第6話「錯乱の扉」イエス

 「イエス」というバンド名は、キリスト由来ではありません。キリストは英語ではジーザス・クライストですから。


 イエスの曲に「悟りの境地(Awaken)」というのがあるんですが、それを紹介した英語サイトをブラウザで翻訳してみると、「目覚め はい」などという間抜けなことになってしまうんです。


 日本で「はい」なんてバンドに命名するなんて考えられませんが、イギリスの感覚ではどうだったんでしょうね。まあ、考えるまでもなく、変わったバンド名だと思いますが。


 一般的にイエスの最高傑作アルバムとされているのは、1972年に発表された「危機(Close to the Edge)」です。私が聴いたのは1976年以降でしたが、いつだったのかは、もはやはっきりしません。


 このアルバムはLPレコードのA面に1曲、B面に2曲という変則的な構成でした。

 最初聴いたときには、1曲目のイントロは「おおっ」と思ったのですが、エンディングの良さは1回聴いただけではわからず、繰り返し聴いてようやくわかりました。


 翌1973年には「海洋地形学の物語(Tales from Topographic Oceans)」を発表するのですが、これが2枚組で各面1曲だけの計4曲というとんでもなさ。


 約20分の曲が4曲も延々と続く、地獄巡りのようなアルバムです。そりゃあプログレも衰退するはずだわ。キーボード担当のメンバー、リック・ウェイクマンも嫌気がさして脱退してしまいましたとさ。


 その反省から翌1974年に発表したのが「リレイヤー(Relayer)」で、「危機」と同じA面に1曲、B面に2曲というスタイルに戻しています。


 私はアルバム「危機」の1曲目の表題作「危機」よりも、「リレイヤー」の1曲目の「錯乱の扉(The Gates of Delirium)」の方が好きです。

 戦争と平和をテーマにしたといわれる曲ですが、全般的に明るい曲調なので、陰鬱さは感じません。


 聴きどころは何といってもエンディング・パートの美しさです。

「Soon」と独立して呼ばれることもあるこのパートは、ジョン・アンダーソンのヴォーカルとスティーブ・ハウのスチール・ギターの絡みが至上の美しさで、究極のメロディを奏でます。


 歌詞の和訳を見ますと、前半は「自由のための戦いに決起しよう」という感じで、結構物騒な内容が歌われている部分もあるようなのですが、この「Soon」のエンディングでは、


「もうすぐ太陽が導いてくれる 私たちが今ここにいる理由を」


という、平和を願うような内容になっているようです。

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