第47話 高等科のコース選択

マーリンの襲撃を撃退した後は、何事もなく日常が過ぎていった。


 僕は16歳になり、学校も初等科を終え中等科も最終学年となっていた。


 そろそろ高等科でのコースを決める時期になった頃の事だった。


 授業を終えていつものようにクリスと馬車に乗って帰宅をしているとき、不意にクリスに質問された。


「そういえばジェレミーは高等科はどのコースに進むつもりなんだ?」


 高等科は卒業後を見据えた上で、専門コースを選択することになっている。


「高等科のコース? …騎士コースにしようかと思ってるよ」 


 まだ両親には打ち明けていないが、僕は密かに騎士コースを選択しようと思っていた。


 しかし、僕の答えはクリスには意外だったらしく目をパチクリとしている。


「騎士コース? てっきり父親の跡を継いで宰相を目指しているとばかり思ってたけど、違うのか」


 そんな当たり前の事のように言うけれど、とても僕に父上のような腹黒宰相になれるとは思えない。


「ムリムリ。僕には父上のような駆け引きなんて出来ないよ。それにクリスだって知っているだろう? 僕が孤児院で育っていた事」


 そう言ってクリスに同意を求めると、クリスも納得したような顔をした。


 本当はそれ以外にも理由がある。


 一般庶民として生きた記憶がある僕としては、貴族の矜持というものが薄い。


 それらしく見せる事は出来るけど、やはり何処か無理をしていると感じてしまう。


 せっかく転生したのだから、自分らしく生きていきたいと思うのだ。


「まぁ、わからなくもないけどね。…それはもう宰相には伝えたのかい?」


 クリスに問われて僕はかぶりを振った。


「いや、まだ伝えていない。今日辺り話をしようと思っているけどね」


 そんな話をしているうちに馬車は王宮へと門を潜っていく。


 今日はクリスと一緒に王妃様と母上と昼食を取ることになっている。


 母上はともかく王妃様と顔を合わせるのは久しぶりの事だ。


 クリス自身、夕食はともかく昼食を一緒に食べるのは少ないらしい。


「ジェレミー、久しぶりね。しばらく見ないうちに一段とアルフレッドに似てきたみたいね」


 クスクスと笑う王妃様にそう声をかけられて僕は苦笑を返すしかなかった。


 自分では自覚はないが、そういう声を聞くことが多くなってきた。


 身長もほぼ同じくらいになってきたし、並んで立つと遠目にはどちらがどちらかわからないくらいらしい。


 まあ、最大の褒め言葉として受け取っておこう。


 昼食を終えて僕と母上は揃って馬車に乗り、公爵家へと戻っていく。


 馬車の中で向かいに座った母上が僕にこう告げた。


「今日の夕食の後でアルフレッド様があなたに話があるそうよ」


 それに返事をする前に僕の懐からアーサーが飛び出して来た。


「きっと高等科のコースの話だな。お前が騎士になりたいって言ったらアルフレッドはどんな顔をするかな」


 アーサーの爆弾発言に母上はおろか僕も衝撃を受けた。


 まだクリス以外誰にも言ってないのに何でここで言っちゃうかな。


「なんですって!? ジェレミー、本当なの?」


 母上がオロオロとしたように僕を問い詰める。


 どうやら母上は僕が父上の跡を継いで宰相になると思っていたようだ。


「あ、いえ、その…」


 言葉に詰まって僕はふよふよと浮いているアーサーを睨みつけるが、アーサーはそんな僕の事などどこ吹く風だ。


 アーサーが僕達の先祖なのに敬われないのは多分こういう所だろうな。


 母上は「わたくしがランスロットに騙されたばっかりに…」と泣き出すし…。


 グィネヴィアが出て来て母上に慰めの声をかけているけど、なかなか泣き止んでくれなかった。


 流石に公爵家に着いた時には、身だしなみを整えていつもの母上に戻っていたけれどね。


 屋敷に入るとこれ以上母上に追求されないうちにと、僕は自室に戻った。


 部屋に入るといつもの定位置にシヴァが寝そべっている。


「シヴァ、ただいま~」


 ボスン、とシヴァのモフモフに顔を埋めてしばらく堪能する。


 いつもの行動にシヴァも慣れたもので、このくらいではピクリとも動かない。


 いくら平和だからってだらけ過ぎじゃない?


 シヴァに寄りかかったまま、夕食後の父上との話し合いについて考えていると、ぐらりと頭が浮き上がった。


「ジェレミー、いい加減にどいてくれ」


 どうやらシヴァが枕にされてるのに嫌気が指したようだ。


 僕の頭の下から体を抜くと、大きな伸びをした。こうしてると普通の犬か猫みたいだな。


 床に寝っ転がる趣味はないので僕も体を起こして立ち上がる。


「ジェレミー、暇なんだろう? 打ち合いをしよう」


 アーサーがまた懐から這い出てきて、僕に剣の稽古を申し出てくる。


 僕は庭に続くテラスの窓から外に出るとグィネヴィアを手に取った。


 グィネヴィアはすぐにペーパーナイフから普通の剣へと大きさを変える。


 その僕に対峙するのは、やはり普通の剣の大きさになったアーサーだ。


 アーサーとグィネヴィアがいるからこうして一人でも剣の稽古が出来るけど、その分二人の(?)魔力消費は大きい。


 つまり二人に魔力を注ぐ僕の魔力消費も大きくなると言うことだ。


 そうして二人を相手に汗を流していると、間もなく夕食の時間が迫ってきた。

 

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