第22話 K.O.

「おう!今日バッティングセンター行こうぜ」

カズヨシが言う。

「どこの?」

「古町にいいとこあんだよ。ボロイけど」

「古町にあんの?」

「ビルの屋上にあって穴場なんだよね」

「んじゃ行こう」

カズヨシ、関ぴょん、江口、マサミの4人は爆音を轟かせながら古町に向かった。

大通りから少し入ると古びた感じの小さな通りに出る。

一階が駐車場になっている小さなビルに入った。

見上げると確かにネット張ってある。

エレベーターに乗り屋上に出るとまさしくバッティング場だった。

投球マシンが3台ほどの小さなところだった。

「いらっしゃい」

よれよれの野球帽をかぶったオヤジが不愛想に言った。

古町は飲み屋も多く夜の街でもある。そこで働く人達のストレス発散や軽い運動に丁度いい場所の様だった。

昼間なので他に誰もいなかった。

マシン3台に対し4人。

カズヨシ、関ぴょん、マサミが入った。

カキーン!

早速カズヨシがかっ飛ばす。

キーン!

関ぴょんも負けてない。

マサミも300円入れる。

『俺だって!昔は少年野球に入っていたんだ!』

入っていたといっても長続きしなかった。

小学校3年生で入団、1年で辞めて5年生で再入団。

球技にめっぽう弱く打球が上に上がる事は滅多になかった。

対外試合に出た事はなくチーム内の試合では三振ばかり。

ある打席で初めていい当たりがあり打球が上へと飛んだ。

嬉しさのあまり両手を上げて走り出した。

「ファールだ!バカ!」

コーチの怒鳴り声で気が付くとファールフライでアウトだった。

そんな野球人生はショートバウンドを取り損ねて鼻血を出して半年で辞めている。


25球の投球が始まった。

1球目・・・

『球をよく見て振る』

コーチに嫌というほど言われた言葉だ。

チッ!

チップだった。

2球目・・・

ブン!!

空振り。

「うははは!」

後ろで江口が笑う。

隣では相変わらず2人がかっ飛ばしていてホームランを狙っている。

『クソッ!次こそ!』

3球目・・・

カキーン!

『当たった!いい手ごたえだ!』

打球が上がったのが見えた。

と、次の瞬間だった。

ガン!

ボゴッ!!

何かに当たる音が聞こえた瞬間、マサミの左顎に強烈な衝撃があった。

バットを投げ出しその場にうずくまった。

「うぅっ・・・」

激痛だった。

頬を押さえてうずくまっていると後ろから江口の声が聞こえた。

「あぶねっ!」

次の瞬間!

ドスッ!

別の衝撃がマサミの腰のあたりを襲った。

「うぅっ!」

容赦なくマサミを襲う投球マシーン。

『ヤバい』

何とかその場から離れようとよろよろと立ち上がる。

「来たっ!」

江口が叫ぶ。

すぐに避けるように倒れこんだ。

その光景を見ていた3人が爆笑する。

無情にも投球続けるマシーン。

すぐにカズヨシと関ぴょんはバッティングに戻った。

お金がもったいないのだ。

顎を押さえながらベンチにいる江口の隣に座った。

江口によるとネットを張ってある支柱に打球が当たり跳ね返ったボールがマサミの左顎に直撃したのだ。

「いやぁ~こんな事ってあるんだなぁ~、何十年もこの仕事してっけど近年稀に見る出来事だな」

ヨレヨレオヤジが大笑いしながら近寄ってきた。

『ふざけんな、笑いごとじゃねぇ』

そう思いながらひたすら痛みに耐えた。

顎が痛く話す事も出来ない状態なのだ。

ひどいのはヨレヨレオヤジを含む4人だ。

よほど面白かったのかずっと笑っていた。


結局マサミのバッティングはK.O.で終わり4人はその場で解散した。


この日以来、マサミの顎はポキポキと音が鳴る。



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