第7話 ハーレー

秋、地元に帰った時に両親に相談した。

「バイク買うから保証人になって。」

「金額は?」

「80万。」

「お金はどうするの?」

「バイトしてるから。」

「どれだけ払えるの?」

「月3万で3年。」

母親は渋っていた。

本当は相談はしたくなかった。

しかし未成年で学生がローンを組むには保証人が必要だった。

「学校はちゃんと行ってるの?」

「問題ない。」

実はありありだった。

毎日パチンコ三昧で学校はほとんど行ってなかった。

単位をもらう時だけ顔を出す。

それで問題がないと思っていたがその学校は設立されて間もなかったので実績を上げるため課題を山の様に出し卒業後デザイン会社への就職率高める取り組みをしていた。

これをクリアしないと卒業はもとより進級すらできない。


それはさておき問題は親の説得だ。

少しの沈黙の後、オヤジが口を開いた。

「何㏄だ?」

「400」

「俺は昔メグロに乗ってた。250だけどな。風防つけて箱つけて。」

「メグロ?」

「分らんか。川崎に吸収されたメーカーだ。」

「単気筒でドッドッドッといい音出してた。」

「へぇ~。」

意外だった。無趣味だと思っていたオヤジが昔バイクに乗っていたとは・・・。

たまにバイクの話になるとハーレーの話をしていたが具体的な話は聞いたことが無かった。

「あのどっしりしたのがたまらん。風防つけて後ろに箱つけて。」

バイクの話のなるとそればっかりだった。

表現も古い。

「俺は限定解除を持っている。」

それもいつも自慢していた。

しかしオヤジの時代は車の免許を取ると自動2輪ももれなく付いてきたのだ。

いい時代だ。

それをさもさも自慢げに言う。

「いつかはハーレーだな。」

「俺が買いたいのはアメリカンだぜ。」

「どれカタログ見せてみろ。」

ホンダスティードのカタログを見せる。

「違うなぁ俺はやっぱりハーレーが好きだな。どっしりしてて。」

「いやスタイル的には一緒だよ。」

「いや、ハーレーだよ。あのどっしりとした。」

「いや、タイプの違いだって。」

どうやらオヤジの中ではハーレーは1種類しかないらしい。

風防のついたアメリカンポリスがパレードで乗るようなアレだ。

「いや、オヤジ、ハーレーはメーカーで車種でいろいろあんだよ。トヨタにスポーツカーとか四駆とかセダンとかあるだろ?そうゆう事だよ。」

「だいたい足届かねーよ。」

「その時はな、サイドカーつけるんだよ。絶対転ばない。」

マサミの求めるスタイルからはかけ離れていた。

もう全く会話はかみ合ってなかった。

しばらく自己満な話をした後オヤジは言った。

「自分で払えるならいいんじゃないか。」

以外に母親もあっさり言った。

「事故だけは嫌だよ。」


こうして地元のバイク屋にオヤジと向かった。

何度か顔を出していたので店長は笑顔で迎えてくれた。

「バイクを買いに来ました。」

「お待ちしてました。」

オヤジが書類に色々書き判を押す。

「以上で手続き終了です。」

やった!納車は春。待ちきれない。マサミは天にも昇る気持ちだった。

「またがってもいいですか?」

「もちろんです。」

バイク屋には現車が置いてあった。

デカイ。どノーマルを真近で見ると大きかった。

またがってみる。残念な事につま先立ちだ。

『これがついに俺のものになる。これで俺もバイク乗りだ!』

ドキドキしているマサミの横でオヤジが店長と話していた。


「私はね、やっぱりハーレーが好きだね。」

「どっしりして、風防がついてて・・・」




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