第21話 母上からの特訓

 訓練を終えて森を出ると既に馬車が待機していた。


 扉を開けてくれたのは侍従の人だった。


「失礼いたします」


 僕とシヴァが乗り込むと、一言声をかけて侍従の人も僕の前に乗り込む。


 馬車が走り出すと微妙な振動と隣に座っているシヴァのモフモフが心地よくてウトウトしてしまいそうになる。


 幸い寝落ちする前に屋敷についたけど、後で数分遅かったら完全に寝ていたな。


 侍従が玄関の扉を開けると同時にアーサーは僕の懐から飛び出すと一目散に飛んで行った。おそらくグィネヴィアの所に行ったのだろう。


 僕はと言うと玄関を入った所で待ち構えていたメイド達に浴室に連れて行かれ湯浴みをさせられる。


 着替えを終えてまったりとしていると、シヴァも別の浴室から出てきた。


「自分でクリーン魔法をかける事も出来るが、人の手で洗われるのも気持ちが良いんだよ」


 などとのたまっている。


 シヴァもお風呂を堪能出来たようでなによりだ。


 やがて夕食の時間になり、食堂へと向かうと既に両親は席に着いていた。


 また会話のない食事が始まるのかと、黙々と食べていると不意に父上が話しかけてきた。


「ジェレミー。少しは魔力の扱いに慣れて来たか?」


 まさか父上から話しかけられるとは思ってもみなかったので、口の中の食べ物を飲み込むのに手間取った。


 こんな事ならさっきの一口は少なめにすれば良かったな。


「…あ、はい。多少は慣れてきたみたいです」


 父上は満足そうに頷くと母上の方を向いた。


「明日からはジュリアに魔力の上げ方を習うといい。ジュリア、よろしく頼む」


 母上は父上にニッコリと微笑み返すと、僕の指導を請負ってくれた。


「お任せください。ジェレミーの教育が遅れたのはわたくしのせいですから、責任を持って教えますわ」


 そして僕の方を向いて優雅に微笑んだ。


「ジェレミー。明日から一緒に頑張りましょうね」


「はい、母上」 


 この母上ならばきっと優しく教えてくれるんだろうな。


 明日からの母上との訓練がとても楽しみで、夕食を終えると僕はウキウキでベッドに入った。


 翌朝、朝食を終えて一旦自室に戻って寛いでいると、扉がノックされて母上がメイドを従えて入って来た。


 後ろのメイドは何やら見慣れない道具を持っている。


 母上はメイドに僕の前のテーブルにその道具を置くように指示を出した。


 メイドは恭しくその道具をテーブルに置くと、数歩下がって控えている。


 僕はテーブルに置かれたその道具をじっと見つめた。30センチ位の大きさで、右に大きな魔石があり、その横から七色の魔石が並んでいた。


 そして七色の魔石は縦にそれぞれ5つ並んでいる。


「母上。これは何ですか?」


「これは魔力の属性と魔力量を測るものですよ」 


 そう言って魔石の色の説明をしてくれた。


 白は光魔法、黒は闇魔法、赤は火、青は水、黄色は土、緑は風、紫は雷だと言う。


 右にある透明な魔石を触って魔力を流すと、属性のある魔石が光り、魔力量によって5段階に光るのだそうだ。


 僕は恐る恐る透明な魔石に触って魔力を流し込んだ。


 一番下の魔石は七色が全て光った。


 だが、その後は赤、青、緑が2番目の魔石を光らせただけで終わった。


「一応、全部の属性はあるのね。少し安心したわ。それでは魔力上げに行きましょうか」


 メイドに道具を片付けさせると母上はそう言って僕に付いてくるように促して部屋を出ていく。


 今の魔力測定でちょっと疲れた僕は慌てて母上の後を追いかける。


 シヴァも「何をやるのか興味がある」と言って僕の後を付いてくる。


 母上はお茶室の扉をメイドに開けさせ、テラスへと出ていく。更にそこから庭へと向かう。


 母上の後を付いて庭に出てみて、そこに咲いている花達が少し元気が無い事に気が付いた。


「いつもは朝晩、庭師が水をやるのだけれど、今朝はジェレミーの訓練の為に水をあげて無いのよ。さぁ、ジェレミー。ここのお花達にヒールをかけて元気にしてあげてちょうだい」


 僕がヒールを唱えると、一部の花達が元気を取り戻した。だが、母上には少し気に入らなかったようだ。


「ジェレミー。範囲が狭すぎるわ。もう少し浅く広くかけてごらんなさい」 


 まさかダメ出しを食らうとは思ってもみなかった。


 言われた通りにヒールを浅く広くかけてやっていると、不意に頭がクラっとした。


 倒れそうになった所を母上に支えられる。


「魔力が少なくなったのね。これを飲んでごらんなさい」


 そう言って渡されたのは小さな小瓶だった。


 中には緑色の少しドロッとしたような液体が入っている。


「母上。これは何ですか?」


「わたくしが作った魔力回復薬よ。凄く効き目が良いのよ」


 言われて小瓶の蓋を開けると、少し青臭い匂いが漂ってきた。


 これって前世で言うところの青汁ってやつみたいだな。


 匂いは少しキツいけれど量はほんの少ししかない。ここで嫌だと言っても聞いてくれ無いだろうという雰囲気が母上から漂っている。


 気合を入れて飲み干すが口の中に苦味が広がって思わず涙目になる。


「良く頑張ったわね」


 そう言って母上が僕の口に何かを放り込んだ。すると口の中に今度は甘い味が広がった。


 こんな事なら薬の味を改良すればいいのにな。そう思ったけれど、母上が言うには効率良く魔力を回復させるには甘味は入れられないそうだ。


 回復薬を飲んですぐに魔力は元に戻った。今度は水魔法で花達に水遣りをする。


 こうして魔力を回復させながら、庭園の木々や花に水やヒールをかけて回ったが、終わった時にはヘトヘトだった。


 意外と母上はスパルタ教育だと実感した。

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