第36話




 ベッドに座り込んで、何をするわけでもなく壁を見つめていた。


 デスクに置いてある時計の音が、やけに耳につく。


 日曜日の昼下がりだっていうのに外出することもなく、アパートの部屋に閉じこもって時間を過ごす。


 本来であれば、光城涼介が命を落とすまで残り五日の猶予がある。


 だけど、もはやその数字は当てにできない。


『色褪せし魔城』と呼ばれるダンジョンが、予定日よりも早く出現した。


『ラスメモ』のシナリオどおりであれば、魔城が出現してから三日後にはダンジョン災害が起きてしまう。魔城が現れて既に一日が経過している。明後日には、地上に魔物の群れがあふれ出る可能性がある。


 だけど、これもゲームどおりならの話だ。


『ラスメモ』の主人公の不在や、モンスターハウスにつながる隠し通路。


 ゲームではなかったことが、いくつも起きている。


 だったらいつダンジョン災害が起きても不思議じゃない。今日にでも地上に現れたシャディラスの手によって、俺が殺される可能性だってある。


 午前中に朝美から情報をもらって知ったことだが、『色褪せし魔城』に踏み込んでいるのは、中堅どころよりも下の冒険者たちが多いみたいだ。中堅よりも上の冒険者にとっては、出現する魔物のレベルが低いダンジョンなので、相手にされていないんだろう。


 そして踏み込んだ冒険者たちだが……地上への帰還率がかなり低いらしい。推奨レベルを超えていても、帰ってこられない冒険者が多数いるそうだ。まだ『色褪せし魔城』が出現して一日しか経っていないのに、多くの冒険者の遺体がダンジョン内で目撃されている。


 だから『色褪せし魔城』にはダンジョンボスとは別に、規格外の怪物がいるのではないかと推察されていた。


 その考えは正しい。


 アイツが、ダンジョンボスを上回る力を持ったシャディラスが、魔城のなかをうろついている。たった一日で、多くの冒険者が犠牲になったのはそれが原因だ。


 シャディラスに殺される俺にとっては、他人事じゃない。数日後には俺も死んでいった冒険者たちと同じ運命をたどることになる。


 ……こうやって考えをまとめようとしているのは、胸のざわつきを静めたいからなんだろうが、どんなに頭をひねっても気持ちが落ち着くことはなかった。


「ん?」


 時計の音だけが聞こえていた室内に、インターホンの音が鳴った。誰かが訪ねてきたみたいだ。


 重たい腰をベッドから持ちあげると、扉のほうに向かう。


 ドアノブをつかんで、ゆっくりと扉を開けた。




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