第10話




 好感度をあげたくて星崎に接近したのに、あがる気配がまったくなかった。むしろ下がっている感じがすごくする。どうなってるの? ダンジョンで魔物と戦うよりも難しくない、これ?


 けど、まだ戦いは始まったばかり。粘り強さだけは死にゲーで鍛えられたからね。同じボス相手にぶっ続けで三時間以上戦ったことだってあるんだ。諦めたりしないもん。


 ここは王道の手段として、相手を褒めてみよう。ラブコメ漫画とかでも、褒められたらヒロインは喜ぶしな。星崎については、昨日のうちにいろいろと情報を知ることができたから、どう褒めればいいのかもわかっている。


「おまえの快進撃は耳にしているぜ。まだ新米冒険者なのに、数十年に一人の天才って呼ばれているそうだな。うん、すごいすごい。ほんとすごい。とにかくすごいなって思うよ」


「無理やり書かされた感想文みたいなことを言い出して、なんなの?」


 星崎は薄っぺらい紙でも見るような目を向けてきた。


 ……なぜだ? こういうときって「そ、そんな褒められてもうれしくないわよっ!」とか言いつつも、照れたりするんじゃないの?


 ぜんぜん好感度があがらないよ。


 むしろ、俺に対する不信度が凄まじい勢いであがっているよ。


 どうしよう。今日だけでレベル100くらいまであげるつもりだったのに、完全に予定が狂ってしまった。


「さっきからなんなんですか、あなた? マナカさまに変なからみ方をして、何が目的なんです?」


 マナカを庇うように朝美が前に出てきて、睨んでくる。 


 えぇ~、うそぉ? 変なからみ方だった? もしかして俺、ずっとうまくやれてなかったの?


「マナカさま、あまりこの男とは関わらないほうがいいのでは?」


「えぇ、そうね。こうしている間にも、ダンジョンを探索する時間が消費されてもったいないわね」


 この二人、まだ学生なのに成人している俺に対して上から目線だな。それだけ冒険者として格下だと見なされているってことか。


 星崎と朝美はこっちに背中を向けると、今度こそ本当に立ち去ろうとしてくる。


「だから待ってくれって! 俺の話はまだ終わっていないんだ!」


「いい加減にしてちょうだい。わたしはあなたと話すことなんて何もないわ」


 星崎は瞳に怒気をにじませてくる。そこには剣先を突きつけてくるような敵意さえ感じ取れた。


 もう好感度をあげるとか以前に、このままだと嫌われてしまう。


 えぇい、こうなったら下手な小細工はなしだ! 真正面からぶつかってやる!


「単刀直入に言わせてもらうぜ。俺をあんたらのパーティに入れてくれないか? 星崎たちのそばにいれば、俺はもっと強くなれる気がするんだ」


 これについては、できればもっと好感度を稼いでから切り出したかった。だけどパーティを組みたいというのは本心だ。なるべく星崎のそばにいたほうが、好感度をあげやすいからな。


 述懐する俺に、朝美は面食らっている。


 そして肝心の星崎は……。


「イヤよ。どうしてわたしがあなたのような足手まといと、パーティを組まないといけないのかしら? わたしは自分の貴重な時間を、あなたのために浪費するつもりはないわ」


 星崎は血が通っていないような、冷ややかな表情をして難色を示してくる。


 確かに、星崎からしてみれば俺とパーティを組むことにはデメリットしかない。役立たずの面倒を見ていられるほど、冒険者稼業は生やさしいものじゃない。


 でもさぁ、そんなきっぱりと断らなくてもいいじゃん。もっとやさしい言い方があるでしょ。いい年した男の子だって、傷つくんだからね。


 とはいえ、こういった反応をされるのは予想の範囲内だ。簡単に引き下がったりはしない。


「一昨日までの俺と同じだと思わないでほしいな。これでもレベルアップしたんだぜ。足手まといかどうかは、アンタが自分の目で確かめてくれればいい」


 挑発とも取れる言葉を投げかける。

 

 星崎のことを詳しく知ってもなお刃向かおうとする俺に、朝美は「なっ!」と声をあげていた。


 そして星崎は、踏み潰せばそれだけで息絶える小さな虫でも見下ろすような、鋭い目をしてくる。


「わたしは決闘を挑まれていると、そう解釈してもいいのかしら?」


「あぁ、それで構わないぜ。けど特別な理由がないかぎり、冒険者が他の冒険者に力を向けることは禁じられている。だったらこれは決闘じゃなくて、俺がアンタのお眼鏡にかなうかどうかの試験だと受け取ってくれ。そうすれば、力を向けることの正当な理由になる」


 本気の殺し合いじゃなくて、あくまでも俺の実力を見るための試験だ。そういうことにする。


 星崎に認めてもらうには、もうこれしか方法がない。直接剣を交えるのは覚悟していたことだ。


 とはいえ、予定していたよりも俺のレベルは低いままだけどな。


 クスリと、星崎は唇を曲げてくる。


「おもしろそうね、それ。いいわよ、その話乗ってあげる」


 どこか活き活きとした表情になって、星崎はこっちからの申し出を受け入れる。


『好感度があがりました。レベルが10あがりました』

 

 ……マジか? 今ので星崎の好感度があがったのか? こっちとしては、ぜんぜんそんなつもりはなかったんだが、どうなっているんだ?


 マナカさま、考えていることがわからなすぎだよぉ。


 とりあえず、これで俺はレベル30になった。目標に向けて前進できたわけだ。


 けど、まずは目の前のことを、どうにかしなきゃいけない。 


「わたしとパーティを組みたいのなら、実力を示すことね、光城くん」


 星崎は余裕たっぷりの笑みをたたえてくる。


 言外に、おまえじゃ無理だと言われているような気がした。実際そう思っているから、星崎はそんな笑みを浮かべているんだ。


「いいんですか、マナカさま?」


「えぇ。身の程というものを教えてあげるのが本人のためよ。これで光城くんも、自分が冒険者には向いていないと理解するでしょう」


 星崎からすれば、結果は既に見えている。


 レベルアップしたとはいえ、まだまだ俺と星崎との間には埋められない差がある。


 勝算は皆無に等しい。


 だけど、こっちは命がかかっているんだ。


 そう易々と負けてたまるかよ。


 どんなことをしてでも、俺のことを星崎に認めさせてやる。




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