第24話、推しとの約束

 さっきまで全世界に向けて、誰もが熱狂する可愛らしい配信をしていた彼女が、今は俺と一緒にサンドイッチを頬張っている。


 ソフィアが持ってきたお洒落なバスケットの中には、ハムとチーズとレタスを挟んだハムサンド、卵とマヨネーズが絡んだシンプルなタマゴサンドに、レタスやきゅうり、トマトなどの野菜が入った彩り豊かなサラダサンド、他にもたくさんの種類の美味しそうなサンドイッチが入っていた。その隣には、紅茶の茶葉が入ったティーポット、それからマグカップが二つ。


 ソフィア特製の優雅なモーニングセットで、サンドイッチの方は全て彼女の手作りだ。


『配信が終わった後にすぐ作ってきたの。具材の方は始まる前に準備して冷蔵庫に入れておいて、後は挟むだけの簡単な物ばかりだけど』

『い、いや……それでも十分凄いよ。というか、こんなにたくさん作るの大変じゃなかったか?』


『ふふっ、大丈夫。レンには朝からいっぱい食べて元気になってもらわないとって張り切ってきたの。配信してる時もずっと気がかりだったんだから』

『配信中も……って。スパラ3やりながらそんな事考えてたのか? そういえば凡ミス多かった気がするな、インク切れしたの気付かないまま戦おうとしたり』


『やっぱりレン、配信見てくれてた……? あ、あのね、試合にはちゃんと集中してたのよ。だってレンに良いところ見せたくて……でも気だけ先走っちゃって。ちょっと今日はポンコツ気味だったかも……』


 そう言ってソフィアは恥ずかしそうに頬を染めて視線を逸らすが、俺は彼女の言ってくれた事に朝から早速胸の高鳴りを抑えきれずにいた。


 推しが俺の為に良いところを見せたかったって、そんなの嬉しすぎて顔がニヤけるに決まってるじゃないか。しかしソフィアにそんなデレデレの顔は見せられない、彼女の前では頼りがいのあるクールさを演出したい。


 俺は顔の筋肉を引き締めて平然を保つように努める。


『いや、ポンコツなんてそんな事ない。今日のアリスちゃんも最高に可愛かったよ。昨日は俺に色々と世話してくれて、寝るのがいつもより遅くなっちゃっただろ? 寝不足なのに全然そんな感じさせないで、やっぱり凄いなって思ったんだ』

『確かに睡眠時間はいつもより短かったけど、昨日はすごくぐっすり寝れたのよね。レンに髪を乾かしてもらったり、膝の上に乗せてもらって、たくさん甘やかしてもらったからかな……』


 ソフィアは頬を赤くしながら、うっとりとした表情を浮かべてそんな事を言ってくる。こっちまで照れ臭くなってきた俺は、思わず顔を背けて頬を掻いた。


 そうか、俺とは逆にソフィアは昨日の出来事で安心して熟睡出来たのか。でもそれってつまり、俺が傍にいるとソフィアがリラックス出来ているという事で、本当に俺の事を信頼して受け入れてくれたという証でもある。


(本当にあの日、ソフィーに勇気を出して声をかけてよかったな……)


 迷子になっていたソフィーを助けて、今こうして彼女と穏やかで幸せな時間を過ごせている事がとても嬉しい。彼女も俺と同じ気持ちでいてくれるなら、これ以上に幸せだと思える事はないだろう。


 そうして他愛もない話をしながら、俺達はサンドイッチを食べ進める。


 朝食も食べ終わり一息ついた頃、ソフィアが思い出したように口を開いた。


『ねえねえ、レン。今度の休みにちょっと一緒にお出かけしない?』

『えっと、急にどうしたんだ?』


『あのね、実は今上映されている映画の中にすっごく見たいのがあって。でもわたしって一人で出かけるとほら……』

『あー、ナンパされるのか。確かに学校でも凄いもんな』


『うん……だからレンと一緒に行ければ安全だし、楽しい休日を過ごせると思うんだけど、だめ?』

『俺で良ければ喜んで。週末は特に予定もなかったし、むしろ誘ってくれてありがとな』


『やったぁ! じゃあレン、土曜日のお昼頃に出発でいい?』

『分かった。それじゃあ一緒に見に行こう。楽しみにしてるな』

『えへへっ、わたしもすっごく楽しみ!』


 ソフィアはとても嬉しそうに笑いながら、そして俺も推しと一緒にお出掛け出来る事が決まったのが嬉しくて思わず笑みが零れる。


 それから俺達は二人で仲良く学校へと向かうのだった。

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