ほぉ~、これがチンチンというものか。プルプルしてて面白いのぉ~」


「チンチン弄って遊んでんじゃねーよジジイ! 後がつかえてるんだから真面目にやれっ!」


---------MISSION:2 べべ王 AFTER---------


「カイルが急かすから、ちょびっと手にかかってしまったじゃないか。まったくもう」


「俺の服で拭こうとするんじゃねーよ! とっとと手を洗ってこい!」


---------MISSION:3 東風 BEFORE---------


「あの、お腹が邪魔で下が全く見えないのですが……、私どうしたらいいんでしょうかカイルさん?」


「フィ……フィーリングでなんとかしましょう。がんばって下さい東風さん」


---------MISSION:3 東風 AFTER---------


「ああああぁぁぁ……悪夢だ。まさか我が体内からあんな汚物が出てこようとは……」


「早く慣れましょう東風さん。手を洗うのを忘れないでくださいね」


---------MISSION:4 イザネ BEFORE---------


「おい! 俺にはチンチンとかいうのが付いてないけど、どうなってんだ?!」


「女には付いてなくて当たり前だろうが! 知らなかったのかよ!

 あと”チンチン”言うな! はしたないからっ!」


---------MISSION:4 イザネ AFTER---------


「…………ノーコメントでいい?///」


「コメントなんて求めてないから! 聞きたいとも思ってないから!!

 あと、手を洗うの忘れないでね」


---------MISSION:5 カイル BEFORE---------


「なんで人がウンコしてるとこ覗こうとしてんだよハゲとジジイ!  ガキかテメー等ッ!」


「おい、バレちまったじゃねーかジジイ」


「クスクスクスクス」


----------MISSION:5 カイル AFTER---------


「なんで食後のトイレ行くだけで、こんだけ疲れなきゃならないんだよ。まったく」


 俺は手を洗うために庭に向かって歩いていた。日が落ちかけているせいで、外から吹いてくる風がやけに涼しい。


(……それにしても不便な建物だな)


 この建物の中で手を洗う場所は庭の池か井戸しかないのだが、トイレからあまりにも離れている。なにしろトイレは、食事をした中央ホールの左手のドアから伸びた廊下の奥にあるのだ。トイレの脇に手洗い用の桶を置こうにも、それを設置するのに十分なスペースすらなかった。

 まるでトイレを作ってはみたが実際に利用される事を想定していないような、そんな作りなのだ。


 もう空はかなり暗い。完全に日が落ちる前にこの屋敷の燭台やランプに火を灯したいのだが、全てを灯すには広すぎてかなりの手間を覚悟しなければならないだろう。


(せめてトイレ周辺の燭台とランプには明かりを灯しておかないと、後々不便だよな……)


 庭に出ると門の前に段が立っていた。どうやら、これからどこかに出かけるつもりらしいが。


「こんな遅くにどこ行く気だよジョーダン(大上段)」


 俺はあえて、先輩冒険者に対する礼節を無視するような口を利いた。いい歳こいてる割に、こいつとジジイは妙に子供っぽい。そして、こいつ等を相手に失礼のないよう気を遣っても、逆に付き合いにくいだけなのだと俺はさっきから思い知らされていた。


「どこって冒険に行くに決まってんじゃねーか。とりあえずは拠点周辺の探索でもしとくつもりだ」


「夜通し冒険する気か? いつ寝るんだよ?」


「寝る? 睡眠耐性は積んであるんだ、そうやすやすと寝かされる事なんてありえねーよ。

 ところで”段さん”ってのはもうやめたのか?」


 例によって意味不明な事を言っているのは、睡眠がいかに大切であるかを知らないからだろうか? でもイチイチ説明するより実際に身をもって思い知ってもらう方が良さそうだし、俺はあえてそれをほっとく事にした。


「人がウンコしてるとこを覗くようなくだらん奴に”さん”付けしてられるかよ」


 俺は手を洗いながら言い放つ。


「ジョーダンは、いつも悪戯が過ぎるからのぉ。クスクスクス」


 俺達の話声を聞きつけたのだろうか、後から庭に出てきたべべ王が段を指さして笑う。


「あんただって共犯だからなジジイ」


「……ごめんなさい」


 そう言うや否や、すぐにべべ王は俺に向かって深々と首を垂れる。不意に謝られて、俺は振り上げた拳を降ろす先を失ってしまう。


「まぁ、反省してるならいいけどよ……」


「騙されるなよカイル。そのジジイは謝っても反省は絶対しないんだ」


(は?)


