第17話 再会

ユリは指輪を無くした悲しさから、本木との出会いの場所である公園へと来ていた。出会った頃のことを思い出し笑顔になった。でも、あの時には戻れない寂しさと、本木との唯一の思い出である指輪を無くした悲しみから、すぐに笑顔が消え、ベンチでひとりさびしく座り込む。するとそこで突然、声を掛けられる。

「僕の分もありますか?」

ユリは驚き、振り返ると、そこには本木が立っていた。

「本木さん・・・」

ユリは立ち上がり本木を見つめる。本木はゆっくりユリに近づく。

「どうしてここがわかったんですか?」

ユリが不思議そうに尋ねると、本木は笑顔で答える。

「偶然です、・・・そうこれで三度目の・・・」

本木の答えにユリは驚く。本木は真剣な表情になり、話し続ける。

「今まですいません・・・あなたの気持ちに気が付かなくて・・・ようやくわかったんです。自分の気持ちが・・・」

「本木さん・・・」

「僕はあなたを愛しています」

ユリは慌てて、本木から目をそらす。本木はユリを捕まえユリに問い詰める。

「ユリさん、今度こそあなたの本当の気持ちを僕に言ってください」

ユリはしばらく考えるとうつむいたまま答える。

「あなたの気持ちには応えられません・・・私にはあなたへの気持ちはないですから・・・」

「ユリさん、本当の気持ちを聞かせてください。誰かを思いやる言葉ではなく、偽りのないあなたの気持ちを・・・」

「・・・ごめんなさい」

ユリはテヒのことを考え、敢えて本木の告白を受け入れなかった。すると本木は指輪を取り出し、ユリに差し出す。

「これは・・・」

「そう、私があなたに贈った指輪です」

「・・・」

「僕に気持ちがないならどうして噴水から指輪を拾ったんですか?どうしてネックレスとして大切に身に付けていてくれたんですか?」

「何故そのことを・・・」

ユリは本木が全て知っていたことを驚いた。

「ユリさん・・・テヒさんのことを気にしてるんですか?僕はテヒさんに言われました。『他の人を好きになった』って」

「テヒがそんなことを・・・」

「そうです。それに瞳にも実は裏切られていました。彼女は私の財産目当てだったんです。そのことをあなたに知られたくなかった・・・自分の恥ずかしさからあなたには本当のことが言えなかった・・・それが逆にあなたを遠ざけてしまうなんて思わなかった・・・僕はさっき、あなたに出会った時と同じ言葉であなたに声をかけました。あなたと出会った時に戻り、二人の関係を一から作り直したかったんです。だから、あなたに今、自分の気持ちを正直に言います。僕にはあなたが必要なんです。ユリさん、あなたの本当の気持ちを聞かせてください」

本木はユリを見つめて真剣に言った。ユリは、本木の言葉を聞き、自分の気持ちをようやく伝えることが出来る喜びを感じた。そしてユリも本木の目を見つめ返し、本心を話し出した。

「本木さん・・・私もあなたを愛しています」

そう言ってユリは本木の胸に飛び込む。本木もユリをしっかり抱きしめると、ユリは本木の顔を見上げ言った。

「今までずっと愛していました。でも、あなたには自分の気持ちを言ってはいけないと・・・ずっと心の奥にあなたへの想いをしまっていました。でも、私にとってあなたはかけがいのない人だと気付いていました」

