第45話 恋心と焚き火

俺と萌香が、リブポークの様子を見ている頃、こそこそと動きだす輩がいた。



日が暮れて落ちてきて少し肌寒くなってきた頃、怜雄が持ち込んだ自前の焚き火台を準備しだしたのだ。


折り畳みができるそんなに大きくない二人で使うのがちょうどよさそうなサイズだ。


怜雄が焚き火の準備を終えるとそこに、橘梨花さんがやってきた。


「怜雄君、来たよ。携帯で呼び出しとか、どうしたの?」


「お、梨花来たか…。まだ椅子の準備が終わってないから少し待ってて。」


そういいながら、怜雄の手は動き続けている。


黙々と作業を続ける怜雄。普段からこうしていれば周りからも勘違いされないのではと思う梨花であった。


準備ができて、小さな焚き火台を囲む二人。


じっと焚き火を見つめ、パチパチと杉の薪がはぜる音がこだまするほど静かではあるが、二人とも口元に微笑みを浮かべている。


怜雄が焚き火台の準備をしたのは、今回借りているキャンプエリアの端の方。

みんなの声も聞こえるし、何かあればすぐに移動できる位置だ。


でも、少し離れただけで二人の世界を作るには充分であった。


怜雄は普段は賑やか氏な男子である。が、しかし意外な話ではあるが、こういう静かな時間も好きなのである。


それは梨花も同じである。梨花はもともと物静かな性格をしておりこういう静かな場所は安心するようだ。


「ありがとう、怜雄君。私の為でしょ?」


「いや、俺の為だよ。梨花にカッコつけようとしただけだよ。」


「そっか、それでもありがとう。にぎやかなのも好きなんだけどね。やっぱりこういう方が私は好きだな。」


「ならよかった。お、お湯が沸いてきたな。コーヒーとココアどっちがいい?」


怜雄が焚き火台に取り付けたトライポッドから吊り下げタイプのポットをとった。。

「じゃあ、ココアを下さい。なんかマスターみたいだね?」


「そうかぁ?でも梨花と小さなレストランやるのもいいな…。」


二人ともに照れてしまって何も言えない。


お互いに両片思いでありお互いの気持ちもわかっているのだが、万が一のことを考えてしまうと、自分から決定打が打てないクソザコ恋愛勢なのだ。


とは言え滅多にない2人きりの空間という、チャンスタイムがやってきたのだ。


怜雄はここにきてようやく覚悟を決めたようだ。


カップにお湯を注ぐコポコポという音が響いている。


怜雄が梨花に声を掛ける。


「でもさ、こういう時間ができて本当に良かったよ。」


「ん?」


「梨花、今は幸せか?家族も増えて大変だろうけど…。」


「そうだね。お母さんも幸せそうだし、お養父さんも少し厳しいけどいいヒトだし。義姉さんはあんな感じだけど優しいしね。少しウザいけど。どうしたの急に?」


「そっか。それならよかった。さすがに梨花の親の再婚のことまでは知らなかったしな。キャラまで変わってたから少し無理してないか心配になってさ。」


「…ごめんね、心配かけちゃったんだね。でもね、私も変わりたかったんだ。中学の頃の自分から…。怜雄君の横に立ってもおかしくない、誰にも何も言わせないことを目標にしてたから。」


怜雄が何とも言えない顔をしている。


「いやぁ、中学のことは俺もそこまで意識してなかったからなぁ。ごめんな、嫌な思いさせてしまったみたいで。」


「そんなことないよ。私は、怜雄君といることが何より好きだから。傍にいられるだけでもいいんだ。」


「そんなこと、簡単に言うもんじゃないよ。全く…。」


「ん?もちろん怜雄君にだけだよ?」


「そっか、なら、言うけどさ。俺も梨花のこと大好きだからさ。もう絶対離したくないし離さない、。…ずっと一緒にいたい、だから付き合ってくれないか、俺と。」


「え?」


「え、あっ?だめかな?」


「本当に?いいの?外見は少し変わったけど中身は地味なままだよ?面白くないでしょ?」


「そうなの?俺は梨花といるといつも楽しい気持ちになれるし幸せだぞ?」


「…怜雄君。ありがとう。すっと一緒にいたい、こんな私ですが、よろしくお願いします。」


「こんなじゃないし、俺は梨花だから付き合いたいんだよ。」


「うふふ、ありがとうございます。これからもよろしくね。」


「あぁ、ムリはすんなよなんかあれば相談してくれよ。」


「うん。ありがとう。」


※ ※ ※


そんなこんなで、付き合うことになった二人は、俺がリブポークをが焼けたことを伝えに行くまで二人の甘~い空間を維持していた。


その空間を微妙な目線を送っているのが、健吾先輩の許嫁の相馬冬華先輩だ。


「先輩、言っときますけど。今あの二人の邪魔したらさすがに怒りますよ。」


「ん。そのくらいの空気は読むさ、が、梨花を泣かしてもみろ。地獄を見せてやる。さーて、萌君が焼いた肉を戴きに行くか。私の健吾が待っていることだしね…。」


なんだかんだで一応は認めているようだ。


良かったな。怜雄。








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