19 森の中

エドワルドはリルが薬草を空間収納にしまっていくのに気づいたが、知らんふりをした。

リルが薬草を採る様を観察して驚いた魔法の使い方が精緻なのだ。

簡単に引き抜いているように見えるがずっと魔法を使い続けている。そして魔獣が現れた時、収納から武器をだした。すかさず声をかけた。


「リル護衛の仕事を取らないでくれ。今日は武器の出番はないよ」そういいながら獲物を収納した。

リルはエドワルドが空間収納を持っていることに気づいたが、なにも言わなかった。


「リル、休憩して飲み物でもどうだ?」と声をかけると収納からリルには果実水、自分にエールをだすとそばの石に座り、横をポンポンと叩いた。


ふっと笑ったリルは横に座り果実水を一口飲むと「おいしい、生き返る」とため息をついた。


「エドワルドさん空間収納って持ってる人ってけっこういますか?」


「それなりだ。隠すことはない」


「そうなんですね。僕は警戒しすぎて壁を作りすぎていたようです」


「冒険者のなかには回復魔法持ちもいる。彼らは人気だな。パーティにいると安心だ。リルの薬草の採取方法は真似できるものがいないかもだな。ゆっくり抜いてみてくれないか。どうやっているんだ?」


リルは地面を柔らかくするところから説明しながら、薬草に強化をかけた。エドワルドはそれを抜いてみた。


次は強化を自分でかけてみたが、リルのようにはできなかった。地面にも強化がかかってしまうのだ。




「おいしい」と言いながらリルはお昼を食べた。なにか言いたそうだったが、黙って食べる所を見たエドワルドは、これからずっと用意しようと決心した。


お昼を食べ終わるとこれからは奥に行かずに、戻るとリルは告げた。


行きとは違う道で戻りながらも薬草を採取した。二人はギルドに戻ったのはいつもの時間だった。


リルは先ず薬草を受付に出し、魔獣のカウンターに回った。


「いいね、それだけ収納があると」と係がエドワルドに話していた。


「リル、来たか。君も出す?」エドワルドの声に係が驚くのをみて


「実は」とリルも収納から獲物をだした。


「いやぁ二人とも大したもんだ」



その日も夕食のあとでエドワルドはリルを送って言った。翌日は森の入口で待ち合わせることにして二人はわかれた。



三日に一度、休みを取りながら二人は仕事をした。エドワルドの腕もエドワルドも信頼できると確認できたリルは、あの瘴気の所に向かった。


「エド、この辺いやな感じしない?」


「いや、なにも感じないが・・・」


「この先にあるのが瘴気だと思います」


「瘴気ってあの瘴気か?」


「はい」


リルは迷いを捨てて、歩いた。すると


「あれか!」とエドワルドが呟いた。


「確かにここまでくるといやな感じがわかるな」


「瘴気ですね。浄化します」


「守るからな」


リルは両手の間に作った網を瘴気にかぶせた。少し足りなかったのでもう一枚作ってかぶせた。それから網を破って瘴気が逃げないように押さえつけた。


エドワルドはリルを見守りながらよってくる魔獣を倒していった。


瘴気が消えるとリルはうずくまった。エドワルドは周囲を警戒しながら助けおこすと座らせた。上着を脱いで着せかけると果実水を出して渡した。


二口・三口飲むと小さな声で「ありがとう」と聞こえた。


飲み終わると、しっかりした声が


「ありがとう、助かった」


「いや、お礼をいうのはこっちだ。その・・・いろいろ聞きたいがもう少し休め」



そのままエドワルドはギルドにもよらずにまっすぐリルを送って行き、疲れ果てたリルがシャワーを浴びベッドに入るまで見守った。


それから届けさせた食事と飲み物をテーブルに乗せると、明日の夕方、尋ねるとメモを残すと部屋をでた。


翌日の夕方、ノックに答えてドアを開けたリルは顔色も良くなっていた。

一応見舞いの品だと抱えてきた食事をみて


「おいしそう、いただいたお食事でほんとに回復しました。ありがとうございます」


「そうか、さきにちょっと話を聞かせてもらっていいか?」と問いかけると真面目な顔で

「なんなりと」と答えが返ってきた。


「リルの能力なのだが・・・・神子が持つ力と思っていいのか?」

「はい、僕が神子で間違いないです」

「なぜ、もう一人が神子と判断されたのか?」

「それは・・・・最初に神殿長がワタヌキ・ダイスケかと名前を確認しました」

「それなので、ワタヌキ・ダイスケでなくても『はい』と答えた者が神子と判断されたと・・・・もしかしたらもう一人もワタヌキ・ダイスケの可能性があります。僕の国の言語は同じおんで別の表記がいくつか存在しますので・・・・ただ神託の板の表記は間違いなく僕の名前です。もうひとりもあれを読めば間違いに気づきますので、本人は神子ではないとわかっているはずです。でも彼はなにも言わなかった。僕も神子になりたくなかった。王宮の生活もいやだった。それで黙って逃げ出しました」

「そうか・・・・だが、進んで浄化してくれたのはどうしてだ」

「先々代の神子様の活躍に感銘を受けたからです」

「そうか、いづれにしてもありがたい」

「エドは貴族だよな」

「・・・・そうだ」

「王宮には連絡を?」

「・・・・・最低限はするつもりだが・・・リルの意志を尊重するつもりだ・・・」

「そうしてくれるとありがたい。対立するつもりはもちろんないが・・・独立していたい」

「まかせてくれ。俺はリルを守る」

「ありがとう。それと隣国の王族とは親しいのか?」

「親しいほうだ」

「今どうなっているか、教えて欲しい」

「討伐で・・・討伐が失敗して・・・かなりの被害がでたそうだ」

「それ・・・アレンは無事?」

「いや、アレンは・・・」

「エドさん・・・僕すぐ・・・・戻ります」












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