第30詩 【タマオシコガネ】


かぎりなく


額(ひたい)も頬(ほほ)も空に近い日に


こつぜんと雨雲と一緒に


虹が押し寄せてきた時があった




ひろびろとした青い谷の上空より


七色の虹彩は瞬時にひるがえり


ドームとなった




ともかくも まれに見る大きな虹だが


と思っている間にも


虹は空を飛翔(かけ)る風神のように


びょうびょうと私へせまってくる




かぎりなくおそるべく速く


圧倒されて津波のような虹だが


と思っている間にも


虹はついに わたしを飲み込んで


わたしを虹の人にした




それほど前も後ろもなく


わたしに近づいてきた虹は


惚れた娘に後ろから忍び寄るみたいに


わたしのココロを奪い取ろうとした




一瞬で その後から


ゾウの大群のように


雨雲が押し寄せてきて


次から次へと


酒樽(さかだる)をぶちまけたような


豪雨を降らせた




わたしが雨に打たれた


まぶたをぬぐう数秒の時


叱られて


押し入れに閉じ込められた子供のように


最後に劇的に


虹は泣きじゃくって


消えた




つかの間 空は


すがすがしく澄みわたった


わたしは気持ちを良くし


立ちとおす




炎天下の麦わら帽子に


風が吹いた


背後には巨大なアリの道が


うごめいている




ふんころが一つ


目の前をリラリラ転がってゆく


必死にしがみつこうとする


落ち武者みたいな タマオシコガネは


虹が消えてまもなく 姿を現した










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