第3話 願い
情報を収集するために、この部屋から出ていくべきだろう。外に出て、調べてみないと何も分からないまま。何かしら、行動するべきだと分かっている。
だけど、赤ん坊を一人部屋に残して移動するのは心苦しい。心配だった。残していけない。特に、あんな乱暴に扱う人が近くに居るのに放っておけない。万が一、何かあったら止めるためにも。
ここから連れ出してもダメだろうし。
部屋にある窓から、外を眺める。この部屋は、二階にあるようだ。目の前に広大な森が広がっている。自然豊かな場所にあるのか。遠くの方には、大きな山も見えた。やっぱり、見覚えのない景色。そして、窓の下にメイド服の女性が複数人。日本人には見えない人達。
ここから見て分かる情報は、それぐらい。自分の居場所も分からないまま。さて、どうしよう。
再び、赤ん坊の様子を見てみる。彼女のカワイイ寝顔を眺めながら悩んでいると、その子が目覚めそうだった。
あぁ、やばい! また泣き出しそうだわ。どうにかしないと。
泣き声を聞いて、あの女性がやってくるかもしれない。また乱暴に扱われる可能性がある。どうにかしたい。
けれど、今の私の姿では赤ん坊を抱っこすることが出来ない。この手じゃダメだ。傷付けてしまうおそれがあるから、危なくて触ることも出来ない。
どうにかして、人間の姿に戻ることは出来ないのか。
普通の手で、赤ん坊を抱っこしてあげたい。そんな事を考えていると、私の体が光り始めた。部屋中に光が溢れて、次の瞬間には人間の姿になっていた。これは?
窓から差し込む太陽の光が反射して輝く、真っ白なローブを身に纏った姿になっていた私。自分の手足を確認する。間違いなく人間のものだ。
どうして戻れたのか分からない。だけど今の姿なら、赤ん坊を抱っこできる。
「ほら、泣かないで」
この子の名前が分からないわ。とりあえず、優しく抱きかかえて、あやしてみる。しっかり首を支えて、揺れないように注意して。
「よしよし、いい子ねー」
「あぅ?」
「可愛い!」
何これ! 可愛すぎるんだけど!?
それに、メチャクチャ抱き心地が良い。たまらない! 赤ん坊特有のむちむち感と重さ。腕の上でグニュっとなる肉の感じを味わうと、いつまでもこの子を抱いていたいと思った。
それに、すぐ近くに赤ん坊の顔がある。見ているだけで癒される。このままずっと見ていたいと思うような、特別な魅力があった。
こんな子が欲しかった。仕事が忙しくて出会いもなかったから、結婚なんて縁遠い話だった。子供どころか、恋人すら居なかった。
最近ずっと、赤ん坊が欲しいと思って悶々としていた。その感情が爆発する。もう我慢できない。もっと見ていたい。触れ合いたい。
そんな事を思いながら、私は名前も知らない赤ん坊を抱っこして、あやし続けた。
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