第12話 2/8 私立合格発表2 <島田凛・奥川明日香・平野桜>

2023年2月8日 水曜日 第2週目


「優気、合格おめでとう‼」

「ありがとう。島田さん」


 島田さんは朝俺が来てからずっとこの調子で俺の体を前後に揺らしながらお礼を言ってくれた。


「揺らしすぎだよ、凛」


 そうやって止めに入ったのは平野さんだった。


「おまけで鉄平もおめでとう」


 少しふんとした表情で島田さんは鉄平にもおめでとうと言った。


「おまけで悪かったな」

「まあいいじゃん。受かったんだし」

「姫路君もおめでとう」

「ありがとう」


 鉄平と平野さんは目を合わせることなくお礼を言った。

 2人にはまだどこか気まずい感じが抜けていなかった。


「それより、優気以外は今日が合格発表だよな」


 少し、目線をそらしながら鉄平は話題を変えた。


「私の合格報告を楽しみにしていてね‼」

「島田以外の合格発表を期待しているな」

「私をのけ者にしたな‼」

「きっと、凛は聞かなくても大丈夫だってことだよ」


 奥川さんが島田さんの肩をぽんぽんと叩きながら答えた。


「なわけ」


 鉄平は即座に否定をした。


「相変わらず鉄平は照れ隠しが上手だね!」


 島田さんは奥川さんの一言で完全に誤解したようだ。

 鉄平に関してはもういいやって感じになっていた。






放課後1

「それじゃあ、行ってくるね‼」

「頑張ってね」


 俺は3人に応援の言葉をそれぞれ言って別れた。

 帰りは鉄平と2人になった。

 でも、3人の合否がすごく気になって鉄平との会話どころではなかった。

 それを察してか鉄平のほうからこちらに話を振ってくれた。


「あいつら、どうだろうな」


 どうだろうとは恐らく合否のことだろう。


「俺は、3人とも受かって欲しいと信じているよ」

「優気らしいな」

「まあね。鉄平は?」

「まあ、全員大丈夫なんじゃないか」


 鉄平は少し鼻で笑いながら答えた。


「意外だね」

「どこがだよ」


 鉄平はさも心外かのような表情をした。


「鉄平のことだから島田さんあたりはやばいって言うかと思ってた」


 そして、少し乾いたような笑いをした。


「まさか。あいつの努力はいつも教室で見ていたからな。まあ、無難に合格しているだろ」


 鉄平は余裕というよりは自信を持った表情をしていた。


「意外と信頼しているんだね」

「まさか」

「じゃあ、なんで信じているの?」

「冷静に分析した結果だよ」


 冷静にねぇ……。

 俺は鉄平の頬が少しばかり赤くなっているのを見逃さなかった。




放課後2

 俺は自分の机で勉強をしていた。

 横にスマホを置きながら。

 すると、さっそくメッセージの受信を知らせる音が鳴った。

 最初は島田さんだった。



<メッセージアプリ>

リン―私の合否を知りたい者はいるかー‼

鉄平―黙れ、興味ない


「リン」が「鉄平」をメッセージグループから退会させました

   「優気」が「鉄平」をメッセージグループに招待したました


リン―もう一度言うよ‼

   私の合否を知りたい者はいるかー‼

鉄平―失せろ、興味ない


「リン」が「鉄平」をメッセージグループから退会させました

   「優気」が「鉄平」をこのメッセージグループに招待したました


鉄平―さっさと言え

リン―合格したよ‼

ASUKA―おめでとう‼

優気―おめでとう‼

鉄平―おめ

リン―みんなありがとう‼

ASUKA―私ももうすぐだから待っててねー

リン―OK‼

   明日香ちゃんなら絶対に大丈夫だから‼

ASUKA―ありがとね、凛ちゃん‼






 俺は一息ついて携帯を置いた。

 とりあえず、島田さんが受かっていてよかった。

 正直、3人の中で一番合否が微妙だったから受かっていたのは素直に嬉しかった。

 俺は休憩もかねて少し机の上で寝ることにした。





放課後3

 俺はメッセージアプリの音で目を覚ました。

 時計を見ると寝ていたのは15分くらいだろうか。

 仮眠にはちょうどいいくらいだった。

 メッセージアプリを開くと、そこには奥川さんのメッセージと受験票と合格番号が書かれた板が一緒に写った写真が貼られていた。






<メッセージアプリ>

ASUKA―受かっていたよ!しかも、特待生で受かってた‼

  リン―おめでとう‼

     さすが明日香ちゃん‼

ASUKA―ありがとう!

 優気―奥川さん、おめでとう

ASUKA―優気もありがとう!

  鉄平―まあ、おめでと

ASUKA―鉄平は、黙れ!

  鉄平―は?

 ASUKA―冗談だって!

    鉄平もありがと!




 俺は話に一区切りついたところでメッセージアプリを閉じた。

 奥川さんも受かっていてよかった。

 3人の中で一番安全圏だったけど、合否を聞くまではやっぱり不安だった。

 これで3人中2人が合格。

 5人全員で見ると、4人が合格したことになる。

 あと1人で全員が合格になる。

 これは、来月に控えた本命の公立受験も頑張らないといけないなと改めて思った。

 でも、ふと不安な気持ちが襲った。

 そういえば、平野さんの返信が全くないような……。

 平野さんは返信のスピードがそこまで遅いというわけではないのだけど。

 俺は携帯をさっきよりも近い位置に置いて勉強の続きをすることにした。



放課後4






















第12話 終わり

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