 俺は綺麗な角度で頭を下げていたべべ王の方に急いで視線を戻し、疑惑の意志を込めて目を細めた。


「失敬な! そんな事は決してないぞ。ちょっと忘れっぽいところはあるが少なくとも謝った瞬間くらいは反省しとるわい。

 ところでカイル君、さっき見た君のチンチンはちっこくて可愛かったのぉ~。ぷ~クックックッ」


 本当に微塵も反省などしていない。そしてどうやら悪ノリしている時のジジイには付き合おうとしない方がいいみたいだ。楽しんでやがる。たぶん真面目に相手したら超面倒だぞこいつ。


「その、”ウンコ”とか”チンチン”とか言うの止めませんか? 下品ですし、聞いててちょっと恥ずかしいですよ」


 俺と初めて会った時のマスク姿で東風さんも庭に集まってきた。本当にこの人だけは常識人で助かる。


「いいじゃねーか、”ウンコ”も”チンチン”もドラゴン・ザ・ドゥームではNGワードに指定されてて口に出す事すらできなかったんだぜ。この世界じゃNGワードではないみたいだし、思い切り言わせろよ」


「ウンコチンチン・ウンコチンチン♪ ウンコウンコチンチン~♪」


 段に賛同の意を示すためか、調子こいたジジイが歌い出す。本当にうざい。


「ここでだってNGだよ”ウンコ”も”チンチン”も。普通にマナー違反だからな」


『ごめんなさい』


 段とべべ王が寸分違わず同時に頭を下げる。どうせ二人共反省なんかしていないのだろうが。


「ところで東ちゃん、イザネはどうしたんじゃ?」


「イザ姐は留守番しているそうですよ。」


「あいつ、たまに付き合い悪いよな。で、カイルはどうするんだ? 一緒に冒険に行くか?」


 段が俺を誘ってきたが、日が暮れてから冒険だなんてごめんだ。こっちは朝からゴブリン退治だの大猿追跡だので疲れてるし、そもそもここの森に出没したモンスターの大猿はさっきイザネが倒している。この辺りのモンスターは一掃されている筈なのに、いったいどこで何を相手に冒険しようというのか? 依頼者だっていないのに。


「俺も留守番してるよ。それと、眠くなったらすぐに帰って来いよ」


「我々は睡眠耐性の装備をしていますから、その心配はないと思いますが?」


「……そのうちわかりますよ」


「どうやら余程強力な睡眠魔法を使うモンスターが潜んでいるようですね。腕が鳴ります!」


 東風さんは俺の言葉を勘違いしたまま、べべ王と段と共に何をしに行くつもりなのかサッパリわからない冒険に出発していった。


(すっかり暗くなってしまったな)


 俺は自分の手提げランプに火を灯した。三人が帰って来る前にクラン拠点内の明かりを灯しておくとしよう。


 それにしても、この人達が住んでいた世界とはどういうところなのだろうか? 食事をする必要も排泄の必要も眠る必要もなく、冒険に没頭する世界。そんな非常識な幻のような世界が存在しているのだろうか?

 いや、もしかすると我々が住んでいるこの世界も、他の世界から見たら非常識な幻のような世界なのかもしれない。どの世界の住人も、自分達の見る幻こそが正常だと思い込んで日々の生活を送っているだけなのかもしれない。


(とりあえず庭からトイレまでの通路の明かりを確保しとけばいいか)


 俺は庭側から順にランプの火を燭台に移していったが、その数の多さに辟易(へきえき)してきた。そもそも五人で住むにはこの屋敷は広すぎるのだ。廊下もこんなに長い。


「なんだ折角パーティ枠を譲ってやったのに、べべ王達と一緒に行かなかったのかよ」


 気が付くと手提げランプを持ったイザネが後ろに立っていた。イザネのランプは随分と使い込まれて古ぼけているのが、薄明りの中でもよくわかる。きっと数々の冒険を共にしたランプなのだろう。


「パーティ枠ってなんです?」


「パーティの人数制限の事だよ。ほら、パーティを組めるのは四人までなのに俺達は五人いるんだから、誰か一人が留守番してなきゃならないだろ」


「パーティの人数制限ってどういう事? だいたいこの拠点に戻って来る時だって、俺達は五人でパーティを組んでたろ」


 イザネは”あっ”と小さく叫んだ。


「そういえばそうだな。なんで気づかなかったんだろ」


「イザネさん達の住んでた世界とこことでは随分勝手が違うみたいだし、気づかなくても仕方ないんじゃない?」


 俺は、暗い廊下に並ぶ次の燭台に火を点けながら言った。


「ところで、おまえさっきから何やってんだ?」


「明かりを点けてるんだよ。建物の中が暗いままじゃ危ないだろ」


 見ればわかるだろうに、と思いながらも俺はイザネに教えてやる。


「そうか……やっぱそうだよな。」


 そう呟きながら、イザネは周囲を見渡して複雑な表情を浮かべた。


「ルルタニアに居た時は、このクラン拠点の明かりは暗くなると自動的に火が点いていたんだよ。この拠点の中だけはルルタニアに居た時のままだと思ってたけど、やっぱり随分変わっちまってるんだな」


 魔力を付与した高価な家具ならば、暗くなると自動的に明かりが灯る照明器具も確かに存在する。しかし、ここにある燭台やランプはどう見ても普通の物ばかりだった。


「なぁ、あれにはどうやって火を点けるんだ?」


 イザネは開いたドア越しに、広間に下げられたシャンデリアの方向を指さした。


「あれってシャンデリアの事かい? あれは長い棒の先に火を点けて、上まで伸ばして火を移すんだ。」


「へー、詳しそうだな」


「詳しいって程じゃないよ。

 親父が飾り職人でね、俺も貴族の屋敷に親父の手伝いで入った事があるんだ。その時に覚えたんだよ。随分前の事だけどね」


「そっか、お前には家族がいるんだな」


「イザネさんにはいないの?」


 俺はそれを口にしてしまってからハッと気づく。もしかしたらイザネは元の世界に家族を残したままこの世界に来たかもしれないのに、俺はその事が全く頭になく口を滑らせていたのだ。


