第23話 食事 暗殺者の正体?


 一体、いつの間に手に入れていたのだろうか?


 白身魚。


 炊かれたご飯に乗っていた魚はほぐされている。つまりは炊き込みご飯……


 かけられた調味料は――――醤油だ。


 焦げを付けられたご飯と共に醤油の匂いが食欲を刺激する。


 なら一口――――

 

 最初に感じたのは、白身魚の弾力。


 ふっくらと押し返してくるような力強さ。それでいて、すぐに口内でバラバラになるような柔らかさ。


 味は武骨な武人を連想させるような淡白。


 しかし、淡白なだけではなく、甘みとコクと付随させている。


 さらに加えられた醤油が、しょっぱさを――――主役である魚の味に新しい刺激を与えている。


 続けて手にしたのは味噌汁。 


 優しい味。 口にすれば体全体を温めてくれるような感覚に包まれた。


 大豆食品が有する独特の塩分と甘みがスープとして、炊き込みご飯の口を1度リセットしてくれる。


 さらには、睡眠中に枯渇した水分と栄養素を満たしてくれた。


 朝食の主役である魚の炊き込みご飯の邪魔をしないように脇役に徹してくれるのだ……


 もちろん、まだ幼いアリスには、これらの複雑な思考を表現する事は出来ない。


 彼女が感じた味――――それを言語化しただけなのだ。


 しかし、彼女は気づいてしまった。 彼女の師匠であるミゲール・コットが口に運んでいるもの。 それは自分が食している魚の炊き込みご飯とは違うもの。


「せ、先生……それは?」


「ん? こいつか? お前が食べれるもの――――鯛めし。 その魚を刺身にして、ご飯に乗っけたものだよ」


「刺身……生なのですか?」


「あぁ、大陸は広いからな。保存を効かせるために生魚を食うって風習がないのだろうが……ここは海だ。鮮度が高い魚の身は、生でも食べれる」


 そんな知識の披露ですら、アリスにとってみれば食へのアクセントに変わるのだった。


「ん~ お前も食べるか? 私のをやろうか?」


「え? 本当に良いんですか?」


「いや、別に私のは食べ足りない、これから追加しようと思ってたんだ」


「追加?」


「おう! 今から魚を取って来るぜ!」


 そう言うと、ミゲールは海に向かって駆け出して行った。


「……自由ですね」と師匠の姿をアリスは評した。


 しばらく食事を再開していると――――


「おい! 凄いのが獲れたぜ!」とミゲールの大声が聞こえて来た。


「へぇ……どんな魚が――――」と振り返ったアリスは絶句した。


 ミゲールが肩で担いで海から引き揚げて来た物。


 それは――――人間だった。


「だ、大丈夫なのですか? その人?」とアリス。


「あぁ、溺れていたわけじゃなくて、何らかの外傷で意識を失っていたみたいだ」

 

 黒いマント姿は、暗殺者。 ミゲールとヨルマガの命を突け狙っていた彼である。


 水面を走っていた彼は、アリスたちが乗る船と衝突した結果、今の今まで意識を失い、海面を漂っていたのだ。しかし、その姿は――――


「どうする? この?」


 暗殺者の正体は、まだ子供――――それもアリスと同じ年齢くらいの少年だった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


 暗殺者は目を覚ました。


 ぼやけた視界。自分を覗き込んでいる女性の顔が見える。


「は、母上?」と彼は呟いた。しかし――――


「あっ! 目が覚めましたか?」


 そう声をかけたのはアリスだった。


「――――ッ!」と彼が絶句したのは理由は、状況が飲み込めていないだけではないのだろう。


「あっ、体を起こさないでくださいね。今、人を呼んできますから」


 そう言って駆け出したアリスに彼は、声をかけれずにいた。しばらくすると――――


「いやぁ、良かった。ここじゃ満足に治療もできないからな。アリスを離脱させて、大陸まで飛んで運んでもらうか迷っていたぜ」


 そう言うって姿を現した彼女の姿に――――


「げっ! ミゲール!」と暗殺者は声を出した。


「ん? なんだ、お前……最初は気づかなかったが、どこかで見たことある顔だな」


 そのミゲールの背後から顔を出したヨルマガは気づいた。


「この少年は――――ミライ。教会のミライではないですか?」


「教会の……あっ!」とミゲールを気づいた。


「どこかで見たことあると思ったら宮廷か。教皇の息子じゃねぇか!――――いや、なんで、こんな所で溺れてたんだ? お前???」


 


  

 


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