第12話 すれ違い
ジヘは日本に来た。本木のユリに対する気持ちを確認するために。そして前もって調べた本木の会社へと向かった。
「はじめまして。ユリの同僚のハン・ジヘと言います」
「どうも、はじめまして・・・」
本木は突然の来訪者へ戸惑う。そんな本木の様子など気にせず、ジヘは本木に単刀直入に聞く。
「本木さん、ユリのこと、どう思っているのですか?」
「えっ?」
「答えてください。」
「どうしてそんなことを・・・」
本木は突然の質問に動揺する。
「ユリは忘れられない人がいます。でも、その人は態度をはっきりさせない。ユリは待っているつもりはないが忘れられない、と、言って苦しんでいます。ですから、あなたの気持ちを教えてください」
「・・・」
ジヘの真剣な表情を見て、しばらく本木は黙っていたが、
「ユリさんの忘れられない人が私だと言いたいんですか?そんなの信じられない・・・」
「本木さん!」
「また、仮にそうだとしても、なぜ、あなたに自分の気持ちを言わなければいけないんですか?」
と、逆に質問をした。
「私がユリを愛しているからです」
ジヘは本木をまっすぐに見つめ答えた。
「あなたがユリに対して態度をはっきりさせないのであれば、私はあなたのユリに対する気持ちはないと考え、今後ユリに対して遠慮しません」
本木は黙って聞いていた。
「何もおっしゃらないのですね?わかりました。お忙しいのにすいません」
ジヘはそう言い残すと去って行った。本木は黙ったまま座り続けていた。
本木はジヘが帰った後、しばらく考え込んだ。今までユリの自分に対する気持ちばかり考えていたが、自分のユリに対する気持ちはどうだったのか・・・。勿論、ユリに対する憧れ的な気持ちは本木も認識していた。女優であるユリに対して、初めから恋愛対象にしてもらえるはずがないと、自分の中で決めていた。だが、実際ユリを一人の女性と見た時、憧れ以上の気持ちがあったのかどうか・・・
「ユリさんへの気持ちか・・・」
本木は呟き、遠くを見つめ、更に考え込む。
テヒはユリに対して、本木への気持ちをはっきり伝えるべきだと考えていた。このままお互いの気持ちを表に出さないで、ユリとの関係を壊したくなかったから・・・いや、テヒ自信が気持ちを楽にしたかったからかもしれない。
「姉さん・・・」
「テヒ、どうしたの?」
テヒは深呼吸をし、意を決して話し出す。
「あの・・・私、本木さんのこと愛しているの・・・」
「・・・そうなの」
ユリの素っ気無い態度にテヒは戸惑う。ユリはテヒの気持ちを知っていた。
「それで、本木さんには伝えたの?」
「うん・・・」
「本木さんはなんて・・・?」
ユリは無意識のうちに聞いていた。忘れようとしても、心の中では本木の気持ちが知りたかった。
「本木さんは・・・付き合ってくれる、と、言ってくれた」
テヒはユリの目を見ずに言った。
「そうなの・・・」
ユリにとって衝撃的な一言であった。―「本木さんはテヒを選んだの・・・」―心の中で呟いた。
「そう、よかったじゃない!これからも頑張るのよ!」
ユリは今出来る、精一杯の笑顔で言った。
「姉さん・・・」
「それじゃ、私、仕事だから・・・」
そう言ってユリは去って行った。ユリは一人になると、呆然としてその場にしゃがみこんだ。今まで心のどこかで本木を待っていた気持ちがあった。そう、本木と結ばれる運命を・・・でも、その希望さえなくなった。
「本木さん・・・お幸せに・・・」
ユリは搾るような小さな声で言った。本木の幸せだけを祈って・・・。
「なんで嘘ついたんだろう・・・」
テヒは自分が言った嘘を後悔していた。本木は自分を愛してなどいない。まして、付き合うなど一言も言わなかった。でも、なぜかユリに嘘を言ってしまった。自分の心を軽くするつもりが、結果、逆に重い後悔を持つことになった。
「テヒ、どうした?」
ジヘがテヒに声を掛けた。テヒはジヘを真剣に見つめ言う。
「相談があるの・・・」
「そうだったのか・・・」
ジヘは、テヒがユリに言った嘘の内容を聞いて言った。
「私、どうしたらいいんだろう・・・」
「このままにしておけ」
「えっ、どうして?」
「このままのほうがいいんだ。ユリも本木さんのことは忘れようとしている。だから、そのままにしておけ」
ジヘは言った。―「違う、俺のためにそのままにして欲しい」―ジヘは心の中で思った。今、本木の気持ちは誰にも向いていないことをユリに話せば、ユリの中で本木に対する諦めはなくなるかもしれない。それをジヘは何より恐れた。
マネージャーはたまたまインターネットで本木の会社のホームページを見ていた。するとそこには本木一哉の名前が消えている。不思議に思ったマネージャーは久しぶりに本木に電話を入れる。
「マネージャーさん、お元気ですか?」
「ええ、元気です。ところでつかぬ事を聞きますが・・・本木さん、会社どうされたんです?」
「ああ、辞めました」
「えっ?どうしてまた・・・」
マネージャーは驚いて聞いた。
「そうですね・・・まあ、自分の環境を変えようと思いまして・・・現在就職活動中です」
本木は明るく言った。マネージャーは何かを思いつき本木に尋ねる。
「本木さん、うちで働きませんか?」
「えっ?」
「いや、以前から本木さん、マネージャー業に向いていると思っていたんです。是非一緒に働きませんか?」
「・・・」
本木は悩んでいたが、マネージャーの好意に感謝していた。そしてこう答えた。
「わかりました、是非、お世話になります」
数日後、本木は訪韓し、マネージャーのもとへやってきた。
「お世話になります」
「いや、こちらこそ。どうぞよろしく」
二人は握手し席に着く。
「早速ですが、担当してもらう俳優を私が選択しました。その中で本木さんが誰を担当するか選択してください」
マネージャーは2枚のプロフィールシートを本木に差し出す。
「あれ・・・」
本木は驚き、マネージャーの顔を見る。マネージャーは微笑んで言った。
「この二人を知っていますか?それなら話が早い、どちらを選びます?」
その二人はユリとテヒであった。本木はしばらく悩んだ後
「すいません。ひとつお願いがあります」
と、マネージャーに言った。
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