第7話 ミッションとカルマカード
これがミッションの紙ね……。
この齢で働くことになるなんて日本にいるときは想像すらしかった。
俺はオタクだが、ライトなオタクだ。
それほどお金をかけなくても楽しむことができた。
ゲームは、ゲーム好きな父さんのソフトだけで十分だったし。
ラノベなどの小説は、ネット小説を読むことが多かった。
アニメは、録画した深夜アニメを見ていた。
漫画はかなりお金がかかるが、他にお金のかかる趣味はない。
だから小遣いだけで十分だった。
そもそも働きたくなかった。
いずれ嫌でも大人になるんだ。
子供でいられる間は子供でいたい――――そう思っていた。
だが、もう甘えは許されない。
自分で稼いで生きていくしかないのだ。
俺は小さくため息をつくと、ミッションの紙に目を通した。
「なあ、サラ。ミッションの応募資格の欄に
少し離れたところで掲示板を眺めていたサラが、緩慢な動きでこちらを見た。
「……そういえばまだカードの説明をしてなかったな。
いい機会だ。ついてこい」
サラが歩き出した。
その背中を追って、俺も歩き出す。
うう……足が痛い。
昨日、長い距離を歩いたからだろう。
両足がひどい筋肉痛になっていた。
こんなことになるなら少しは体を鍛えておくんだった。
とほほ、である。
筋肉痛をこらえながら歩いていると、扉が並んだ壁の前でサラが止まったのが見えた。
俺はサラの隣で足を止める。
サラはこちらを横目で見てから、
「ここはカルマ神殿の出張所だ。冒険者に必須のカルマカードの発行を行っている。
お前が知りたがっていた
「へー、そうなんだ。その……カルマカードだっけ? 他にどんなことが記載されているんだ?」
「カード所有者の本名、力や素早さなどの能力値、転職可能レベルなどいろいろだ。だが、すべての情報を閲覧できるのはカードの所有者だけ。本名、
……なるほどね。個人情報の保護はバッチリなわけだ。
「ちなみに、カード情報の更新はカルマ神殿の出張所、あるいはカルマ神殿でしかできない。
情報の更新を怠ると
「……強くなれない? それってどういうことだ?」
「そうだな…………たとえばお前がダンジョンでモンスターを倒したとする。そのとき経験値を入手するわけだが、それはカードに
で、ここが重要なんだが、クラスレベルのアップは記載された情報をもとに起こる。つまり、クラスレベルのアップのタイミングは魔物を倒した直後ではない。カード情報を更新したときなんだ」
……ふうん、そういうことか。
「カルマカードの詳しい説明は壁の向こうにいる人がしてくれる。
壁の向こうにいるのは神父、つまり聖職者だ。失礼がないようにしろよ」
サラは俺に1枚の銀貨を握らせると、ひらひらと手を振って掲示板の方へ戻っていった。
サラから聞いた物価(宿代やパンなどの値段)をもとに換算すると、銀貨1枚は日本円で1000円くらい。
カルマカードの発行をタダで行っているとは思えないので、この銀貨で払えってことなんだろう。
じゃあ、さっそく部屋の中に入ってみるか。
俺は、空室の札がぶら下がった扉の前に移動。
空室の札をとって中に入った。
そこは四方を壁に囲まれた、ものすごく狭い空間だった。
向かって正面の壁に細いテーブルが取り付けられており、その上の壁に小さい穴が空いている。
おそらくカードなどの受け渡しをするための穴だろう。
こういう部屋どっかで見たような…………ああ、教会の告解室か!
俺は背後の扉に
すると、それを見計らったように低い声があがった。
「カード情報の更新ですか?」
「違います。カードの発行をしてほしいんです」
「それは……カードを紛失したので再発行したい、ということですか?」
「いいえ、カードの発行を依頼したことはありません。このままだとミッションが受けられないので、それで……」
「ああ、そういうことですか。それなら事前説明が必要ですね」
壁の向こうにいる人はコホンと咳払いしてから、
「カルマカードの発行には料金がかかります。料金は銀貨1枚。
この場で発行を行うので多少お時間がかかります。ご了承ください。
あと、きわめて
「そうなんですか?」
「ええ。というのも、カルマカードの発行には懺悔が必要になるからです」
「……懺悔ですか?」
「いったい何の関係があるのかといぶかしむかもしれません。ですが、主に懺悔しない者のカードは
……そういうことなら懺悔せざるをえないか。
「ちなみに、懺悔の内容は本日のものに限られます。
したがって、まだ悪いことをしてないなら懺悔せずに発行できます」
へえ、そうなのか……。
「思い当たることはないのでカードを発行してください」
「わかりました。少々お待ちください」
ややあって、壁の向こうから呪文の詠唱のようなものが聞こえてきた。
もうすぐ俺の最初の
同じ日本人の
俺が特別な
ところが――――
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