壱の四
その日はいつも通りに家を出た。
「いってらっしゃ~い。」
学校のない日はいつも眠そうに見送ってくれる。
「ああ、行ってくるよ。」
思いもしなかった。
これが妹と交わした最後の会話になるなんてことは。
一日の業務が終わり、家路につく。
妙に暗い、どんよりとした天候はあまり気分を良くしない。
帰る途中、オウガ星人の男とすれ違った。
オウガ星人は気性が荒く何より力が強い。
基本的に関わらないのが普通だ。
この日もいつも通り無視をした。
だから気にも止めなかった。
妙に恍惚としたその表情に。
「ただいま。」
いつもの声は聞こえない。
「?ただいま。」
顔を上げると気まずそうに、かつ哀しそうな顔をした使用人達が立っていた。
ウノの顔を見るやいなやバツが悪そうに目を逸らす。
「…………何かあったんですか?」
使用人達の目には悔し涙が浮かんでいるように見て取れた。
ウノはその内の一人の肩をガッと掴んだ。
「何があったんですか!!」
使用人は少し涙ぐんでポツポツと口を開く。
「ゆ、夕方頃に、私達はいつもしてるようにドゥーエちゃんと家の掃除をしてました。今日もいつも通り滞りなく進み、掃除が終わろうとしてました。」
別の使用人が涙を我慢して続ける。
「そしたら突然大きな音が玄関で響いて………何かと思い全員で確かめると、そこには大柄のオウガ星人が立ってました。」
「酒に酔っていたように見えましたが、オウガ星人は気性が荒く力が強い。何より現政府で権力も強いので……どうしようかと思案していたら突然オウガ星人の男がドゥーエちゃんをじっと見つめ始めましたっ………!」
男の使用人は泣き出した女性の使用人の肩をポンと叩き代わりに話を続ける。
「奴は言いました。『地球人の女は好きだ!力弱ぇからな!』奴はそう言ってドゥーエさんの腕を掴んで引っ張りました。」
「………ドゥーエを………?」
ウノの感情は負の状態に包まれていた。
続きを聞きたくなかった。
「私達も、ドゥーエさんも抵抗しました。しかし相手はオウガ星人。どれだけの人間でかかっても………指一本動かせません。そして…………奴は嫌がっているドゥーエさんを……部屋に連れていき………………。」
言葉に詰まる使用人の続きは聞かなくてもわかった。
「なんで……そんなことが……。」
感情が追いつかない。追いつくはずもない。
混乱したままウノは絞り出すように聞く。
「今………ドゥーエは………?」
「………部屋に………。」
ガタン
使用人の一人が答えたとき二階から音が聞こえた。
一瞬思考が止まった。
だが直ぐにその音がなんの音か考えてしまった。
ウノは駆け上がるように二階へ向かう。
何度も歩いた部屋が別の家のように感じた。
ドゥーエの部屋を力一杯開ける。
「…………………あ………………。」
遅れてきた使用人が悲鳴を上げた。
ぶら下がったまま動かない妹を前にウノは止まった。
進むだけで止まってくれない、戻ってくれない
響き渡る悲鳴が現実を叩きつけてしまう。
最悪で最も嫌いな日。ウノは幸せだったのに。
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