20 リルの正体

エドワルド視線


俺がリルを始めてみたのはギルドのなかだった。久しぶりの俺をみて冒険者が騒いだ。人気もあるし人望もあると自負している。これは予想通りだ。これから皆で飲みに行こう。

俺はちょっといい気持ちだった。そこにあいつ、リルがやってきたのだ。ドアが開いた時、光が入ってきたと思った。まぶしいと感じた。だがよくみるとありふれた茶色の髪とうす茶色の目の小柄な男だった。俺を見た時目を見開いてなにか言ったようだがすぐに、何事もないように目線がはずれた。

その男だけ別の世界にいるようだった。男は静かに受付にいくと薬草を出した。それから静かにギルドを出て行った。


薬草採取をしているというので森の入口をそれとなくみているとあいつはやって来た。

すました顔で歩いて行く。薬草を簡単に抜くと収納に入れている。出てくる魔獣も苦もなく倒している。これだけの腕があれば初心者のやる薬草採取などやらなくてもいいのではと思いながら見守った。


権力を使ってギルドに確認するとあいつの採ってくる薬草は薬師ギルドが、とても欲しがるものだという事がわかったが、だからと言って・・・・といらつきながら気がつくと後をつけていた。


そんなある日、あいつが瘴気を・・・・一目見て瘴気だと思った。王族として瘴気については教えられていたが実物をみる機会はもちろんなかったし・・・・だが瘴気だと思ったんだ。そしてあいつはそれを浄化した。


疲れたあいつに手を貸したかったが見守るに止め、家までついて行った。



それから薬師ギルドに手を回し、護衛依頼を出させた。


リルと森のなかで過ごすのは楽しかった。魔法も使えるし剣、いや刀も使える。


そして浄化をするところを目の当たりにした。一緒にいてよかった。本当は抱き上げて家まで連れて帰りたかったが送って行くに止めた。


それがよかったのか、俺を信頼したリルは打ち明けてくれた。


神子のワタヌキ・ダイスケだと・・・・・なんでも神託の板の我々が読めない部分は文字でそこに記してあるのは四月朔日大輔。間違いなくリルのことだと。


なんでもあちらの世界ではワタヌキ・ダイスケにいろいろな書き方があるらしい・・・


多分、神託の板をみた今の神子も気づいているはずだと・・・・


それからリルは隣国のことを心配して聞いてきた。俺は知っていることを教えた。


すると思っていた通りリルは戻りたがった。俺はできるだけ協力することと大急ぎで戻ることと王室もからむことを了承してもらった。


それから急いで準備すると俺たちは国からの正式な支援部隊と言った形で入国した。


リルは俺の側仕えとして隊に加えた。もちろん本物ではないが・・・・リルをずっと側に置いておけるので便利だ。


さて、明日は王城にはいる。こっそり作っておいたリルの仕事着を着せるのが楽しみだ。



国王との正式な謁見の場は設けられてなかった。神子専用の救世主騎士団との顔合わせだった。

神子黒髪、黒い眼の若者だった。確かに魔力はありそうだが訓練場でみた限り雑だった。

やる気はありそうなのだが、残念だ。


こっそりレオに聞いてアレンの見舞いに行くことにした。リルを伴い三人で会いに行った。レオは気を聞かせて席をはずしてくれた。


「アレン、押しかけてきた。側に行っていいか?」


「構わない。だが、醜い物をみる覚悟しろ」言葉の割に弱々しい声だった。


「・・・・・イズミ!」イズミって誰だ。イズミの姿が・・・・


「アレン、すまなかった・・・まず治療を・・・・」


そう言ってベッドに近寄ったリルをアレンが腕を掴んで引き寄せると力一杯抱きしめていた。こいつさっきまで痛みに呻いてなかった?


アレン!お前・・・そんなやつだったのか?リルはじっと抱かれていたが、やがて苦しそうにもがき始めた。俺はあわててリルを引き剥がした。


「死ぬところだった」と呟いたリルの言葉がなぜかおかしくて俺とアレンは吹き出してしまった。

「なに、笑うとか二人共ひどいんじゃない?」とリルの抗議がさらにおかしかった。


それからアレンは今度はやさしくリルを抱きしめた。リルもしっかりをアレンを抱きしめなにやら謝っていた。


それからアレンはリルの手を握ったまま俺のほうを向いて


「イズミを無事に連れて来てくれて助かった。ありがとう」と言った。


いや、また戻るから、様子をみたいというから連れてきただけだから・・・・


するとリルが


「えーと僕が説明するのが一番わかりやすいけど・・・アレン・・・先ず治療するね・・・魔力は持つと思うけど。エドよろしく」


そういうとリルはアレンの右足の付け根の包帯を取った。出血こそ止まっていたが痛々しい傷がそこにあった。止めようとしてアレンの顔が痛みに歪んだ。それからリルは浄化をする時のように両手のあいだに魔力を貯めた。白い光のなかに金色の細い帯のような物が漂っている。それをアレンの失われた右足の付け根にかぶせるようにした。

アレンがひどく驚いている。俺をみてリルをみて「イズミ」とか言って忙しそうだ。


「アレン、痛みは?」とリルが聞いている。


「いや、なんだか心地いい」


「そうか」


光が収まった時、アレンの右足が生えていた。


ベッドから降りようとしたアレンをリルが留めて

「ちょっと落ち着いて。じっとして。どう?違和感はない?」

「ない」

「じゃあ、念の為全身にかけるから横になって」


アレンはおとなしく横になった。そこにリルは薄く引き延ばした白い光をかけた。


白い光のなかの金色の帯がアレンの体のあちこちに消えていった。


まだ光が残っているのに起き上がったアレンはベッドから降りるとリルを抱きしめようとしたので、俺が強引に割り込んだ。



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