「俺達には家族はいない。代わりにマスター達がいてくれた。姿はわからないが、俺達を作って一緒に冒険してくれるマスター達がね。

 正直わからない事だらけのこの世界に来て、まだ不安だったりもするんだけどさ……」


 イザネは少し寂しそうに眦(まなじり)を下げた。


「……一番不安なのは、もう二度とマスター達と冒険できないって事かな」


「なぁ、そのマスターっていうのは何者なんだ?」


 俺の問いに対し、イザネはなぜか難しい顔で頭を傾ける。


「俺達のところによくログインしてきて、俺達にいろいろ指示を出してくれて、それで一緒に冒険をするんだ。けどなぜか姿は見えないんだ。まるで俺達の内側にいるみたいで…………。

 もっとうまく説明できればいいんだけど、俺もマスターの事は限られた事しかわからないんだよ」


「もしかして、神様みたいなもの?」


「俺達にとってはそうだったのかもな……」


 イザネはなぜか愛おしそうに、頭に巻いた赤い鉢巻を左手で撫でている。


「……さてと」


 イザネは気持ちを切り替えるよう明るい声を出した。


「俺も明かりを点けるの手伝うぜ。お前一人じゃ大変だろ」


「じゃあ、イザネさんはトイレの側からここに向かって明かりを点けてきて。俺はここからトイレに向かって明かりを点けていくから」


「あいよ、了解!」


 イザネはトイレの方向に向かって駆けていった。



         *      *      *



 トイレまでの通路に明かりを点ける作業は想像していたより早く終える事ができた。

 イザネが手伝ってくれて効率が二倍になったというのもあるが、それよりも手伝ってくれる仲間がいるというのは一人でやるより遥かに心強く作業も捗るものだ。


「次はどうするんだ?」


 明かりを点け終えて戻ってきたイザネが俺に尋ねた。


「ベッドの置いてある部屋とかあります?」


「ベッドォ~? ここに置いてあるのは宿屋の機能が付いてないんだぜ。あんなもん何に……」


 その時イザネが何かを我慢するような表情をした。


フワァ~


 大口を開けたイザネから欠伸が漏れる。


「あれ?」


 イザネは自分のした欠伸が信じられないらしく目をパチクリさせている。


「ほら、だんだん眠たくなってきたでしょ。だから、これからベッドで寝るの」


「なんでそんな事しなきゃならないんだよ」


「なんでって、寝ないとこの世界じゃ一日の疲れが取れないからだよ」


「かぁ~っ! めんどくせー!」


 イザネは頭をかきむしる。


「じゃあ、どのくらい寝ればいいんだよ? 普通に考えてやっぱ一瞬で済ませられるんだよな、そんな無駄なシステム」


「一瞬だって? それじゃあ寝不足になっちゃうだろ、普通に考えて。

 個人差はあるけど、だいたい6~8時間くらいだよ?」


「マジかよ! 一日の3分の1近くも寝なきゃならないのかよ、クソゲーじゃあるまいし!

 なんとか短縮できねーのか?! もしかして、睡眠時間を短縮する課金アイテムでも売ってんのかよ?!」


 なんでそんなに寝たくないのか、俺にはその心境が理解できなかったがこれだけは言える。


「すぐに”好きなだけ寝ていたい”とすら思うようになるよ」


 俺は笑って答えた。



         *      *      *



 ベッドルームはホールの左の階段を登って三階まで上がった所にあった。俺は手前の部屋に据え付けられたランプに火を灯し、ベッドの数を数える。


(ベットは全部で五台か……東風さんは体がでかいから一人で二台必要だろうし、全員寝るにはもう一台欲しいな)


「こっちの部屋にもベッドがあるぜ」


 隣の部屋の方からイザネの声が聞こえる。


「了解。じゃあこっちの部屋を男部屋にするから、そっちの部屋はイザネさんが使っといて」


 ベッドに触れると長い間使われていなかったのか、少し埃っぽい。できれば掃除もしといてあげたいが、今からでは間に合わないだろうし今日はこれで我慢してもらおう。

 ふと窓の外を見ると庭の方に明かりが見えた。


「まさか、睡眠耐久250装備でも効果なしとは思わんかったのう」


「それよりも敵がどこから睡眠魔法を放ったのか全くわかりませんでした。じわじわと眠気が襲ってくるこの感覚も、ルルタニアではなかったものです」


「攻略法を考えて、すぐにリベンジするぞ!! くっそ、まだ眠気が続いてやがる。とりあえず倉庫の中のめざまし薬を取ってこようぜ」


 俺とイザネは三人を寝室に案内するため、騒がしい庭へと降りて行った。

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