第19詩 【とある町の一隅で】


年老いた独りの絵描きは、

線路の脇のアパートに住む。



ある日、

狭くくすんだアパートの部屋の窓から、

筆も、パレットも、絵具のチューブも、描きかけのカンバスも、

みんな投げ捨てられた。



電車の通るたびに、車内の明かりが、

それらを照らしつけて行った。



雨の日も、永い間それらはそのままになっていた。

そのままにされていた。され続けた。



いつしか、地面に絵具の色がしみこんだ。

雨にまみれて地面を這うように流れた。



やがて下水の流れを辿って、めぐって、

七色が孔雀の羽をひろげて……




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