企画入賞レビュー「その切れ味はカクヨムの辻斬り」


読み終えた時、衝撃で震え上がったことを告白せねばならないでしょう。
意外性のあるオチの中でも最上のモノ、それが「どんでん返し」です。
「どんでん返し」は単に読者を驚かせれば良いというものではありません。それまでの過程においてしっかりと伏線・布石が張られており、かつその答えが読者の心理的死角に入っていなければいけないのです。いうなれば極上のミステリーに近いものです。
そうそう狙って出来るものではないのです。作者がよほど悪戯好きか、切れ者で特別な才能を有していなければ作るのは不可能。
この作品はその難題を見事に克服してみせたのです。
ならば読者がすべきことは祝福と称賛以外にないといっても過言ではありませぬ。

この素晴らしい成功にどのような秘訣があるのかを探ってみれば、やはり設定のリアリティと幽霊になった兄貴のキャラクター。そして過去の出来事に関する弟の詳細な心理描写が鍵となっているように思えます。
リアリティと心理描写が密接に絡まった時、そこには没入感という至高の(あるいは魔性の)演出が成され、読者は物語の世界へと深く引きこまれるのですから。

読者が語り手に感情移入すればするほど、最後の仕掛けは切れ味を増すのです。
その鋭さは最早、暗中から不意をついて襲いかかる辻斬りのようなもの。
成す術もなく切られる他に選択肢はないといえるでしょう。

文句なしに入賞。稀に見る完成度へ、乾杯!