第46話 キャンプの夜 

仁にとっても、久美にとっても一緒にキャンプに行くことは初めてだ。


今回は、生徒会の催し物ということで役員一同+顧問+αが一緒であるが。


楽しくないはずがない。でんしょんが上がらないはずがない主に久美の方がだが。


仁は基本的に生真面目な正確なので自分の役割をこなさないと自分の時間を持てないと考えているタイプだ。


一方の久美も、基本的には仁と同じく生真面目でまずは、集団行動を優先させ自分のことは後回しにする傾向がある。


いや、であった…。久美にしてみればここに来るまでの間にバイクの点検やら整備やらしながら来たのだ。それはそれで楽しかったしいい経験になったと思ってはいるが、そこは華のJKである。一応乙女的なあこがれもある。


こういう特別な場面で自分とイチャイチャしてほしいのである。


が、ざんねんながら仁は人前でイチャイチャできるタイプの人間ではないのだ。


前述したとおり、彼は生真面目であり照れ屋だ。

人前で手をつなぐ行為でさえ顔を真っ赤にさせてしまう。


実のところ、彼はイケメンではあるが、恋愛初心者で彼女は久美が初めてであったりする。


萌の事を言えないくらい恋愛初心者なのだ。実は…。


顔もよく、高身長、好成績な彼がモテない要素はない。義にも熱いから、男からも好かれるタイプだし。


中学2年くらいからは、学期末なれば後輩や同級生から、卒業式シーズンともなれば先輩からと結構な数の告白をされている。


が、しかし彼は自分が想いを寄せた相手でなければ付き合いたくはなかったのでそのすべてを断ったのだ。最終的には男色を疑われるくらいにサラッと断り続けた。


これについては、父親が反面教師となっていたので猶の事だった。


彼の父親は女性にだらしない。普段は厳格なくせに、女性関係だけはクソだったのだ。彼は一人っ子であったが、もはや、自分の知らないところに兄弟がいても驚かないくらいには…。


親はもはや諦めていたし。「離婚だけはしてやるものか」といっていたが。


そういうこともあり、女性関係にはとても神経質なのだった。


その分、久美のことを想う気持ちは態度には出ていないが天元突破していた。


人前でなければ、何時間でもいちゃいちゃしていたいくらいには。


※  ※  ※


萌と萌香は肉料理を作っている。それはもう大量に。


現在のところ本来ならば戦力予定だった神田先生は自分の料理(デザート作り)にいそしんでおり、怜雄に至ってはもはや完全に戦力外である。


仕方なく萌香と二人で料理にいそしんでいたのだ。もちろん二人とも料理が大好きであったので、苦もなかったし楽しんでいたのだが。


心配した仁と久美が声を掛けてきた。


「わるいな、萌と加賀さんに料理ほとんど全部任せてしまって、手伝うことはないか?」


「萌香と料理してるからな。寧ろ楽しいくらいだ。それに、気が付いたか?向こうの二人ついにくっついたみたいだぞ?」


「おっ、怜雄の奴ついに覚悟を決めやがったか。あとで揶揄ってやろうぜ。」


「ちなみに、お前らはいいのか?神田先生すら石井先生とデザート作りをしながら甘い空気作ってんのにさ、久美が怒らないか?味見用にこれやるから向こうで二人でいちゃつきながら食ってこいよ。」


「ゔっ。それなんだが、二人になるタイミングを逃していたんだ。みんなの前で二人きりになるわけにもいかんだろ?」


「んなわけあるかっ!?俺だってお前に背中押されてここまで素直になれたんだ。

自分でもいうのもなんだけどな…。それにこういうことも大切だと思うぞ。いいから向こうでこれでも食ってこい!萌香、悪いでいいからくれ。」


「え?一つでいいのですか?久美ちゃんのは? …あっ!そういうことですか。」


「そういこと。味見なんだし、二人で一つで十分だろ。」


萌香が、料理の一部をとりわけさらに盛り付けている。うまくなったもんだデシャップのことも勉強しているみたいだし。


「はい、お待たせ。久美ちゃん!頑張ってね!」


萌香が鼻息をムフーッとさせながら久美に渡す。


「萌香!ありがと!萌もありがとね!さて、仁君、味見という仕事(理由)も出来たことだし向こうに行こう!ここにいても二人のお邪魔になるだけよ。」


仁も気が付いたのか、ハッとしながらこっちを見てくる。

自分のことになるとホント鈍いよな。


「サンキューな、萌。萌香ちゃんも萌のフォロー頼むよ!」


萌香はにこにこしながら、

「私たちのことはいいから早く久美ちゃんをかまってあげてくださいね。」

早く向こうに行けと圧を掛けるのであった。


「萌香さん?」


「どうかしました?萌君?」


「はい、あーん」と言いながらひと切れの肉を彼女の口に突っ込む。


驚きながらも嬉しそうな彼女を見て幸せな時間を過ごすのであった。


※ ※ ※


仁と久美はというと萌たちの少し後方にセットされたリクライニングチェアに腰を下ろし、リブポークを端を細切りにして辛めのソースを絡めたものを1本フォークで食べさせあっていた。


二人とも顔は真っ赤だし、会話もままならない感じであったが。間違いなくここにも甘酸っぱい空気が漂っていた。


「久美、いつか、今度は二人でキャンプに来ような。いや普通に旅行でもいいんだけどな。」


「そうだね。二人で旅行とかいいね!みんなに差をつけちゃおっか?」


「えっ!?それって…」「ん?内緒だよ?」


それぞれの甘酸っぱい夜は深まっていく…。


















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