「ありがとう、ユリさん・・・ありがとう」

「私、これからもあなたを愛しつづけます」

「ユリさん、これからは二度とあなたを苦しめたりしない、ずっと一緒にいます」

「本木さん・・・ありがとう」

二人はしばらく抱き合ったまま、お互いの気持ちがようやく結ばれたことの嬉しさを実感していた。そして本木がユリの手を取り、指輪をはめる。

「本木さん・・・」

「これからは一緒に歩んでいこう、いい?」

ユリは黙ってうなずいた。そしてユリは笑顔で

「本当に運命ってあるのね」

「運命?」

「そう、本木さんが言った三度目の偶然・・・それは運命、私、ずっと偶然を待ってた。でも、偶然は待っていると来ないものね・・・突然やってきたわ」

「僕の言ったとおりでしょ、三度目もあるって」

二人は笑顔で見つめ合い、歩き出した。


日本での撮影が終了し、ユリと本木は休暇をもらい日本に滞在する。本木はユリにきれいな景色を写真に撮らせてあげようと、旅行を計画する。ユリも喜んで同行する。

「ねえ、本木さん!どこに行くの?」

「内緒!」

「なんで?教えてよ!私、日本語読めないから行き先わからないの・・・」

「とにかくきれいなところだから、楽しみにしていて!」

本木は飛行機の中で笑顔で言った。ユリは空港に到着すると外の景色を眺める。そこは一面の銀世界であった。

「わあー、雪よ!本木さん、一杯雪が積もってる!」

「気に入った?」

「うん!私、雪景色大好きなの!ところでここは日本のどこなの?」

「北海道だよ」

「ああ、北海道ね、私も聞いたことある。食べ物もおいしいって!」

「さあ、行こう!」

本木はユリの手を握り、走り出した。二人は宿泊先のホテルに荷物を預けてから、誰もいない丘陵地帯に本木はユリを連れて行った。

「すごーい。一面雪だらけね!」

「気に入った?」

「うん」

ユリは写真を撮り始めた。その様子を本木はしばらくじっと見つめていた。写真を撮り終えると、ユリが本木を手招きする。

「何?」

「本木さん!一緒に写真撮ろう!」

「OK!」

二人は雪景色の中、一緒に写真を撮る。しばらく写真撮影をした後、二人は車を呼び次の場所に向かった。

「楽しかった!本木さん、いい所知ってるのね」

「僕もここが好きなんだ、だから、君にも気に入ってもらって嬉しいよ」

本木が言うと、ユリは本木をじっと見つめ、突然、頬にキスをする。本木は驚いてユリの方を見ると、ユリは照れたようにつぶやく。

「感謝のしるし!素敵なところへ案内してくれたから・・・」

照れるユリを見て本木は笑顔になり、

「ありがとう」

と、言って、ユリの手を握った。

「さあ、出発!」

「次はどこへ行くの?」

「ユリさん、スキー出来る?」

「スキー!私大好き!えっ、スキーやれるの?」

「前の会社の系列スキー場があるんだ,電話しておいたから行こうよ」

「いくいく!」

二人はスキー場へと向かった。


ゲレンデは平日ということもあって、ほとんど人がいなかった。

「すごい!こんなに広いゲレンデがこんなに空いているなんて」

ユリは信じられないような顔をして言った。

「そう?韓国ではどうなの?」

「韓国には本格的なゲレンデが少なくて、それになかなか行けないでしょ」

「そうか、君は国民的スターだもね?」

「何か今の言い方とげがない?」

ユリは軽く本木を睨んで言った。本木は笑って、

「いいや、さあ行こう」

と、言って、ユリの手を握り、リフト乗り場へと向かった。


その日の夜、食事中に本木はユリに聞く。

「明日、僕の両親に会ってくれないか?」

「えっ?」

「いや、変に深い意味は無いけど・・・ただ、君を紹介したいんだ・・ダメかな・・・・」

うつむき何か悪いことを言ってしまったような本木の姿を見て、ユリは微笑みながら答える。

「いいわよ。私もご両親に会ってみたいし、でも、ちょっと緊張してきたわ・・・」

ユリの言葉を聞いて本木は笑顔になり

「本当?ありがとう」

と、言って、また食事を続けた。そんな正直な態度を見せる本木をユリはいとおしく見つめた。


次の日、本木はユリを両親のいる自宅へと連れて行く。

「母さん、僕の恋人のキム・ユリさんです」

「はじめまして、お母様」

ユリは深深とお辞儀する。

「まあ、よくいらしてくれたわね、さあ、中へどうぞ」

母親の悦子は笑顔でユリを迎えた。二人が部屋の奥へ行くと父親の純一が座っていた。

「父さん、紹介するよ。僕の恋人のキム・ユリさん」

「はじめまして、キム・ユリです」

ユリが挨拶すると、純一は目を合わさずに

「ああ、どうも・・・」

と、ぶっきらぼうに言って部屋を出て行った。ユリは心配そうに本木を見つめるが、本木は小声で

「心配ないよ、父さんは愛想が悪いんだ」

と、言って、ユリに微笑んだ。

「あら、二人とも座って、ユリさん気を使わなくていいですからね」

悦子がやってくると二人をソファーに座らせる。悦子も席に座りユリに笑顔で話し掛ける。

「ユリさん、韓国籍なの?日本語上手ね」

「ありがとうございます。でも、まだ日本語は読めないんです。それに敬語もあまり得意じゃないので・・・もし失礼なことを言いましたら言ってください」

「十分よ、それに一哉の恋人だもの、変に私に気を使わないで。私、息子しか知らないから女の子が来てくれるのが嬉しいのよ、あら、私ったら、お茶も出さずに・・・ごめんなさい、すぐに持ってくるわ」

