この目を知っている

廊下は走っても終わりがなかった。疲れて止まると壁にドアが現れた。なかにはいるとさっきまでいた部屋だった。夢って便利だ。


シャワーを浴びて箱のなかのものを食べるとベッドに横になった。



目が覚めると朝だった。


箱のなかの着替えは前世で着ていた服だ。笑顔のあいつに刺された時に着ていた服だ。

横に置いてあった刀は腰にさせないので手に持った。



長い廊下の突き当たりのドアを開けると外だった。


曇り空で風がない。音がない。情緒のない世界だと思ったら音が聞こえだした。

BGMのスイッチがはいったようだった。



っと身体が勝手に転がった。いままで僕が立っていた所に矢が刺さっていた。



「久しぶりだな」


僕はそいつを見上げた。


「あれ!抱きついてくれないの?」


僕はごそごそと立ち上がった。夢の中だよ。かっこよくできないの?


「思い出してくれないの?」


「覚えてるけど名前なんだっけ?」


「あんなに愛し合ったのに・・・・」


彼は抱きついてくるとあの青い目で僕を見た。


この目が好きでこの目に写る自分が好きだった。


ーーーだった?過去なんだ。そうだよ前世だよ・・・・なんでこいつが・・・


「戻ろうか」と彼が言うと部屋に戻っていた。


彼はテーブルの本を見ると


「***は幸せなんだね。俺抜きで・・・・よかった」


彼はじっと見つめてきた。


「幸せなんだね。喜ぶべきなのに・・・ダイ・・・ダイアニシュウス」


「あぁ、パウルセン」


「許せない・・・俺抜きで幸せになるなんて・・・・」


「死んだんだもの。仕方ないよ」


「ウルだよ。ダイ・・・」


「悪い。そこ思い出せない」


「思い出してくれ・・・・探したよ。長いこと。でもどこにもいなかった。気配はわかるんだよ・・・・だけどどこにもいない」


「もう会えたじゃないか」


「でも、違ってる」


「あたりまえだよ。出会いがあれば人は変わる」


「許せない」とウルは呟くと、斬りかかって来た。


俺は刀を抜くと彼の剣を受けた。鞘を隅に投げると彼と正面で対峙した。


「その武器、そうやって持つんだ。俺の知らない構え。俺が苦しんでいる間に・・・教えたやつは・・・・」


「抜いたんだ。決めよう」


そういうと思い切り前に飛んだ。


彼は音もなく倒れた。手応えから予想した出血はなかった。


「ダイ・・・」


僕は彼の首の後ろを支えて胸に抱いた。


「・・・ダイ・・・抱かれて死ねる・・・心残りはない・・・・ずっとこうして欲しかった」


「僕を殺したのは誰?」


「覚えてないのか・・・・なら教えない。忘れたままでいろ」


その間、僕は治療をしようとしたが、出来なかった。


「できないのか。そうだな・・・・言っておくけど夢じゃないよ」


「夢だよ・・・・夢と現実ってどう違うの・・・下天の事は夢・・・はかない・・・だから大事だよ・・・・ウル・・・二人だけだ・・・ウルの目に僕が写っている。

僕の好きな光景だ。ウル・・・」


ウルの目のなかの僕は泣いている。腕のなかのウルは微笑むと目を閉じた。僕が消えた。


ウルを横たえると僕は立ち上がり、鞘を拾い上げ刀を収めた。部屋にも僕にも血はあとはない。


あのうわさは知っている。二人は内緒にしていたけど、僕だってそんなに甘くない。解決できるのは僕だけだと、わかっていた。


だから、武器も用意した。ウルに会って心が揺らぐかと思ったけど二人のほうが大事だった。


でも、どうしてウルの名前を忘れていたのか・・・・あの青い目はウル・・・・


その時、窓から日が入ってウルを照らしたと思ったら、ウルの姿が消えた。


そろそろ時間だとわかった。刀と手に部屋を出ようとしたが、テーブルの上の本を手にとった。


ドアがすっと開いた。僕が部屋をでると建物が消えた。ふっと思いついた僕は前ではなく、後ろへと進んだ。まっすぐ歩いた。


願った通り二人が待っていた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

召喚されたら前世をおもいだした 朝山みどり @sanguria1957

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