第22話 1夜明けて 朝食

 夜が明けた。 


 朝日を浴びながら、ミゲールが全員を叩き起こす。


「おい! 起きろ! 腹減った、朝飯を食させろ!」


 アリスもマヨルガも辟易とした表情で小屋から出てくる。


 朝に強い老人である、船長ですら嫌な顔をしている。


「ミゲール先生、なんでそんなに元気なのですか? 昨日、深夜の戦いでの疲労は残ってないのですか?」


「あん? 深夜の戦いって何の事だよ?」


「わ、忘れたのですか?」とアリスは驚愕した。


 島に到着した直後、簡易的な宿泊施設にアリスたちは移動した。


 ここは無人島。


 しかし、漁師を含めた海の男たちは、ここに船を停泊させることが多い。


 嵐などの悪天候、船の故障などの避難場所と使うため、必要最低限の宿泊施設がある。 

 

 宿泊施設と言っても小屋。緊急避難用に、燃料や食料があるだけ……


 到着したアリスたちは、まず簡単な食事を――――


「その時に、私たち以外に隠れて、コチラを窺っている人間がいるって気づいたの先生でしたよね?」


「あぁ、思い出した。あの仮面をつけた殺人鬼みてぇな奴か。隠れるのがうまかったなぁ……あの夜、みんなの疑心暗鬼ぶりは、思い出しても笑えてくるぜ」


「正体不明の殺人鬼に狙われた経験を笑いごとにしないでください!」


「いやいや、アリス。正体不明って言うけど、最終的に正体がわかっただろ? ほら、あの時の――――殺人鬼がつけてた、あの仮面は2人でジャングルに行った時に」


「はい……以前、ジャンルに調査に出向いた時、邪神を召喚しようとしていた神官がつけていた仮面。同じ種類の物でしたね……」


「はっはっは! まさか、謎の殺人鬼の正体が、私たちを生贄にして邪神を甦らそうとする神官だったとは笑えるぜ――――コイツは、とんだ運命ってやつだな」


「そんな運命は嫌です。もう二度と邪神を甦らがせようとする神官と戦いたくありません」


「そうか? 今回は余裕じゃなかったか? たぶん、アイツ等にも戦い方の流派ってあるのだろう。前の奴と似たような戦い方だったからなぁ」


「冷静に戦闘分析をしないでくださいよ」とアリスはため息をついた。


「けっけっけっ……私の弟子なら、こんなこと慣れとけ。私が1夜で記憶がなくなってるのは、日常茶飯事の出来事だからな。朝起きて、昨日の晩飯を思い出すくらいの労力だぜ」


「お、お主等、普段からあんな恐ろしい怪物と戦っているのか?」と船長も引いてる。


 元海賊のベテラン船長もドン引きである。


「ワシら海の男でも、あんなのははじめてじゃ」と船長は昨日の戦闘を思い出しているみたいだ。


 森に潜むのは、仮面を被った殺人鬼。


 手足が大量に生えて地上を動き回る幽霊船。


 海の怪物 クラーケンの群れ。


 そして、現世に出現しようとする邪神そのもの。


 まるで伝説の英雄譚。


「あれが日常的に起きてて、よく正気を保てるもんじゃな……」


  老人は、恐怖を思い出して身震いした。

 

「まぁまぁ、みなさん。朝ごはんにいたしましょう」とマヨルガ。


「お主も、昨日はさらわれて生贄にされる直前じゃったのにタフじゃのう」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 そこからは宮廷料理人のマヨルガの本領発揮だった。


 保存のために塩つけにされた肉。 薄く切り、ハムのように使う。


 軽くトーストしたパンの上に肉を乗せる。 別のフライパンで半熟に焼いた卵を乗せた。


 パンだけではない。 次は魚だ。


 おそらく昨日……いつの間にか捕獲していた魚。


 塩つけして水分と取り除いた魚を焼く。 


 米……東洋では主食とされる穀物。 


 鉄の容器に敷き詰めた米。その上に焼いた魚を置くと水をひたして火で焚き始めた。


「これで暫く待つとしまして――――」 


 それと同時に、沸騰させた水。その中にマヨルガに縄を投げいれた。


「おい、マヨルガ。その縄ってなんだ? まさか、それ食料なのか?」


「はい、縄に見えるのは芋の茎ですね。これに味噌……東洋の発酵食品を塗り込んでいます。これをお湯で茹でると味噌汁ってスープになるのです」


 マヨルガは短時間で2種類の朝食。


 エッグトーストとトマトスープ。 魚の炊き込みご飯と味噌汁。


「どうぞ、好きな方をお食べください。お腹に余裕があれば両方食べてくださっても大丈夫です。すぐに追加で作れますので」


 シンプルとも言える朝食だったが――――


 アリスはトーストとスープを選択した。


「いただきます。まずは――――」とパンを口に運ぶ。


 フワリとしたパンの柔らかさ。それでいて表面は歯応えがカリッとしている。


 その上に乗っている卵。 火を通しているが、固体よりも液体に近い。


 それが甘い。 肉は塩が利いていて、弾力もしっかりある。


「凄い……美味しい」


 アリスはスープに口をつける。 


 塩だけではなく、トマトの酸味が効いている。


 よく見えれば、トマトだけではなく細かく切られた野菜が入っている。 

  

「スープが体に染み込んでいくような感覚。体に活力が溢れてきます!」


 気がつけば、パンとスープを食べ終えていた。


(凄く美味しかった……でも……)


 チラっとアリスが見たのは、別種類の朝食。


 魚の炊き込みご飯と味噌汁だった。


(こっちも……えぇい! 食べちゃえ!) 

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