悦子が言うとユリは慌てて立ち上がり、

「お母様、私も手伝います」

と、言って、悦子の後を追いかける。

「ユリさん、いいから座ってて!」

「いいえ、手伝わせてください」

「そう、じゃあ一緒に行きましょう」

そう言って、ユリを台所へ連れて行く。二人の様子を本木は微笑みながら見ていた。

悦子とユリが出て行くと、純一が現れ本木の前に座る。

「お前、どういうつもりだ?」

「何が?」

「あの女のせいで会社を辞めたのか?」

「彼女は関係ない、それにもう新しい仕事を見つけて頑張っているところだから、心配しないで」

「俺はお前の退職を認めてはおらんぞ!」

「父さん・・・」

本木が渋い表情を見せると、そこへお茶を持った悦子とユリが帰ってくる。

「あら、あなた戻ってきたの、ユリちゃんお茶の入れ方もしっかりしてるわ」

そう言って席につく。ユリも席につき本木にお茶を差し出す。すると悦子は本木に近づき

「一哉、ユリちゃん、良いお嫁さんになるかもね?」

と、言って、笑顔をユリに見せる。ユリは顔を真っ赤にさせて下をうつむく。そんなユリを見て本木は笑いながら答える。

「母さん・・・そんな気の早いことを言って、彼女が困るでしょ」

「あらごめんなさい、ユリちゃん。ああ、ユリちゃんなんて呼び方失礼かしら?」

ユリは手を振り慌てて答える。

「いえ、是非そう呼んでください。私も嬉しいです」

「そう、じゃあそう呼ばせてもらうわね」

と、悦子は言って、お茶を飲み始める。とても良い雰囲気であったが、純一がユリに質問し、雰囲気は一変する。

「ところで君の家族は?」

「父と二人です」

「ほう、そうすると片親か?」

「あなた・・・」

悦子が言うが純一は気にとめず続ける。

「君は確か向こうで女優をしてるそうだね」

「はい」

「では、さぞかし男にはモテルんだろうね、今まで何人の男性とお付き合いしたんだね?」

「えっ?」

ユリは純一の質問に戸惑う。すると悦子が純一に話す。

「あなた、失礼よ!」

「何がだ?」

「そんな初対面の方に、それにそんなこと聞いてどうするの?」

「いいや、また一哉が悪い女に騙されていないかと心配してな」

「父さん!」

本木は立ち上がり父親を睨む。純一も立ち上がり本木を睨み返す、そしてユリを一睨みし、

「とにかく二人の付き合いを私は認めん!私は失礼する!」

と、言って、部屋を出て行った。

「あなた!」

悦子は純一を追いかけて出て行った。ユリはうつむいたままじっとしていた。ユリの様子を心配した本木はユリの手を握り、話し出す。

「ごめんな、何か会社であって、機嫌が悪かったみたいだ・・・気にしないでくれ」

ユリは無理に笑顔を見せ答える。

「大丈夫です。私の態度にも何か問題があったのかも知れないから・・・」

「そんなことないよ・・・」

「本当に大丈夫、本木さんも心配しないで」

本木はまだユリの気持ちが心配であった。そこへ悦子が戻ってくる。

「ユリちゃん、本当にごめんなさいね。あんなに失礼な態度をとって・・・私、恥ずかしいわ・・・」

「お母様、大丈夫です。私、気にしていませんから」

「私はあなたと一哉はお似合いと思っているから、これからも一哉をよろしくね。あと『お母様』は止めて」

と、悦子が言うと、ユリは顔を赤らめ

「すいません・・・まだ結婚もしてないのに・・・早まりました」

と、言い、頭を下げる。すると悦子はユリの肩を上げて

「違うの、『お母様』ではなく『お母さん』で十分だから、私、娘が出来たみたいで嬉しいわ」

と、ユリの顔を見て優しく言った。

「ありがとうございます」

ユリは心から感謝した。ユリには母親がいなかったせいか、悦子の一言一言が嬉しかった。そして悦子のことを本当の母親のように感じ始めた。

「じゃあ、母さん、帰るよ」

「あら、もう帰っちゃうの?」

「うん、今日、韓国に行かなければいけないんだ」

「そう、残念ね・・・お前だけ帰ってユリちゃんは残れないの?」

「えっ?」

ユリは驚いた。悦子の言葉に本木は苦笑して

「そんなこと出来るわけないだろ、もし、出来たとしてもユリさんが気を使って痩せちゃうよ」

「あら、そんなこと無いわよねー、ユリちゃん」

ユリは微笑んだ。冗談とはいえユリは本当に嬉しい気分になった。

「ユリさんが困るだろ・・・それじゃまた」

「わかった、じゃあまた遊びに来てね、ユリちゃん!」

「何かユリさんだけ来て欲しいみたいな言い方だな・・・」

本木が苦笑して言った。ユリも頭を下げ

「また、是非お伺いさせていただきます」

と、心から言った。


二人はその日に韓国へと戻る。機中でユリは本木に言った。

「本当に素敵なお母様ね」

「そう?馴れ馴れしくてごめんな?」

「ううん、私、本当に嬉しかった」

「そう?」

本木は疑うようにユリの顔を覗き込む。するとユリもいたずらな笑顔で答える。

「今度、本当に本木さん抜きでお母さんに会いに行っちゃおうかな?」

「えっ?」

「そしてお母さんに本木さんの子供の頃の話しとか聞いちゃうの!」

「頼むから止めてよ!あの人なに言い出すかわからないから・・・」

そう本木が言った後、二人は笑顔になり手を握り合った。

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