第21話  ハーレー(2)

マサミは地元のバイク屋にいた。

排気漏れの原因がわからない。

店長に事情を話すと診てくれる事になったがどうも気が乗らないようだ。

「これ、違法改造なんだよなぁ・・・ま、納車して間もないしね」

独り言のようにつぶやきマフラーを外し始めた。

『そうか・・・違法だったんだ・・・』

この店はホンダの正規ディーラーであり違法は当然の事、ホンダ公認の改造以外はおこなわないのだ。

普段なら断るらしいがこの店からバイクを購入しているので無碍に断ることはできなかったようだ。

「あぁ~これだよ。フランジが逆」

外し始めてすぐに原因が分かった。

よく見るとマフラーの根元に付けるフランジが逆向きに付けられていた。

確かにこれではいくら締め付けても隙間は埋まらなかった。

「料金は?・・・」

「いらないよ、これくらいなら」

店長は察していた。この客はバイク屋が工具を握ると料金が発生する事を知らない・・・。

マサミは思った。

『人のいい店長さんだ』

まだまだバイクのいろはも分かっていない自分を恥ずかしく思い店を後にした。


その後実家に立ち寄ることにした。

家の前まで来るとオヤジが玄関でタバコをふかしながら立っていた。

「ただいま」

「すごい音だな、ハーレーでも来たのかと思って外に出たらお前だった」

だいぶ遠くからバイクの音が響いていたようだった。

「マフラー替えたのか?」

「うん、低くていい音だよ」

「うぅ~ん音はいいけどな・・・」

何か言いたげだった。

マサミはすぐに察した。

『どうせハーレーだろ』

案の定だった。

「このマフラーは好みじゃねぇな。もっと太くてハーレーみたいなさ」

「いや、だからさ・・・」

マサミは言うのをやめた。このオヤジにむきになっても仕方ない。

「もっと改造するつもりだよ」

「今度は風防か?」

「いやいや風防なんかつけねぇよ」

何で風防なんだよ。相変わらず表現が古い。しかもカスタムがオヤジの基準になっている。

マサミは思った。

『これは1回乗せてわからせた方がいいな』

オヤジはマサミの前でナナハンに乗れるだの限定解除だの誇らしげに言っていたので400ccの運転はお手のものだと思っていた。

「オヤジ乗ってみてよ、良さがわかるよ」

「いいのか・・・?」

少々ためらいながらオヤジはバイクに跨った。

まさかのつま先立ちである。よく見るとズボンのすそがプルプルを震えている。

そりゃそうだ。160cmに満たないマサミのオヤジは更に身長がわずかであるが低かった。

しかもブーツを履いていない。

当然ポジションもきつそうだった。

「軽く流してきなよ」

「・・・ううん・・」

何か歯切れが悪い。

「ヘルメットがないからな」

「いや、俺の貸すよ」

「免許証、どこ行ったかな・・・」

「近所回るくらいいらねぇよ」

何をためらっているのだろうか?

「もう20年以上も乗っていないからな」

『そうか、久々だからビビってんのか』

「やめとく?」

「いや、乗る」

キュルル、ドッドッドッ・・・。

エンジンをかける。

しばらくしてから意を決したようにオヤジが発進した。

よろよろとする。

ヤバい!マサミはオヤジの姿を見て感じた。

『これは乗れないのと一緒だ』

新車でこけられたらたまらない。

「オヤジ!」

止めようとしたがマフラーの音がうるさくて聞こえなかった。

そのまま走り出す。

ブゥオォン!!

2速に入れたようだがアクセルワークがつかめておらず凄まじい音を上げていた。

よく見ると左足を必死に動かしている。

ギアに足が届いていないのだ。

スティードはステップが前の方にある。

体の小さい人間にとっては足が伸びきった状態になるので届かないのだ。

足をぱたぱた動かしたままオヤジは近隣の家の陰に消えていった。

音で何とか動いている事がは分かった。

すぐに音は大きくなりオヤジは無事に帰ってきた。

マサミもほっと胸をなでおろす。

こわばった表情でオヤジが言った。

「これは怖いなぁ」

さすがに強がりを言う気にはならなかったらしい。

「でもアメリカンタイプだからさ、身長があれば足も着くし乗りやすいと思うよ」

「いや、やっぱハーレーだよ、次はロールバー付けるんだろ?」

オヤジの願望が含まれていた。

「ハーレーはさ、1000㏄以上だよ、もっとデカイし乗れないよ」

「じゃぁサイドカー」

400㏄にサイドカーをつけている人を見た事はない・・・。


「マサミ・・・やっぱりハーレースタイルだよ」

気持ちの籠った一言がマサミの背中に突き刺さった。






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