第32話 祝福
実家から家に戻った本木はユリに電話を入れる。
「ユリさん、今日、両親に会ったよ」
「ご両親はお元気ですか?」
「ああ、それで二人で挨拶に行くことを伝えた、快諾してもらったよ」
「本当!それじゃあようやく結婚へと進めるのね?」
「ああ、やっと二人のことが認められたね」
ようやく自他ともに婚約者だと認められた本木とユリは幸せな気分に浸っていた。
「それじゃ、近いうちに日本へ来てくれる?」
「勿論、急いでスケジュールの調整に入るわ」
そう言ってユリは電話を切った。久しぶりに爽快な気持ちになったユリは早めに床に着いた。
ユリが出社するとジヘとテヒが心配そうに迎える。
「お父さん、どうだった?許してくれた?」
と、テヒが尋ねると、わざと落ち込んだ顔をしてユリは黙る。その様子を見てジヘは
「気にするな・・・わかってくれるさ・・・」
と、言って、ユリを慰める。するとユリは
「大丈夫、お父さん、許してくれたわ!」
と、いたずらに笑いながら言った。ジヘとテヒは二人で目を合わせ一瞬キョトンとするが、ユリに騙されたことにジヘが気が付き、
「こいつ!騙したな!」
と、言いながら、ユリの頭を叩こうとする。
「ごめん・・・あまりにも二人が心配そうな顔をしているから・・・つい・・・」
「まあ、許してあげる!おめでとう、お姉さん」
テヒがユリに抱きつく。
「ありがとう、テヒ・・・」
ユリも笑顔で感謝する。ジヘも笑顔に戻り
「幸せになれよ、本木さんを大切にしな」
「うん、私、幸せになるわ」
ユリはそう言うと、ジヘとも抱擁した。そこにマネージャーが現れ
「ユリ!・・・その様子だと、うまくいったようだな?」
「ええ、急なお休みありがとう。おかげさまで父も許してくれたわ」
「そうか・・・ところで、お前、結婚した後、仕事を続けるのか?」
マネージャーの随分先の話に、ユリは苦笑して
「まだ結婚の日取りも決めていないのよ、そんな先の話して・・・」
「ああ、そうか・・・まあ、仕事は続けて欲しいからよろしくな」
と、マネージャーが心配そうに言った。
「それじゃ、お祝いしなきゃ!」
ジヘが言い出した。
「そうそう、姉さん、本木さんも呼んでお祝いしましょうよ!」
「・・・ありがとう、連絡してみるわ」
ユリは皆から祝福され、幸せな気分で一杯であった。
「えっ?お祝い?」
「そう!皆が婚約のお祝いをしてくれるって言うんだけど、こちらに来れる?」
ユリはお祝いの件を本木に電話した。
「勿論だよ!僕も久しぶりに皆に会いたいからね!すぐに行くよ」
「本当!ありがとう。じゃあ皆に伝えておくわ」
電話を切った後、ユリは本木に会える日を楽しみに思い笑顔がこぼれた。
「乾杯!」
本木、ユリ、ジヘ、テヒ、マンージャーの五人がいっせいにグラスを重ねる。五人は久しぶりの再会を喜んだ。
「本当におめでとう!」
テヒが本木とユリに向かって言った。本木とユリは微笑みながら目を合わせた。
「ありがとう、テヒ」
「さあ、今日はいろいろお惚気話を聞かせていただきますよ!」
ジヘがどこからとなく蝶ネクタイとマイクを持ってきて、レポーターの真似をする。皆、その姿を見て大笑いする。
「さーて、まずは出会いの場面から聞きましょうか、ユリさん、初めて本木さんに会った時、どんな印象でしたか?」
ジヘはマイクをユリに差し出す。ユリは照れながら
「もう、やめてよ!」
と、言って、本木の方へ逃げる。するとテヒが
「ダメよ!姉さん、今日は主役なんだから、本木さんに甘えてもだめ!本木さんもこれからたっぷりと質問しますから、覚悟しておいてくださいね」
「おいおい・・・お手柔らかに頼むよ・・・」
本木は苦笑いしながら答えた。
「さあ、ユリさん、答えてください」
ジヘに言われ、ユリはもじもじしながらも答え始める。
「えーと・・・最初見たときから、何か運命的なものを感じました・・・」
ユリがそう言うと、周りはユリを冷やかす。するとユリは
「もう!だから嫌だったのよ・・・」
「まあまあ、じゃあ、本木さんも答えていただきましょう」
本木はユリを見つめて
「僕も同じ気持ちでした・・・勿論、女優のユリさんだとまずは思いましたが、その後、何か特別なものを感じました」
と、言って、ユリの手を握った。ユリの顔はますます赤くなった。
「いやー本当にお惚気ですね・・・、それじゃ次、ユリさんに聞きます。本木さんのどこに惹かれたんでしょうか?」
「もう、いや!」
「だめだめ!」
ジヘがユリへとマイクをまた差し向ける。ユリもまた観念して
「・・・私の心を温かくしてくれるところです・・・」
そうユリが言うと、本木は
「僕も同じです。ユリさんといると何か心が温かくなるんです。そして、彼女の人を思いやる優しい気持ちを素晴らしいと思いました」
と、続けて言った。
「それでは次!」
と、次から次へと質問をユリと本木は浴び、ユリも嫌がりながらも答えるといったことが繰り返された。本木とユリにとっては幸せ一杯の時間を過ごした。
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